上級者・ツウ向けだと思います『中国美術全史』
前々回に『中国の美術 見かた・考え方』 という本をご紹介した際(※1)、コメントで『中国美術全史』(※2)という本もあるとご教示いただきました。
もちろん、図書館で借りて見ましたとも。
結論は……あかん、コレは上級者・ツウでないとあかんやつ……。
この『中国美術全史』は全4巻。
とりあえず、鷲生が興味のある唐の時代を扱っている第2巻を借りてみました。
図書館のカウンターで受け取った時の感想は……。
お、重い。
だけど、ページをぱらぱらめくってみると、写真が多くてもちろんカラー。
前に紹介した『中国の美術』が小さな白黒写真が主だったので、これだけでも「やっぱり大きい&カラーは正義!」と思い、自宅で読むのを楽しみにウキウキ持ち帰りました。
ちなみに、自宅の体重計で測ったら2.1㎏でしたよw
厚さは3センチです。
それだけ分厚いですし、使われている一枚一枚の紙がカラー写真が綺麗に印刷できるようなツルツルした厚手の紙ですしね……、とにかく重いですw
で。読み始めたんですが……。
これは読むのがツラい……。
まずは、この『中国美術全史』の22頁の真ん中あたりの文章を以下に引用します。
長いですが、その長さを見ていただきたいので……。
”晋の青磁は、三国時代のものと比べると、明瞭な差異が認められる。すなわち、器胎はやや厚く、比較的濃い胎色で、釉が厚く均一に施され、釉色は透き通って光沢と潤いがあり、青灰色を呈する。それらは主に生活用具であり、よく見かけるものとして、双系あるいは四系壺、鋪首や連珠文を装飾した青磁盆、透彫りの薫炉、及び尊、罐、碟〔小皿〕、耳杯、灯などがある。また造型もしだいに豊富になり、銅器や陶器を模倣した造型のほか、動物や禽鳥の形状に似せた器形も増加した。燭台として作られた磁羊・ 熊・獅子、辟邪の水注、鳥形杯、鷹壺、熊形灯、双鳥蓋盂などは、いずれも新しい工夫が凝らされ、斬新で優れた造形といえよう。例えば、江蘇省宜興の周処墓から出土した神獣尊は、内側と外側に施釉し、特異な造形を示している。すなわち、尊の上部に貼り付けられた獣面は、日を怒らせ、 あごひげ歯をむき出しにし、口に珠をくわえ、顎の下に長い髭がある。そして、器体の耳を獣の耳とし、器腹がそのまま獣の腹となり、4本の足が器腹に貼り付くほか、双翼、脊毛、尾も施されている。この獣の形状を器形と一体化させた造形からは、製作者の創意が見て取れよう。また、南京市石閘湖出土の西晋・永寧2年 (302年)の青磁獅形器、故宮博物院収蔵の青磁騎獣、 江蘇省江寧秣陵鄉西晋墓出土的青磁熊尊は、器形、焼成技術ともに極めて精美である。当時、人物・鳥獣・楼閣を堆塑した神亭壺が、江南地方で広く流行した。江蘇省江寧西晋墓出土の青磁神亭壺は、器身全体に施釉し、 腹部に4つの獣面と龍に乗った羽人を型抜きして貼り付けている。そして、 神亭壺の上部には双闕閣楼を施し、建物の周囲に25体の仏坐像を配するほか、8匹の熊と6羽の鳥が見られる。また建築の上層が四角楼と同廊をなすなど、初期の建築と仏像の様相を視覚的に示す資料となっている。”
↑コレ、このまんま改行なしに続いているんですよ。
で、内容は、ご覧のとおり出土品に対する説明なわけです。
こういう文章が続くと、文字で想像するのに限界を感じて「とりあえず写真を見よう」って思いますよね?……ですよね?(震え声)
し・か・し!
ないんですよ、この説明的記述に該当する写真が!
たまたまコレだけがそうなわけではなく、他にもそういう箇所がたくさんあるんです。
というか、写真が添えられているものには、≪図1-7≫といった表記はありますが、文章に対してちょっと少なすぎやしないかと……。
ジャンルによって多少違いがあり、例えば、建築よりは工芸品なら対応図像が多めという傾向はありますが、ただ、そもそも記述と画像を対応させるようには書かれていないように見受けられます。
文字によるモノの説明記述を延々と読むのは結構ツライ。
スペックを羅列した商品カタログを一から順に読んでいくのが楽しいという人には向いた本だとは思いますが。
鷲生の頭に思い起こされるのは、西洋美術史の名著、コンブリッチの『美術の物語』(※3)。
もちろん両者の性格が大きく異なるのは鷲生もよく分かっています。
ゴンブリッチの本は、確かあとがきで「高校生に向けて書いた」といった趣旨の文章があったはずですし、鷲生も大学2回生(教養課程)で読みました(英語の授業で。英文で一部を読みました。そこで日本語訳を知ったのです)。
初学者向けというのもあって、そのタイトル通り、ゴンブリッチ氏の語る「物語」としてスイスイ読めるんですよね。
ヒストリーはストーリーと同じ語源だとは皆様もどこかでお聞きになったことがおありかと思います(※4)。
素朴な意味では今でもそうでしょうし、こういう物語として語られる歴史から初学者は自身の興味関心を育てていくものではあると思います。
もっとも、ヒストリーをストーリーで語ることには陥穽もあります。
その語り手の主観に依存し、そのストーリーの中に納まらない史実の複雑さが切り落とされてしまう……(※5)。
『美術の物語』を鷲生が良書だとおススメするのは、そもそもゴンブリッチ氏の経歴そのものがちゃんとしていること、刊行以来ずっと読まれて「世界一読まれている美術史書である」という実績があること、何より、著者ご自身が「初学者向けの入門書ですよ」と断ってらっしゃるからです。
ただ、『中国美術全史』に話を戻すと、まだまだ中国美術について、ストーリーのレベルで概略を掴みたい段階にある鷲生にとって、今回の『中国美術全史』は歯ごたえがありすぎますw。
また、知らない単語がズラズラ並んでるのもしんどいw
「当時の金属加工技術には、銷金、拍金、鍍金、捻金、織金、砑金、披金、泥金、 鏤金、戧金、圈金、貼金、嵌金、裹金など、14種類にも及ぶ技法があり」(45頁)って言われても……。
このうち鷲生がリアルに想像できるのは渡金くらいです。
現在、大阪で「正倉院THE SHOW」という展覧会をやっていて(※6)、正倉院御物の瑠璃杯の再現模造を作る動画が展示されています(9月から東京でも開催されますよ!)。
そこで、金と水銀を混ぜたものを刷毛で塗り(灰色っぽい)、それを焼き網の上で加熱すると水銀が蒸発してキンキラキンの金メッキができあがるのです。
そうやって技法の一つ=渡金について具体的なイメージがわく一方、それだけに全くイメージの湧かない技法について「自分は知らない」という事実がもどかしい。
他にも、「坐仏は、禅定印を結ぶものもあれば、説法印となったものもある」(61頁)という記述もあります。
この○○印。仏様のハンドサインなわけですが。
もちろんネットでみればすぐわかるかと思います。
それに加え、鷲生は『超図解 仏像大事典』(※7)っつー本を買ったまま積読にしてたことを思い出しましたw
全体に、この『中国美術全史』を読むなら、その手前に読むべき本はたくさんあるように感じます。
もちろん今の時点で十分な知識があり、「噛み応えのある本を求めていた!」なんて方にはおススメです。
鷲生はこういう本があることを記憶にとどめつつ(ご紹介してくださった方、ありがとうございます!)、まずは入門書の『中国の美術』を3周くらい回して、柔らかめの本で基礎固めをしてから再チャレンジしたいと思います。
その過程で出会った本をコチラで発信していきますので、どうぞこれからもよろしゅうお願い申し上げます。m(__)m
*****
※1 ミュージアムのおともに! 『中国の美術 見かた・考え方』
https://kakuyomu.jp/works/16817139556995512679/episodes/16818792437067101406
※2 『中国美術全史』 2020-2024 全4巻 科学出版社東京(東京大学出版会発売)
http://www.sptokyo.co.jp/list/?p=816
※3 ポケット版の方をご紹介します。
『美術の物語 ポケット版』 2024年 エルンスト・H・ゴンブリッチ 著 天野衛・大西広・奥野皐・桐山宣雄・長谷川宏 訳 河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309257464/
「世界一読まれている美術史の本」という帯の文句があります。
丸善京都店でもこのポップ見ました。平積みで並んでましたよ。
※4 慶応義塾大学の先生の書いた文章らしきものが見つかりました。
「本来 history は『歴史』でもあり『物語』でもある」
https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2022-11-13-1.html
※5 中央ユーラシア史の大家、森安孝夫教授が「歴史小説」にお怒りでしたw
このエッセイにも過去記事で触れております。
第17話 ソグド人でソグド人でソグド人なんですっ……気宇壮大で意気軒高な『シルクロードと唐帝国』
https://kakuyomu.jp/works/16817139556995512679/episodes/16817330659842003485
「司馬遼太郎を読んで日本近代史をやりたい」「塩野七生でローマ帝国をやりたい」という理由で研究室にやってくる学生さんがおり、とっかかりとしてはいいけど、それらの小説と史料・歴史学文献との区別がいつまでたってもつかない学生に先生方が困惑するというお話も聞きます。
鷲生自身に降りかかってきたのは……。
鷲生は勉強しない学生だったとはいえ、一応は日本史学科を卒業しております。
在学中に、「京の女性史」をたどるプロジェクトの一環で、橋本遊郭の元遊女が梅毒が「頭に回ってもうた」状態で篤志家に面倒を見てもらっていたと地域のお年寄りから聞き取り調査したことがあります。
この経験から、2025年大河ドラマ「べらぼう」が遊郭を扱うことに疑問を呈したところ、エライ勢いで怒りの長文コメントがつきましてね。
書き手がずいぶんと怒ってることは分かるんだけど、文章の意味が伝わりづらく、その理由がさっぱり分からないという怪文書のようなもの。
そして、こんなことを言っていたのです。
「鷲生さんは、大河ドラマでちゃんと歴史を学んでください」と。
で。鷲生が「私、日本史学科卒なんですけど?」と応じると「そうなんですか。私は心理学科卒です。でも歴史学や民俗学に興味があります」ですと(だからなんやねん)。
その心理学科はテレビのサイコサスペンスドラマかなんかで心理学を教えていたんですかねw
愚痴が長くなりましたが、森安教授がお怒りだったように、歴史学とエンタメとは違いますよというお話です。
ですから、「歴史」を「物語」で読むのは、あくまで初学者の間にとどめるべきだと思います。
そして、中国関係についての鷲生の立ち位置は今のところここですw残念ながら。
「べらぼう」に関する件は、鷲生の日記エッセイで起こりましたし、その経緯を書きで書いております。ブロックしても複垢で絡んできたので、スクショも撮ってありますよ。
↓
「べらぼう」「遊郭」への批判を含む内容の記事は削除せざるを得なくなりました(経緯説明です)
https://kakuyomu.jp/works/16817330661485429107/episodes/16818093091951924946
※6 探訪記を日記エッセイにつづっております。
古代ファンタジーの書き手に嬉しい! 「正倉院 THE SHOW」
https://kakuyomu.jp/works/16817330661485429107/episodes/16818792436378723044
※7 『疑問がすべて解ける 超図解 仏像大事典』 2025 村松哲文監修 長谷法寿(仏画) 地人館編 朝日新聞出版
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