第4話
「おなべはどうかな?」
春におなべ。
あんまり想像はできないが、外は少し肌寒いから、ちょうどいいかもしれない。
「はい、おなべ、食べたいです」
「それだったら、まず、キャベツを買いに行こう!」
「分かりましたであります、大尉殿」
「なんか、軍人さんみたいだね」
「小さいときに、親戚の家でノラ〇ロを読んだのを思い出したのであります、大尉殿」
「その日に、おなべを食べたのかもしれないね」
あと、と言って瑞葉さんは、少し不満そうな顔をして
「その言い方されると、私が糸吹くんを従わせてるみたいになるから、やめてね」
「すいません」
少し調子にのりました。
なぞのやり取りをしたあと、俺と瑞葉さんは、スーパーを回り、おなべの食材調達をした。
瑞葉さんは慣れた手つきで、野菜を見分けて、かごに入れていく。主婦みたいだった。俺もいつか、こんな風になるのかもしれない。というより、なりたい。自炊してみたい。できるかどうかは分からないけど。
なべに必要な材料を一通り買って、スーパーから出た。外は真っ暗になっていて、さっきよりも寒くなっている。薄着の俺には、けっこうくる寒さだ。
「真っ暗になっちゃったね。けっこう寒いけど、大丈夫?」
「このあとの、おなべで温まるんで大丈夫です」
「腕によりをかけて、作らないと。期待されたら、その期待以上で答えるのが、この私、加納瑞葉だからね」
自信満々に答える瑞葉さん。その子供っぽいしぐさに、心が穏やかになった。
「ところで、糸吹くんはなにを買ったの?」
「秘密です」
「教えてよ~」
「秘密ですって、ちょっと! バランスが!」
両手に食材を持っている俺は、瑞葉さんに接近されて、思わずこけそうになった。
こういうのも、慣れていない。
「あわわ。ごめんね、重い思うし、どっちか持つよ」
「やってもらうだけだと、なんか気まずいんです。働かず者食うべからず、です」
「そこまで言うなら」
瑞葉さんは引き下がってくれた。ちょっと重いけど、これぐらいしないと、俺はダメ男になってしまう。
帰り道は、瑞葉さんにいろいろ教えてもらった。大学までのバスとか、おすすめのお風呂とか。
そのおかげで、アパートまではあっという間だった。
「もしかして、糸吹くんは女の子の部屋に入るのは初めて?」
瑞葉さんの部屋の前。鍵を開けて、ドアを開ける瑞葉さんは聞いてきた。
「ナゼ、ソノヨウナコトヲ」
「やっぱり、そうなんだね」
「ナニモイッテマセンガ」
「だって、糸吹くんの反応が、初々しいだもん」
「まじですか!」
できるだけ平常心を保つように意識していたのに。
「顔が赤くなってる。大丈夫、私、男の子とか女の子とか、あんまり気にしないタイプだから。だから、もっと気楽になってもいいんだよ」
「……頑張ります」
「あ、私、下着とか片づけたかな~」
「冗談にならないんで、やめてください!」
「うそうそ。ちゃんと片づけてるから。ほら、入って」
少し瑞葉さんに抵抗の目を向けてから、俺は、警戒して瑞葉さんの部屋に、足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます