19 運命の扉



SIDE:グレン


 父と共に陛下にお目通りし、姫様の診察の許可を得てからメリアのいる客室へとやってきたが……

 何があったのかは見れば直ぐに分かる。

 聞けば毒殺もされかけたらしい。


 どうやら姫様の治療を妨害しようとする輩がいるらしい事は分かっていたが、こんな強硬手段に出るとは……

 敵も相当焦ってるという事か。



 しかし、こうもやすやすと暗殺者に侵入されるとは……城内の警備は一体どうなってる?




「それで、グレン?『姫様』の診察許可は得られたの?」


 自分が狙われたというのに先ずそれを聞いてくるとは、彼女の胆力は相当なものだ。

 それとも、命を救うという使命感がそうさせるのか。



「はい、陛下の許可は頂きました。直ぐにでも診て欲しいとの事です」


「分かったわ。案内してくれる?……あぁ、そうだわ。この部屋の後始末は任せても?」


「もちろんだ。貴女を危険にさらしてすまなかった……。これ以上余計な横槍が入らないよう、騎士団の精鋭たちが全力をもってお護りすることを約束する」


 メリアの問には父が答える。

 不手際を詫び、警備体制の強化を約束した。



「イェニー、引き続きメリアの護衛を頼みます」


「はっ!!(今度はメリアの側を離れないようにしなければ……)」



「……こうなると、姫様の方にも暗殺者が差し向けられる可能性があるのでは?」


「流石に姫様の警護は厳重で暗殺者の付け入る隙など無いと思いたいが……警戒するようには伝えておこう」


















「……毒耐性、ですか?」


「ええ。『姫様』は私みたいに毒が効きにくい体質だったりしないかしら?……さっき私に使われた『マシネラの毒』は超強力なもの。あんなものを入手出来るならとっくに姫様に対して使われてたのでは……って思ったのよ。でも、伝え聞く症状とは合致しない。つまり毒は効果がなく、それが分かった時点で別の手段に切り替えた。……呪いとかね。あるいは病気に見せかけるために最初からそうしてるとも思えるけど……こんなあからさまな手段で妨害してきてるし、何とも言えないところね。まぁ、それも診せてもらえれば分かると思うわ」



 姫様の部屋に案内する道すがら、メリアがそんな事を口にした。

 彼女の推論は的を射ているように思える。


「姫様に毒が効きにくいと言う話は聞いたことがありませんが……筋は通っているように思えますね。あぁ、もうすぐそこの部屋です」


 王族の居住区画。

 厳重な警備体制が敷かれた場所であり、ここに入れる者はごく限られる。

 多くの近衛騎士達が巡回し、例え高位の貴族であろうとも許可を得ていない者は不審者として拘束される。

 当然ながら俺達は事前に許可を得ているので、問題なく通行できるが、要所で近衛に会うたびにその証を検められる。

 俺も近衛の所属なので彼らは顔見知りなのだが、そこは徹底しているところだ。



 姫様の部屋の前には近衛騎士が二人立っているので、用向きを伝える。


「姫様を診察してくださる薬師の先生をお連れした。お通し下さい」


「グレン殿、話は聞いております。どうぞお通りください」


 入室許可を得た俺が扉をノックすると、扉は中から開かれる。

 そして、姫様のお付きの使用人である年配の女性が部屋の中に招き入れてくれた。














SIDE:メリア



「どうぞお入りください」


 物々しく厳重に警備された王城の一画をグレンに案内され『姫様』の部屋に辿り着く。

 そして、メイドらしき年配の女性に迎えられ、私達は部屋の中に入った。


 中は更に廊下が続いていて、左右に幾つもの扉が。

 そして突き当りにも扉がある。



「グレン様。大変申し訳ありませんが、ここから先は殿方はご遠慮下さい」


「ええ、承知しております。イェニー、頼みます」


「はい、お任せください」


 男子禁制ね。

 まぁ、王族の女性の部屋なら当然か。

 グレンはイェニーに後事を託して、ここで待機となる。







 廊下の奥の扉、その先は居間になっていた。

 そこには一人の女性騎士が居た。


 歳はイェニーより少し上くらいか。

 と言うか、多分この人は……



「イェニー、任務ご苦労さま」


「姉さんも、お疲れ様。……あ、メリア、この人は私の姉で近衛騎士のグリーナよ。姉さん、こちら『森の魔女』の後継者のメリアさん」


「はじめまして、メリア様。どうか姫様の事、よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げるその女性は、イェニーに良く似た容姿をしていた。

 二人並べば姉妹だということは直ぐに分かるだろう。


 たしかイェニーは平民だったはずだけど……これほど王族の側で護衛にあたっていると言う事は、相当に優秀で信頼されているのだろう。



「姫様は寝室でお休みされてます。こちらです」




 そして、いよいよ私は『姫様』と対面することになる。


 果たして彼女の病気とは……

 予想通りであれば、更なる厄介事が待ち受けているに違いない。

 それは……きっと、私の運命にも大きく関わってくるだろう。


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