第8章 遠くへ。。。もっと遠くへ
タケシの気持ちは酷く荒みかけていた。
詰めるだけ詰められる荷物を
愛車のムーヴキャンパスベージュと白のツートンカラーの車に詰め込んた。
もうこの生れ育った場所から離れたい。。。
誰も信じられない。。。
知らない場所に行き
そこで安らかに暮らしたい思いが溢れていた。
大家さんにはLINEでお詫びの文面を残し
夜中の2時に住まいを後にした。
国道21号線から宛のない道を進み始めた。
どこにいこうか。。。
そんな思いがタケシの脳裏に浮かびながら
車を走らせた。
ある高速の標識を見つけ
(金沢か。。。学生の修学旅行以来だよな。そっちに行ってみるか。。。)
タケシは働いても安月給だった。何故、一人全てを捨て旅に出る資金があったのかと言うと
親戚の叔母の最後の面倒を観ていた。
彼の兄弟と縁が切れる原因でもあったが一番、タケシを卑下していた叔母の最後を看取り、その遺産が少しばかり入ったからだった。
その遺産もすずに半分以上使い果たしその残りで自分の最後の行先を決めようとしていた。
高速の入口を通り抜け本線にはいる。
しばらくすると京都方面の標識と福井方面の標識が現れてきた。
インターチェンジをあとに福井の方へ向かった。
単調な直線道路。。。流れてく光の数々。。。
きっとドライブだけであれば綺麗だなとか夜景が素晴らしいという感情も湧いてきたのだろう。
しかし、今のタケシには無機質に流れてく風景だけであって、何も感情さえも湧かなかった。
ただのあてのない旅。。。
何km走ったのだろうか。。。
そして何時間車を走らせたのだろう。。。
周りはうっすらと朝を迎える朝焼けがぼんやりと
水平線から見えてきた。
あるパーキングエリアの標識を目にする。
パーキングエリアまであと13kmと。。。
(少し休憩するか。。。)
暗闇だったそらが薄らと青色と黒色と白色のコンストラストを描き朝焼けを迎えようとしていた。
あるパーキングエリアに車を停めた。
バタンっと車のドアを閉めぐーっと背伸びをした。
ざばーんと波打ちする音が聞こえてきた。
ふと音のする方へ目を向けると
高速道路には珍しく砂浜と隣接しているパーキングエリアだった。
売店の横には砂浜に入れる木材で作られた階段があった。
タケシはゆっくりとその方へ歩き出した。
(へぇー、こんな所から砂浜へ行けるんだ。。。)
階段を降り砂浜へと進んだ
ザクっザクっと砂を踏む音。。。
波打ちする音。。。
海鳥が鳴く。。。
タケシは砂浜に腰掛け
太陽が顔出そうとしてる水平線を
眺めていた。
自分の息をする音が静かに一瞬とまり
深いため息をつく
(ふっ~~~)
頬に暖かいものが自然に流れていた。
(自分の今までの人生って何だったんだろう。。。家族と言う暖かな暮らしもなく、いつも両親は喧嘩ばかりしていた。兄と呼べるものもいたがいつも自分を卑下していた。親類も兄との比較対象としか見ていない。。。ただ、自分は温もりが欲しかっただけなのに。。。信じていたすずにも利用されただけだったんだ。。。俺はあの場所にいるべきじゃない。。。消えてしまいたい。。。)そんな言葉がタケシの頭の中で独り言が木霊する。
ポケットから1本のタバコを箱からとりだし
ライターで火をつけ
思いっきり吸い上げ
空に煙を吐く
舞い上がるタバコの煙は糸のように上り
やがて消えてく。。。
(どこへ行こうか。。。東尋坊の方へ行くか。。。)
この時のタケシの瞳には光など無かった。
全てが無機質に見えていた。
水平線から昇る太陽が普通ならば綺麗だと言う感情もその時のタケシには感じなかった。
(とにかく、誰も知らない場所へ行きたい。。。
遠くへ。。。もっと遠くへ行こう。あの場所から離れる為に。。。)
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