09◆寮での二悶着

寮生活ってことは、丸1日を学校というコミュニティの中で過ごさなきゃいけないってことだ。

それは、学校が憂鬱な人間にとって、逃げ道がなくなるということになる。

…終末、キタコレ~!


「はぁ…なんで造花がこんなとこに…?」


あれから一人で学校をかるーく見回ると、特に予定もないので荷解きをしに寮に来てみた。人生初の寮暮らしだ。

私の部屋は、女子寮2階の206号室。流石、生徒数が少ないから一人一部屋。私なんか一人の時間がないと無理なタイプだし、ありがたいね。

ドアを開けると、実家から郵送した特大ダンボールの山々が出迎えてくれる。


…と、そこまでは良かったんだけど。

何故か、部屋の備え付けの学習机の上に、アガレスと会った時に使った白いバラの造花が、1本だけ置いてあったのだ。

おかしいな…確かに、アガレスとの一件もあってあの4本は持ってきたけど、輪ゴムでまとめてペンポーチに入れたはずなのに。そのペンポーチが入ったダンボール自体も、しっかりガムテで留めてるし。名前なんて書いてないから、落としてたって届いてる訳もないし。


「…何となくだけど、これアガレスやバドルが置いたんじゃない気がする」

《正解だ。流石は霊能力者ってか?》


なんというか、造花に残ってる気配でわかる。2人が力を働かせて、ここに置いたんじゃない。

となると、他の何かしらの霊がイタズラでやったんじゃないかと思うけど…誰がやったかまではわからないな。


「とりあえず、まとめとくか…」


どうか、たまたま私と同じ造花を持ってる奴が“葬式的いじめ”として置いたものでないことを祈る。いや、鍵閉まってるから受付に居た寮長のおばちゃんじゃない限り無理だと思うけど。おばちゃんやってないよね!?信じてるから!

ペンポーチの入ったダンボールを開けて、ペンポーチのジッパーを開ける。

そこには、既に4本の造花が入っていた。


「じゃあこれ、5本目ってこと…?」

《ハハハ!面白くなってきたなァ》

「何も面白くねえ…怖いって…」


あーあ!やっぱりこれ心霊現象でしょ!だから嫌だったんだよ寮!

旅行先でホテルに泊まったって、絶対に心霊現象が起きるから外泊苦手だったのに!寮なんか毎日が外泊みたいなもんじゃん!

勝手に扉から幽霊が入ってきてヒタヒタ足音がしたり、頭を触られたりするのは日常茶飯事だった。

まぁ実生活を無双出来ていたからその対価だと思って我慢していたけど、いくら霊能力者とはいえ怖いものは怖い。慣れる訳じゃない。


《でもこの寮、心霊現象防止の為にセンコー共の結界が張られてんだよな?なんでこんなことが起きんだ?》

「バドルには原因わかんないの!?」

《わかんねェよ。オレは幽霊じゃなくて悪魔だかんな》


うーん、結界を潜り抜けて入ってきたとか…?それなら、この学校の霊能力者に対する信頼度が下がるってもんだ。ただでさえ『信頼出来る霊能力者を育てる』と謳っていた癖に。


「こんな学校来るんじゃなかったなぁ…考えてた学園生活と全然違うよ…」


結局バトルの説明全然してくれないしさー。私、バトルをかなーり楽しみにしてたんだよ?

ダンボールに突っ伏していると、突如コンコンとドアをノックする音がした。

今の私に友達はおろか、訪ねてくる知り合いがいる訳でもないのに…一体誰だ?

恐る恐る返事をして、そっとドアを開けてみると。


「よっ」


そこには、片手を挙げて挨拶をかます艶無先生の姿があった。


「は!?なんで艶無先生が…」

「シーッ!静かに!」


先生が小声で叫びながら、私の口を塞いで部屋の奥に押し入る。

ドアをパタンと閉じて、やっと手が外された。


「っぷは…先生、こんなところに何しに来たんですか!?警察呼びますよ!!」

「いやぁ、俺の生徒がやらかして追われるように教室を飛び出してったと聞いてな。話を聞いてやろうと思って来たんだよ」

「…誰に聞いたんですか」

「こいつ」


先生がそう言って親指で自身の背後を指すと、そこには真っ裸の金髪ふわふわショートヘア美女が宙に浮いていた。


《はぁい、カワイコちゃん♡》

「うわっ!!服着てないじゃないですか!?」

「こいつがサキュバスだ。俺が面倒見ることになったって言ったら興味を示してな。窓の外から見てたらしい」

《悪魔と契約してるってスナオ~に答えたら、そのせいで怖がられたり憎まれたり蔑まれたり…可哀想にねェ。お姉さんが慰めてあ・げ・る♡》

「出てってください」


いきなり押し掛けてきてなんなんだこの茶番は…私、悪魔に見張られすぎだろ…

しかも18歳以下に見せていい悪魔じゃないって…わざわざ女子寮まで来やがって…


「そうだ、どうやって女子寮に入ってきたんですか!?」

「入り口に、寮長のおばちゃんがいるだろ?ブロッコリーみたいな髪型のさ」

「そりゃまぁ、居ましたけど。ちゃきちゃきした江戸弁のおばちゃんが」

「そのおばちゃんの腰抱いて、耳元で「木屋根桜の部屋番号教えろ」って囁いてみたら、「に…206号室だよ、てやんでい♡」って教えてくれたんだよ」


セキュリティー最悪だし、話の流れも最悪だった。おばちゃんがメス顔になった時の台詞も最悪すぎた。

それにしても悪魔の力、本当に恐るべしだな…セキュリティまでぶち破れるんだから…


「さてさて。これから二人三脚でやってくお前のコーチとして、お話を聞いてやろうじゃないの。あ、お茶とかいらないからな」

《あー私お水ほしい!》

「なんで居座る気なんですか、帰ってくださいよ!」

「…先生、数々の女子生徒のエンカウントを懲りずにいなしてここまで来たんだぞ」

「知りませんよ!!女子寮に堂々と乗り込んでくるような先生嫌です!!」

「そんなこと言うなよ。で、なんだっけ?クラスメイトに質問されて悪魔連れてるって答えたら良くない反応されたんだったか?」

「…まぁ…はい…」


やば、思い出したらちょっと泣きそうだ。

もっと期待してたんだよな!私TUEEEE的な学校生活に!

美男美女の友達に囲まれて、ちょっとイケメンなクラスメイトにドキッとしたりとか、バトルで無双したりとか…

やっと霊能力を生かして、素敵な青春を送りたかったのに…


《よしよし…桜チャンは何も悪くないのにねェ》


サキュバスのふわっふわぷるっぷるの胸が顔面に押し当てられる。息する隙間がない程に、みっちりと。

やばい、本当に泣くかも。なんつーか母性。母性が当てられてるんだよ顔面に。うわこれ泣く。


「…これで涙拭け」

「パンティーなんかで拭けるかよ!!!」

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