嘆願

どうか、ああどうか。彼を殺してください。海辺で微笑む彼を殺してください。私の胸を貫くこの刃で今すぐに刺し殺してください。


「それは彼にやられたのか?」


なんということでしょうか。まだ彼の心臓が動いている。早くしてください。血がダラダラと流れて苦しいのです。空気が穴からゴボゴボと抜けて辛いのです。でも、この感じている痛さは今までの息苦しさからすれば、これは些細なことなのでしょう。血が抜けて空気が抜ける度に心が軽くなってゆきます。辛く酸っぱい走馬灯はとっくに通り過ぎました。

お願いです。胸を刺して絶命させたあとは、惨たらしくぐちゃぐちゃにして、細切れの死体で私の棺桶を彩って欲しいのです。


「殺すのはいいけどサ、それは誰にやられたんだ」


誰に…?


「そう。そのってのがやったのか?」


……胸を刺したのは誰か、ですか?

これは私がやりました。大きな代償を払うためです。私の人生で23回目。臓器を使うのは6回目。心臓を使うのは初めてですね。

早くしてください、彼が生きているだけで虫が肌を這ってゆくのです。


「ア?お前……どういう」


彼は一緒に生まれた男性です。血を分けた双子の男です。私が苦しいから彼は幸せに、彼が楽しいから私は深く悲しむのです。


最後くらい、死を同価にさせてください。早く、殺してください。私の白く綺麗な死体を、裏表ひっくり返した彼で装飾してください。


このままでは私は必ず地獄に行きますが、彼は極楽に行くのでしょう。

しかし、地獄行きの私を裏になった彼の腸でネックレスを作り、肺で帽子を作って皮の布団でくるめば、地の果てまで一緒に行けるはずです。

いつまでもいつまでも、一緒にいられるはずです。


どうか、時間がないのです。早く……はや…………



…………

……


「…………………」


俯瞰『洞窟の怪物は女の死体を丁寧に拭い、山に埋めてあげました。数年後、そこには大きく華麗なハナニラが咲きました』


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