第17話 もう全てが面倒臭いですわ……
エマが収容されている王立病院にて、レイラはエマと面会した。
2人きりで話がしたいと申し出た結果、時間がかなり限られていたから、
とにかくエマに、エマの事を話してもらったけれど
結果知れたのは、エマの中の大きな闇だった。
ヒロインの座など狙っていないことも、悪役として立ちはだかるつもりもない事は、一応話してみたけれど、あの様子だときっと何も耳に入っていないだろう。
しかも、この期に及んで彼女はまだ、ヒロインを諦めないという。
いっそ、今回の事を利用してエドモントの婚約者に上り詰めてくれないだろうか?
そうしたら一件落着だ。
まぁ、流石に王室もそこまで馬鹿ではないだろうけれど。
――― 逃げらると思わないでね。 レイラ様。
その言葉がこだまする。
あの時のエマの、全てを呪いそうな視線は、思い出すだけで背筋が凍りそうだ。
身震いした身体を抱え、その場を後にしようと歩いていると、目の前に仰々しい集団が現れ、一本しかない帰り道をふさいでいた。
その中心から、見覚えのある人物、エドモントが周囲に下がるよう命じながら前に出て、レイラを呼び止めた。
襲撃の後という事もあって、警備は厳重なのだろう。
下がれと言われても、
「その……まずは謝罪をさせてくれ。先日は君の屋敷に押しかけて、申し訳なかった。」
「いえ、私こそあの時は取り乱して失礼を。申し訳ありませんでしたわ。」
「それから、今回の事もだ。その……体調はどうなんだ? 身体にしびれ等は―――」
「失礼ですが殿下、無かった事は語れません。ただ、一つだけ言わせていただけるのでしたら、最後まで反対してくださったと言う殿下には感謝しております。」
「そうか………そうだったな……。」
「………。」
「………。」
何故呼び止められたのか分からない。
エマの見舞いにいく途中なら、さっさと行けばいいのに。
遠慮でもしているのだろうか?
でも、時間指定をしてきたのは王室側。
この時間にレイラがこの場所に居る事はエドモントだって知っているはず。
だとすると、エドモントはわざわざここで、レイラを待っていたことになる。
( 余計に理解に苦しみますわね……)
さっさとお暇してしまいたいところだけれど、エドモントはそこから動く気配がまるでなくて、退路が塞がれた状態のレイラは、エドモントの言葉を待つ以外無かった。
「ところで、モーリスから聞いたんだ。君は私に会いたくないと仮病をつかい、数々のパーティーを欠席していたと。……何故だ? 我々には、面識などないだろう? なのに何故、そこまで私を毛嫌いしていた?」
やっと開かれたエドモントの口から出た問いかけ。
( 私は関わりたくなかっただけで、一方的に毛嫌いしたのは、
しかも、パーティーの出欠席は、最終的に
断る理由が常に「体調不良」だったので、変な噂がたっていたのは確かだけれど、その決定はレイラが出したものではない。
まぁ、だったとしても、その理由はもちろん、エドモントとレイラを引き合わせないようにするためだったけど。
「確かに、招待を欠席する理由として、体調不良をあげていました。ですが仮病だなんて……気分が優れなかったのは事実ですわ。私は、産まれて程なくして、殿下の婚約者候補に名を連ねたと聞きました。貴族として生まれた以上、
「そうであったか。……その気持ちは、今も変わらないのか? 私の婚約者になるつもりは?」
( え、この状況で、何を言ってるの? この人は……)
「ありません。私には荷が重すぎます。出来れば私は、この先も殿下とは距離を置き、公爵家の娘として領地の繁栄を担っていきたいと思っております。殿下におかれましても、私のような不敬を働く者は御免でしょう。どうぞ、一刻も早く私以外の女性と婚約を結んでいただければ幸いです。」
「……そうか……。時間をとらせて悪かった。本日はこれで失礼する。」
やっと解放されたと安心したところに、エドモントが再び口を開く。
「あぁ、それと。一応言っておくが、私が未だに婚約者を選べずにいるのは、国母として相応しい者を見つけ出せていないからだ。私には、思い描くこの国の未来がある。しかし、それを理解し支えてくれるであろう女性が見つからずにいる。」
「そうですか。それは残念なことですね。ですが、なればこそ、早く婚約者をお決めになり、志を共にされたらいかがですか?」
「そうだな。だが、こんな事を話そうと思えた人間すら、今までは居なかった。皆、欲しいのは私の婚約者の席、ひいては王妃の座だ。」
「………お察しします。」
「あぁ、話が逸れたな。……つまり私は、レフェーブル男爵令嬢と婚約する気はサラサラない。アレは国母にはなりえない。それだけは伝えておく。」
「………私には、関係のない事ですわ。」
サクっと付いてしまえば、誰も苦しまなくて済むのに、ゲームの世界ではクロワッサンを加えた令嬢に一目ぼれしちゃうようなアホなエドモントは、現実では案外しっかりしているから困ったものだ。
愛の試練を乗り越えて、二人が絆を深めていく物語の、愛が始まっていないのに、エマは試練を求めて人を悪に惜しめるのを止めようとはしない。
( もう全てが面倒臭いですわ……)
去っていくエドモントに深々と頭を下げて見送りながら、レイラは大きなため息を吐き出すのだった。
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