デジタルカードゲーム『CYBER DIVE』
タチハヤ
第1弾「SPROUT OF DREAMS」
プロローグ
旧い動画
その動画を再生した瞬間、満員のスタジアムに渦巻く歓声の中へと引き摺り込まれた。
贅の極みを尽くした照明が夜の海岸線を照らし、その光に誘われた虫のようなドローンが上空を飛び交う。
スタジアム中央を浮遊するドーナツ型の巨大スクリーンに実況席の様子が映し出された。
「さあ、こちら水上大陸パシフィスのセントポールスタジアムより、全世界へ生配信されています!」
画質からして相当昔に撮影されたのは明らかだ。きっと十年以上前。アオバ自身、まだ生まれていない。だが、都会には行ったことが無いので、映るもの全てが目新しかった。
一体、これから何が始まるのか?
「本日の
DIVEならアオバでも知っている。
全世界で知らぬものはいないと評されるカードゲーム。先に相手の七つのライフを破壊した方の勝ちというシンプルなゲーム性に対し、日々増えていくカードから生まれる無限に等しい戦術と手に汗握る攻防が魅力だ。
「そして、DIVEも佳境に差し掛かっています! 途中からご覧の視聴者に改めて、お二方をご紹介しましょう!」
映像がドローンに搭載されたカメラに切り替わり、フィールドで向き合う男たちにピントを合わせる。
「ワシのターン、ドロー!」
白い髭が特徴的な修道士が高らかに宣言すると、首から下げたペンダント型の端末から一枚のカードが配られた。宙に浮いたまま整列する様子は、ホログラム技術の賜物である。
「ゾディアスター教
「バトルじゃ! ≪
ケイロンを護衛するようにぴったりと張り付いた人馬一体の騎士。身に纏う白銀の鎧には、星座の軌跡を描いた意匠が刻まれている。その巨体は観客席からの映像でも一際目立っている。
ガントレットに仕込まれたクロスボウを標的に向けると、弓が蝶の羽のように広がる。虹色に煌めく指先で弓を引くと、光の矢が装填された。
『 コメットアロー‼ 』
放たれた一矢は、ほうき星を描きながらフィールドを横断する。芝を抉り、黒土の柱が噴き上がる。
信徒たちの感嘆と女性の悲鳴が入り混じった声が観客席から漏れた。
「これは強烈な一撃! この攻撃で全てのライフが破壊されれば、ケイロン選手の勝利が確定します!」
ケイロンは満足げに蓄えた髭を撫でる。その手がピタリと止まった。
「――――甘いな……兄弟」
土煙が晴れて姿を現したのは、盾と呼ぶにはあまりに巨大な鋼の防壁。その影から
「俺は手札から≪メタルコアシールド≫を発動し、≪サジタリウス・ジェネラル≫の攻撃を無効にした!」
奇跡の生還に観客席は湧き上がる。
「ぐぬぬ、素直にやられておけば良いものを! 何なんじゃ、貴様!」
「紹介が遅れました――――。相対するは、今大会開幕当初の下馬評を悉く覆し、ここまで上り詰めた
「俺との絆を忘れちまったのかよ、兄弟――?」
「フン、貴様と兄弟の契りなど交わした覚えはないわ。それに一ターン延命したところで≪サジタリウス・ジェネラル≫の前では手も足も出まい。ターンエンド」
「それはどうかな? 俺のターン、ドローーーーーー‼」
ブラフトは腕時計型の端末から配られたカードを確認する。その口角が上がるのをアオバは見逃さなかった。
「
カードに含まれるデータが解凍され、爆発的に体積が膨れ上がり、ブラフトの頭上に鈍重な鉄扉が現れる。金属音を上げながらゆっくりと開き始めると、無限に続く滑走路と繋がった。
「
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……
≪
┣━{
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……
滑走路から射出された超合金のロボットがフィールドに降り立つ。
人が乗り込んで操縦出来そうなフォルムには漢のロマンが詰まっていた。
互いのエースカードの体格が同じこともあり、視線がバチバチとぶつかり合う。
「ほれ、見たことか。
「慌てるな。ここからが本番だ……‼ いくぞ、≪カスタマイザー≫。最後のライフをお前に預ける――――
≪カスタマイザー≫は額から光を照射して、ブラフトを包み込む。その道を通じて
一枚のカードが継承される。
「ブラフト選手、ここで渾身の
「さらに、≪カスタマイザー≫のベースにライフがあるとき、その真の能力――【覚醒】効果を発動できる! 手札を一枚捨て、山札から≪
「ヒヒィィイン!」
滑走路から機械仕掛けの
「合体だ!」
≪カスタマイザー≫の片腕がパージされ、代わりに四肢を折り畳んだ≪レーザー・ユニコーン≫が滑り込む。その手には一本角を刃に見立てた剣が握られている。しかし、≪カスタマイザー≫の全長と比べると刀身は短い。せいぜいダガーが良いところである。
「≪レーザー・ユニコーン≫をベースにした
剣に仕込まれたトリガーを引くと、蒼白い光刃が雲を割いて夜天を貫く。
「なんじゃとッ!」
「バトル! ≪
『 ユニコーーン・レーーザーーブレーーーード‼ 』
≪サジタリウス・ジェネラル≫は咄嗟にクロスボウを盾にする。しかし、超高温の刃は溶解炉の如く、鎧すらも溶かして切り捨てる。その内に宿るケイロンのライフごと真っ二つに両断した。
「こ、これでケイロン選手のライフは0! ブラフト選手の勝利ィィィイイ‼」
試合終了を告げるブザーと共に海上から無数の花火が打ち上がった。
「すげぇ……これがプロダイバー……‼」
アオバの心臓の鼓動が速くなるのが分かる。
DIVEがエンターテイメントとして何千、何億という人々の心を鷲掴みにしているなんて想像だにしなかった。
「ブラフト選手、ワールドチャンピオンシップ出場おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ブラフトは絶え間ないカメラのフラッシュを浴びながらスポンサーロゴが並ぶステージに立った。ドローンや記者たちは記事の見出しを求めてマイクを向ける。
「ついに『
「早く他の都市の代表とDIVEがしたいです」
「それは気が早いですね。優勝した際の願い事は既に考えていますか?」
「強い奴らとDIVEできれば満足ですけど、そうだな…………もっと、世界を面白くしてみせます」
「ありがとうございます。最後に全世界の視聴者に向けて一言お願いします」
「DIVEに性別も、年齢も、人種も関係ない! 一戦交えればどんな奴とも兄弟の輪が広がっていくと、俺は信じている。もっと強い奴と戦いたい。もっと凄い奴と兄弟になりたい。腕に自信のある猛者たちよ! 次は君の挑戦を待っている――――」
動画が停止した。
すごいものを目撃してしまった。この興奮をすぐにでも誰かと共有したい。
アオバは腰かけていた木の枝から飛び降り、森の中を駆けだした。
「マクワ、いるか⁉ マクワ!」
同い年くらいの少年が草の影から顔を出す。
「何? アオバ」
「動画データを拾ったんだけど、それが凄くてよ! 見てくれ!」
「……………………」
「あれ? おかしいな。何で再生できないんだ?」
何度再生しようとしても『動画は削除されました』と表示される。
「どうしたの、急に?」
頭の中で状況整理して説明するより前に、結論だけが思わず口から洩れていた。
「オレ、『
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