第1話 蛟龍〜水の拳〜 第十九節
店の外の窓から亜美が見張っている、というしんどい状況で食事を終えた那美と照真は、他の出入り口から逃げ出す、という事は
すると亜美が待ちわびていたかのように、
「お食事も済ませて準備は万全なようですわね、御槌那美さん、と…デカ娘さん」
余裕たっぷりな表情で言う。
「
流石にちょっとムッとした照真が言い返す。
それに続けて那美が明らかに不機嫌な表情と声で、
「こんな街中でやり合うつもりか、竜王院。どこに行ったって人目に付くだろう、それとも
と煽るように言う。こういう所は那美ちゃんも変にノリが良いんだなぁ……と照真はぼんやり思った。
言われた亜美も言われ慣れてるのか、まるで気にしていない様子で、
「今日はそんな野蛮なドツキ合いをしに来たのではございませんわ、ちゃんと別の勝負の場所を用意して居ましてよっ」
と言い、身を翻し歩き出す。
「別の勝負の場所……?なんだそれは……?」
疑問に思いつつ付いていく那美。
「あ、結局勝負はするんだね……」
乗せられやすい那美ちゃんもかわいいな…と思いながら照真も付いていく。
しばらくお城通り沿いを駅方向に歩いて行き、JRの高架を過ぎた辺りにある何やら騒々しい音が中から聞こえて来る店舗の前で、亜美は歩みを止めた。
「ここは……」
照真が先程歓喜の表情を見せて漫画を買い漁っていた本屋の向かい側の店舗で、一瞬だけ見て気付いては居たものの、目的の店では無いために特に気にせずに居た店だった。
「そう!こここそ市内府内のみならず、府外各地からも遠征して来る闘士たちが後を絶たない、福知山市内の格闘ゲーム闘技場の頂点にして聖地!!『遊SPOTペガサス』ですわっっっ!!!」
一気にそう言い放つと、また大袈裟なポーズでオーッホッホッホ!!と高笑いを上げる亜美だった。
店の外観はそれなりに歴史を感じさせるような古さで、外壁を兼ねた大きなガラスの採光窓には様々なゲームのポスターやカッティングシートが貼られてあり、店の前に居ても店内の騒々しい電子音や喧騒が聞こえて来る。
「なんだ、つまりゲーセンで勝負がしたかったんだ、竜王院さんは」
拍子抜けして呆れたように言う照真。
それを聞いて得意気な表情でニヤリと笑い、腕組みをする亜美。
「馬鹿馬鹿しい、行こう、照真」
同じく呆れ果てた那美は、照真に言うと歩き出した。
「……逃げるんですの?このわたくしの挑戦に対して」
目の前を通り過ぎようとする那美に不敵な笑みを浮かべた亜美が言う。
「何だと……?」
その言葉を聞いた那美の耳がピクリと動く。
「今まで善戦を重ねては
そう言いながら高笑いする亜美。
つまりあれだけしつこく挑んで来ていた割に一勝も出来て無かったという事である。
店内に入ろうとしたお客さんがビックリしてそちらを向く。
「よーし、良いだろう、やってやろうじゃないか。今日も貴様のお高く止まったその縦ロールに新たな敗北の二文字を刻み付けてやる」
振り返り、掌に拳を打ち付け、ズビシッ!!と亜美に指を突き付けて言う那美。
「よろしくってよ、わたくしこそ貴女を徹底的に叩きのめして床に這いつくばらせて、敗北の味と言う物をタ〜〜〜……ップリ味わわせてご覧に入れますわ。オホホのホ」
そう言いつつ店内に入って行く亜美。続いて那美も入って行く。
「やっぱり二人とも似た者同士だよ……」
そう小さく呟いただけの照真だったが、
「「似てない!!」ませんわ!!」
としっかり聞こえたのか、大声でハモリつつ否定する那美と亜美なのだった。
店の中に入ると、外とは比べ物にならない騒々しさで、あちこちに設置されているゲーム機からの様々なゲームの音や、格闘ゲームのキャラクターたちの声、そしてお客さんたちの会話が聞こえて来た。
そして亜美は店の玄関から真っ直ぐの導線を歩いて行くと、右手に設置されている格闘ゲームの
右側には一人の眼鏡を掛けた青年が座って女忍者のキャラクターを操作している。
亜美が隣に座ったが、一瞥しただけでまたゲーム画面に目を移した。
「おい、女王様がいらっしゃったぜ」
筐体の後ろで見物しているギャラリーが言った。どうやら亜美はこの店の常連で名物客のようだった。
「女王様と対戦か、竹下、しっかりやれよ」
短い髪をジェルで固めた青年がプレイしている青年に声を掛ける。竹下、と呼ばれたその青年は頷いて返す。
亜美が筐体下部のコイン投入口に100円玉を投入し、コントロールパネルのボタンを押すと、画面に『WAIT A MOMENT!HAVE A MATCH WITH ME! 』という文字が浮び、キャラクター選択画面に移った。
亜美は迷わず左から3番目の長髪の青年を選び、対戦が始まった。
那美と照真もギャラリーに混じりながら、試合の行方を見送る事にした。
「なるほど、野試合か、これは川に浮かんでいる船みたいだな、イタリア?の景色か」
那美が言う。
「そうみたいだね、世界中で戦うのかも」
照真がそう答える。
女忍者が扇子を懐から取り出して投げる。
すると亜美が操る長髪の青年は張り手のような技を出しながら扇子を避けた。
そして近付いた青年がしゃがみ足払いで女忍者を転ばせると、手から気合弾を発射した。
それを見た那美が、
「おい、今手から何か飛ばしたぞ!?」
と驚きながら照真に言う。
「ゲームだからね〜、色々不思議な技を出すんじゃないかな、あのくの一の扇子や今の炎の尻尾みたいに」
照真が応える内に女忍者は身体を回転させて尻尾のような装飾から炎を放ち攻撃する。
だが、亜美が操作する青年が両手を広げて画面奥に飛んで行き、その技を避けた。
それからの試合は、亜美の操作する青年が終始攻めのペースで展開し、見事一本も落とさずに亜美が勝利した。
画面の中でヨシッ!!と気合を込めた勝利ポーズを青年が取っている。
「いやぁ〜、やっぱり女王様は強いです、反射神経が違いますね」
と、負けてしまった竹下青年が席を立つ。
フフン、と澄まし顔で次の相手と戦う亜美。
だが対人戦ではなくCPU戦だ。
そして画面内の青年が相手を高速肘打ちでふっ飛ばすと、亜美は振り返り那美を見て、
「さぁ、勝負ですわ御槌那美!!」
と言ってシートの隣をバンバン、と手で打った。
「……」
名指しで呼ばれた那美は、隣に座ると亜美に
「それで?どうしたら良いんだ?」
と聞いた。
亜美は軽くズッコケると、
「まさか、プレイした事が無いんですの!?」
と驚いたように訊く。頷く那美。
「仕方無いですわね……ここに100円玉を入れて……」
始め方を教える亜美。説明を聞きつつスタートボタンを押す那美。
キャラクター選択画面に移り、
「この中から貴女の分身になって戦うキャラクターを選ぶんですわ……時間制限がありますからすぐ選んで……ウ"ッ"!?」
那美はレバーを動かしてキャラクターを選んでいたが、右端の道着姿のキャラクターを選んだ。
ギャラリーの中にもざわざわ……ざわざわ……と動揺が走る。
「えっ?何?どうしたのみんな?」
理解が追い付かない照真が焦りながら言う。
ふと亜美の方を見ると頬に汗が一筋流れていた。
「おい、女王様相手に『アレ』選んだぞあの子……」
ギャラリーの一人が呟く。
そうする内に対戦が始まった。
――――結果から言うと那美の負けだった。
それも文句の付けようの無いPERFECT2本負けで。
床に突っ伏して悔しさに床を叩く那美。
それを亜美は大袈裟なポーズで見下ろしながらオホホホホ、と笑っている。
しかしその額には汗が一筋流れていた。
「あんなに強いキャラを使っていながらあんなに無様な敗北を晒すなんて、那美ちゃんはよわよわでちゅね〜」
顔の横に両手を当てて振りながら那美を煽り倒す亜美。子供か。
「くっ……お前、ずっこいぞ!!手から弾飛ばすし、こっちの攻撃は全部避けられるし、最後の飛び蹴りだって完全に入っていただろう!あれは!!」
完璧なはずのタイミングで叩き込んだはずの飛び蹴りを亜美が操る青年が放った対空必殺技で物の見事に撃ち落とされた事を思い出し、悔しさのあまり子供みたいに肩をいからせて抗議する那美。かわいい。
「あれはそういう必殺技なんですゥー。ちゃんと返す方法だってあるんだからズルでも無いんですゥー」
口を尖らせて言い返す亜美。もう煽りたい放題だ。
その間、ゲームを放置していた亜美に、ギャラリーの一人が気を遣って乱入し、
「あの……対戦はやらないの……?」と声を掛けてきた。それに対して亜美は、
「わたくしは今日はこれで帰らせて頂きますわ、後は貴方がたで遊んで下さいまし」
と答えて、悔しそうにぐぬぬ顔をしている那美に、
「それじゃ、参りましょうか、わたくしの勝利の宴の場へ」
と言った。そして、
「は?何だそれ聞いてないぞ!」
と、頭の上に?マークを浮かべている那美を
「おい、待て!竜王院!!」
そう叫びながら出入り口近くの手洗い場で手を洗った那美は、亜美の後を追った。
その後をやれやれ、といった表情で照真も付いて行くのであった。
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