第7話 昼2 出発2

 『隣のメシヤ亭』の窓側ソファー席に、白いシャツを着たズボンのポケットに手を突っ込んだままのレウと、黒いレザージャケットとレザーパンツを履いたポニーテールの眼鏡をかけたイザベラと、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンが座り、ウエイトレスに注文をしていた。


 ウエイトレスのリアが伝票を片手に鉛筆を持ち、復唱する。


「親子丼が一つとカツ丼が一つ、鮭茶漬けが一つ、おにぎり弁当が三つでよろしいですね?」


 三人は頷き、ウエイトレスのリアが言う。


「ご注文承りました。出来ましたらお持ちしますので少々お待ちください」


 ウエイトレスのリアはそう言ってテーブルを離れ、店奥の厨房へ入っていった。


 薄茶色の簡素なズボンにのポケットに手を突っ込んだままのレウが、店の中を見渡した後、不思議に思い口を開いた。


「見かけねぇ顔が多いな」


 いつも同じ時間で顔を見合わせる、いつもの常連客はもちろんいるのだが、その客以外にも見たことのない客が十名ほど座っていた。


 特にレウたちが座るソファー席の、窓側とは反対のバーカウンター側のソファー端の席に、風貌がいかにも山賊風の荒くれ者っぽい三人組が座って汚い声を上げていた。

 荒くれ者っぽい三人組の彼らの席は、昼間からビールの空のジョッキやつまみの皿や串や骨などで散らかっていた。


 レウとイザベラとマーリンは顔を見合わせ、口を閉ざしてその荒くれ者の三人組の言葉に耳を済ませた。

 聞こえてきた言葉は、貴族、襲撃、金払いが悪い、結婚、誘拐、強盗、遠出、紅蓮の女剣士……、と物騒な単語がちらほら聞こえてきた。


 レウが横目でちらりと彼らを見た後、口を開いた。


「学生祭ほんとに居なくて大丈夫なのかこれ」


 指貫グローブをはめたポニーテールのイザベラが、眼鏡をくいっと上げて口を開く。


「学生祭には興味ありませんが、できるだけ早く帰ることにしましょう」


 薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンが言う。


「……マリエッタ、心配……」


 低く唸って考える白いシャツを着たレウと、腕を組み悩む指貫グローブをはめた眼鏡のイザベラと、眉間にしわを寄せて悩んだ顔をしているピンク髪のマーリンの三人は、注文がテーブルに届くまで、そのまま口を開くことはなく、考え込んでいた。


 ウエイトレスのリアが料理を運んできて、その料理をテーブルの上に置いていく。


 黒いレザージャケットを着てレザーパンツを履いている眼鏡をかけたポニーテールのイザベラの前に親子丼を、簡素なズボンのポケットに手を突っ込んでいるレウの前にカツ丼を、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンの前に鮭茶漬けをそれぞれ置く。

 最後に銀紙に包まれたおにぎりが三つとから揚げが入ったおにぎり弁当を三つ、テーブルの上に置いてお辞儀をし、ごゆっくりどうぞー、と言ってまた厨房へとウエイトレスのリアが引っ込んでいった。


 イザベラが親子丼を口に含んで、それを租借して味わい、胃の中に落とし込んでから言った。


なら一日で二時間上限で飛行できるけど、わたしの使役してるモンスターって、殆ど二人乗りなんだよねー」


「一人走ればいいだろうが」


 と、カツ丼を食べつつ、レウがそう言った。


 イザベラが親子丼を食べる合間に、口を開く。


「最悪そうするしかないだろうね。一人は後で到着して、二人だけ先行してロードネスまで帰るか……」


「計算だと、行きは最短で三日。拠点ぶっ潰した帰りは最短で二日ってところだな」


 と、カツ丼を口にしながらレウがそう言った。


「全部で最短五日か……、きついねー」


 と、親子丼を食べるイザベラがそう言う。


 レウが手を休めて口を開く。


「今から出発するから、ぎり学生祭の当日昼か、その夜かだな」


「……きつい……」


 鮭茶漬けを食べていたマーリンがボソッとそう言った。


 三人は結局、学生祭に間に合うように帰る良い案が浮かばないまま、食事を終えた。


 暫くくつろいだ後、白いシャツを着たレウと、指貫グローブをはめ眼鏡をかけたポニーテルのイザベラと、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンは、銀紙に包まれたおにぎり弁当を手に持ち、会計を済ませて店を後にし、目的地のソーモンギルドの隠し拠点へ向けて出発したのであった。

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