第8話

「糸吹くんが私の親戚ということが分かったのは、昨日の夜、『おじさんの孫がな、瑞葉の大学に合格した』って、博三おじさんから言われたことを思いだして、お母さんにメールをしてみたら、写真が送られてきたからなの。すぐに、糸吹くんだって、分かったよ」


 ふむふむ、ぜんぜんわからない。


「なんで、瑞葉さんのお母さんは俺の写真を持ってるんですか」


「えっと、私のお母さんと、糸吹くんのお母さんが従姉でね、一応、連絡先は交換してるみたいなの。それで、私のお母さんが、糸吹くんのお母さんにメールしたんじゃないかな」


「……」


 ミラクルすぎるだろっ、とは思ったが、おじいちゃんが瑞葉さんのおじさんで、博三おじいちゃんは母さんの父さんだから、そうなるのは当然だ。

 いや、ミラクルだろ。


「あと、これからは、慎司しんじくんって呼ぶね。親戚の子を名字で呼ぶのは、おかしいから」


 俺はすぐさまにスマホを取り出して、母さんに電話をかけた。数回コールが鳴ったあと、母さんが電話に出る。


「あ、もしもし、母さん。加納瑞葉さんが、俺の親戚だって、本当!?」


『本当よ。瑞葉ちゃんは、私の従姉の娘さん。あんた、瑞葉ちゃんの部屋の隣なんだってね。昨日、楓ちゃん、あんたのおばさんからメールがあって知ったの。もしかして、今、そばに瑞葉ちゃんいる?』


 それが聞こえていたのか、瑞葉さんは、俺からスマホを取り上げた。


「もしもし、初めまして、瑞葉です」


『あら、瑞葉ちゃん? 初めまして。これから、慎司をよろしくね。迷惑いっぱいかけると思うけど』


「いえいえ、こちらこそ。よろしくお願いします」


 それだけを言うと、瑞葉さんは俺にスマホを返した。


「母さん、これってマジ?」


『本当よ。それじゃ、お母さんは買い物に行くから。新生活、がんばってね』


 電話は切られ、プツープツーとスピーカーから聞こえてくる。

 現実だとは思えない。引っ越してきて、の隣の部屋の人が会ったことのない親戚だって。

 ラノベかよ。


「これから、よろしくね。慎司くん」


「はい」


 現実感は全くないが、そう答えるしかなかった。


「ということで、荷物の開封を再開しよう! 早く終わらせて、落ち着きたいでしょ」


 瑞葉さんは、気にする様子もなく、楽しそうに俺の荷物を出し始めた。

 俺も瑞葉さんに習って、荷物の開封を始めた。単純作業をしながら、この状況をゆっくりと飲み込んでいく。

 そんな感じで、一個ずつ開けていき、残りの段ボールは一つになった。


「やっと、最後だね。去年を思い出すよ」


 瑞葉さんが手にしていた箱には、本と書かれている。

 瞬時に俺は悟った。


「瑞葉さん! その箱は!」


 すでに瑞葉さんは段ボールの箱を開けていた。

 中身を見たのか、少し顔を赤くしている。

 オワタ。

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