第4話

「77、78……これで79人か」


 俺は死体の首を一つずつ刎ねた数を口に出して把握する。

 

 数時間前から仕留めた79人は刺殺、毒殺、絞殺、撲殺など死因は様々だが必ず全員の首を切り落とす。


 これは昔殺したと思っていた相手に後ろから刺されて瀕死になって以降必ず行なっていることだ。


 これをしないとどうにも安心して次の殺しに移れない。


 そのせいで処刑人や首刈りなどと言う裏の異名までついている。


 ただ昔の失敗で臆病になった者の末路でしかないのだから本人としては受け入れ難い。


「あと10人程か」

 

 構成員はかなり減らし、資料で見た幹部クラスも殆ど仕留めたがまだ頭を残している。


 周囲を警戒しつつ敵アジトの中を進むが人が出てくることは無い。


 そして結局誰と会うこともなく、探していない部屋は残すところ大広間の一つとなった。


「……まぁ、罠だろうな」


 扉の前で止まり、その中で感じる数人の気配に集中する。


 息遣いや衣擦れの音からして中に12人。


 事前情報が正しければここにこの組織の最後のメンバーが揃っているらしい。


 それがわかれば十分だった。


 両開きの扉に無造作に手を掛けて押し開くと、扉のそばで待機していた数人が同時に切り掛かってきた。

 

 それを軽く避けつつ手に持っていたナイフで一人ずつ確実に急所を刺していく。


 それなりの手練れだったようだが、俺にはあまり関係がない。


 生まれつき集中している間はほとんどの動きが止まって見えるほど遅く感じることができた。


 これまでどんな強者だろうとあらゆる手段で消してきたのだから戦いは殆ど作業のようなものだ。


「80、81、82、83、84、85、86、87。あと四人か」


 襲いかかってきた八人を一分とかからず戦闘不能にして残った四人に視線を向ける。

 

 部屋の奥でガタガタと震える生き残り達は特に武装もしておらず、抗おうとする意思すらなさそうな有様だ。


「さて、仕上げだな」


「まっ、待って、待ってくれ!!」


 俺が一歩を踏み出すと、偉そうに座っていた男が椅子から崩れ落ち手をこちらに向けて命乞いを始めた。


「か、金ならいくらでもやる!俺たちはここを出ていく!だからどうか命だけは!!」


「……そうか。だが、すまない。もう殺した後だ」


 男達は必死に命乞いをしようとしていたが、残念なことに話し合うにはすでに遅すぎる。


 俺は先程踏み出した時に四本の毒針を男達に向けて放っていた。


 極細の針であるため刺されてもさほど痛みはないが、毒はかなり即効性のある致死毒のためもはや助けようが無い。


 俺の言葉も終わらないうちに苦しみ出した男達はものの数十秒程苦しんだ後、あっさりと死んでしまった。


 そして最後に全員の首を刎ね、必ず仕留める対象のリストと見比べて間違いがないことを確認してから誰もいなくなった敵のアジトを後にした。

 

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砂地のタルト @himagari

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