第6話,ハーフリングのことを知ろう!(2)

しばらくお母さんの腕に抱えられて移動して行くと畑の先に少しひらけた空間に出た。


そこにはこれまた広大な範囲に広がる建物があり、ハーフリングが目まぐるしく動いているようだ。


その建物は端的に言うと壁のない工場というような構造で、漫画に出てくるような大きな鍋に畑で見たツボの中身を注ぎ入れて加熱したり、それによって煮詰められたどろどろの液体を麻布の様な物にしみこませていたり、その布を藁を引いた場所に丁寧に並べている様が観察できた。


恐らくああやって乾燥させることで商品が完成するんだろうなぁ。


まぁ、ゲームでは見られない景色に興味津々ではあるがそれはまた今度でいいでしょう。

今は我が愛しのお父さんに会いに来ているんですし!


「あなた~、グリムちゃんがあなたに会いたいって~」


そう言って工場の外側で安楽椅子を漕ぎながら、僕の顔ぐらいあるバカでかい棒付きキャンディーをぺろぺろしていたクソガキお父さんのもとにお母さんは僕を連れて行ってくれました。


「おお!マイハニー!グリム!!俺の宝物たちがわざわざ会いに来てくれるなんて!俺は絶対ダークサイド一の幸せ者だよ!」


跳ね起きるように安楽椅子から降りたお父さんが持ってたクソでかキャンディーを放り投げてこちらに駆け寄ってくる父はそらぁもうニッコニコであった。


あ、通りがかった小人族が落ちたキャンディーをくすねていった…。


「ところで今日は一体なんでこんなところまで来たんだい?グリムまで」


「この子がお父さんが働いてるところを見たいっていうから」


「なんだって!グリムが俺のカッコいい姿を見たいなんて!!よーし、お父さんに何でも聞いていいんだぞグリム!!」


そんなこと言ったかなぁと思いつつ、何でも話してくれるそうなのでそういうことにしとこうと思います。

それにカッコいいどころかさぼって飴舐めてるようにしか見えなかったけど。


「お母さんから聞いたんですけど、お父さんはここら一体の大地主さんなんですよね」


「そうだね!ケシャヘンは特殊な植物で、ここらでしか取れない上に栽培が難しいんだ。でも俺の曾お爺さん、つまりグリムの曾曾お爺さんが栽培を可能にしてね。その結果莫大な富を築いた。その金を元手に当時ここらを支配していた砂人族ザンドマン達から土地を買ってね。この大農耕地を築いたのさ!今では殆どすべてのハーフリングはこの農場での作業と工場で働いているんだよ!そしてそのすべての事業の権利を持つのがグリムのお父さんなんだぞー」


のけ反るほどに自慢げに胸を張る父。


「殆ど全てですか?ということはお父さんがハーフリングの王様ということですか?」


そういった僕の言葉に少しぽかんとした後、お父さんもお母さんも笑いだしてしまった。


「ああ、そっか。グリムは何でも知ってて物分かりもいいからうっかり忘れてたけどまだ1歳だもんなぁ!太守様にお会いするのは3つの時だもんね」


お父さんはゆっくりと僕の頭をなでるとニコニコと教えてくれた。


「いいかいグリム、ハーフリングには同族の支配者がいないんだ。俺たちは皆太守様の翅の下にて生きるだからね。総ては太守様の御心のままに」


気付けば周りの人たちも、お父さんもお母さんも皆同じ方角を見ながらこうべを垂れてむき出しになった首の上で祈るように手を組んでいた。


一糸乱れることのないその動きはどこか人形的でもありゾッとするものがあった。


「うーん、どうやら小人族ってのは思ってたようなかわいらしいファンタジー種族じゃなさそうですねぇ」


小さな声でそう呟いて、皆が祈っている先を見たが、そこに何があるのかは分からなかった…。







あれから色々この村の事を聞かせてもらった。


太守様はハーフリングを愛しており、その頂点に君臨しているが統治はしない。

この村に住む種族はハーフリングのみであり、それは太守様がお決めになったことである。

ハーフリングという何の戦闘力もないような種族が、高価な交易品を扱っているのに何の襲撃もなく穏やかに暮らせるのは、ひとえに太守様のご威光があるからである。


村には農業従事者以外ではほとんど職業の様な物はなく、必要になると村の外から人を呼ぶことになっている。

作物の半分は太守様に収めることになっており、もう半分を交易品として取引して収入や物資を得ている。


外部との取引は思っているより頻繁で、週に一度は村に様々な商人がやってくるという。


基本的に聞いたことは何でも答えてくれたが、太守様とは一体何かという問いにだけは、


「「会えばわかる」」


というものだった。




……………怖っ!!

何でちょっと怪談じみてるんですかねぇ!


翅って何ですか!?


こんな宗教っぽい感じゲーム時代では全然なかったんですけど!


3つになったら何させられるの??


それ僕以外の子供をあんまり見ないこととなんか関係あるの!?


他種族からの侵略を完全に躊躇させるような存在が一個体として実在しうるの?


色んな事を考えたが、一先ずは分からないというのが答えだ。

少し怖いが、3つになれば分かるとのことなので楽しみにしておくしかないのだろう。


目下僕が興味がわいたのは、数日後になると来るという他種族の行商隊の事であった。

この世界の外の事や、ゆくゆくはこの村を出ていくために必要な事を聞けるチャンスかもしれない!

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