22 報告



SIDE:メリア



 薬の調合は終わった。

 グリーナさんの許可も得られたし、あとは姫様に飲ませるだけなんだけど……





 再び寝室の姫様の傍らにやってきた私は、彼女の上半身を抱き起こして、口元に薬瓶を持っていく。


 しかし……



「……困ったわね。どうやって飲ませようかしら……」


 意識を失っているので、自発的に薬を飲むことができないので、どうにかして飲ませなければならないのだけど……どうしたものか。


 注射器とか点滴とかあれば良かったのだけど。

 生憎とこの世界では・・・・・・見たことがない。



「グリーナさん、普段はどうしてるのですか?」


 少なくとも水分は欠かせないのだから、どうにかして飲ませてるはず。


「瓶の口を含ませて、ゆっくり少しずつ、時間をかけて何とか……ですね」


「ですよね」


 それで上手く飲み込んでくれれば良いのだけど……まぁ、それしか無いか。



 私は姫様の口を開いて、瓶の口を咥えさせ……こぼさないようにゆっくりと薬を口に含ませていく。

 先ずはごく少量を……コク、と嚥下したのを確認して、しばらく時間をかけて薬を飲ませていく。














「……ふぅ。良かった、全部飲んでくれたわ」


 途中、グリーナさんやイェニーに手伝ってもらいながら、何とか必要な分量の薬を飲ませることができた。


「どれくらいで効果が現れるの?」


「吸収して身体の隅々まで巡って、それから解呪の効果を発揮し始めて……姫様の体力次第なところもあるけど……そうね、順調なら夕方までには意識を取り戻せると思うわ」


 今はまだ朝早い時間帯だけど、どんなに早くてもそれくらいはかかるでしょう。












SIDE:グレン



 メリアの薬の調合が終ったとの報告を受け、俺は再び陛下のもとに報告に上がる。


 今日は姫様の件を優先するように通達が出ているため、それほど時間もかからずに執務室の中へと通される。






「陛下、お仕事中失礼いたします。グレン参りました」


「うむ、ご苦労」


 執務室の机で書類仕事をしていた陛下は、こちらをチラ…と見ただけで仕事の手は休めない。

 相変わらずお忙しそうだ。


 本当であれば、姫様のお側に付いていたいだろうに……



 デルフィア王国の国王であらせられるゼノン=デルフィア陛下。

 30代後半の年齢よりは若々しく、普段から鍛えられた肉体は王者に相応しい覇気を纏っておられる。

 しかし、今は心労のためか少しお疲れのご様子。


 メリアの薬が効いて姫様がお目覚めになれば……その心労も無くなるはず。



「『森の魔女』の後継者、メリア殿の診察結果をご報告いたします」


「……原因が分かったのか?」


 今度は手を止めて、こちらを見ながら仰る。



「はい。古代の呪い……『黒蛇呪』との事でした。普通であればもう既に命を失っていてもおかしく無かったところ……姫様が『聖女』であるが故に呪いの進行を遅らせることが出来たのだろう…とも」


「教えたのか?」


「いえ、彼女は診察の中でそれを見抜いたそうです」


「そうか……真に・・森の魔女の後継者なのであれば、それも道理か」


 ……?

 それは、どういう意味なのだろうか……?


 陛下の言葉を少し疑問に思ったが、敢えて聞き返すようなことはしなかった。




「それで?解呪は出来そうなのか?」


「そのようです。特別な魔法薬により……早ければ今夕には目が覚める、と。姫様の体力次第とも言ってましたが」


「そうか……何れにせよ、直接礼を言わねばならぬし、早くこいつを片付けないとな。全く……こちらの都合などお構いなしに仕事は積み上がるばかりよ」


 と、ため息を付きながら陛下は仰る。


 事務机の上には書類がうず高く積み上げられ、そのお気持ちは良く分かるが……残念ながら俺には肩代わりは出来ないので無言で頷くにとどめる。




「では、私はこれで失礼します。また動きがありましたらご報告いたします」


「うむ。……あぁ、ちょっと待て」


 執務室を辞そうとしたとき、陛下に呼び止められた。



「呪いだった……と言う事は、意図的に娘を害そうとする者がいるのは、もはや決定的だ。メリア殿も襲撃されたとのことであるしな」


「はい。なので、城内の警戒レベルは現在は最大まで引き上げてるところです」


 その可能性は以前から考えられていたので、もともと普段より警戒レベルは高いものだったが……先のメリアへの襲撃を受けて最高レベルの警戒態勢となっている。



「それで、『聖女』の命を狙うなど……いったい誰にどんなメリットがあると思う?」


「それは……まさか?」


「今はまだなんとも言えぬ。だが、心には留めておけ」


「……はっ!」




 そして、俺は陛下の執務室を後にした。

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