25 緑の王


SIDE:メリア



 謁見の間にて。


 私の態度に業を煮やした居並ぶ者たちから怒号が飛び交う。

 跪け、頭を垂れよ、と。


 …

 ……

 ………


 こわ〜っっ!!


 王様!?

 早く何とか言ってよ!!

 あなた分かってるんでしょう!?



「えぇーーいっっっ!!誰か、この小娘をひっ捕らえんか!!」


 誰かのその言葉に反応して、前代未聞の事態にどうすれば良いか迷っていた近衛が動き出そうとする。

 グレンも渋々ながら動かざるを得ない様子。



 はぁ……どうやら伝わってないみたいね。

 しょうがない、『姫様』のことは気になるけど……撤収するしかないか……



 と、私が諦めかけた時。



「静まれっっ!!!」



 それまで黙っていた王様が一喝する。

 それに伴い、その場は一瞬でシーン……と静まり返った。



「全く……取り乱しおって。見苦しいぞ」


 いや、あなたがずっと黙ってるからでしょう。


 まぁ、その意図は分かる。

 だからこそ、私も何でもない風を装って堂々としてなければならなかったのだけど。

 例え内心で焦っていたとしても。



「娘よ。何故、我の前で膝をつかぬか?」


「私は『森の魔女』の後継者。彼女の全て・・を引き継いだ者。聡明なるデルフィア国王陛下であれば、そう言えばお分かりになるでしょう?」


「貴様っ!!態度ばかりか……無礼な言葉は慎めっ!!」


 私の言葉に、再び激昂して叫びを上げる高官らしき人物。

 だが。


「静まれと言ったぞ」


「し、しかし陛下!!この娘の態度は、余りにも目に余ります!!我が国に対する侮辱ですぞ!!」


「控えよ。今は我とメリア殿が話をしているのだ」


「くっ……失礼しました……」


 重ねて黙れと言われて渋々ながら彼は引き下がる。

 ……いや、本当にごめんなさいね。


 でも、試すような真似をしてきたのは、そちらの王様だから……そんなに睨まないで。



「なるほど。確かにあなたは真に・・『森の魔女の後継者』のようだ。試すような真似をしてすまなかった」



 デルフィア王のその言葉に、再び謁見の間がざわめく。

 一国の王が謁見の間で謝罪したのだ。

 それも、まだ年端もいかない小娘に対して。

 それは有り得ない事だった。



 そして、彼は玉座から立ち上がって……私と同じ高さまで下がってきた。

 それも、本来なら有り得ない事。



「では、改めてご挨拶を。私は『森の魔女』……こと、『緑の王』メルセデス=ウィラーの後継者、メリアドール=ウィラーと申します。デルフィア国王陛下にお会いできたこと、嬉しく思います」


「デルフィア国王ゼノン=デルフィアだ。こちらこそお会いできて嬉しく思う。そして……娘を救ってくれてありがとう」


 そう言って頭を下げるゼノン王の姿に、再びその場の者たちは驚愕する。

 それはまるで対等なものに対する態度のように見え……



「へ、陛下……メリア……様?とは一体……?」


 おそるおそる高官の一人が自身の主に声をかける。

 王は彼を一瞥してから問いに答える。


「お前たちも『魔女の森』がどの国にも属さぬ地である事は知っていよう」


「は、はい……森を囲む各国間の取り決めで、そうなっている……と」


「その認識は間違いではないが……正確には、『魔女の森』……いや、『ウィラー大森林』を領土とする一国家として各国が承認しているのだ。その統治者は『緑の王』メルセデス=ウィラー……いや、いまはその後継者であるメリアドール殿と言う事になるな」


「な、なんと……」


 王の説明に皆が絶句する。


 そりゃあ、そうよね。

 姫様の呪いを解いた凄腕の薬師とは言え、ただの平民の娘と思っていたのだろうから。


 それが、実は国家元首だと聞かされれば、驚くのも当たり前である。



 まぁ、『国』と言ったって、その国力はデルフィア王国などの周辺国とは比べるべくも無い。

 一応、少数民族が暮らす村が点在しているし、彼らからも王として認識されてはいるのだけど。



 だけど、王は王だ。

 その立場はあくまでも対等。

 だから私は、ゼノン王の前に跪く事は出来なかったのだ。



「さて……場所を変えて改めてゆっくりと話がしたいが、よろしいか?」


「ええ。ここでは落ち着かないですものね、お互いに」


 この場は多分、私を試すために用意されたのだろうから。


 それに、今この場に姫様に呪いをかけた者……あるいはその一味がいるかもしれない。

 私としてもここで話をするよりはそちらの方が有り難かった。

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