第23話 花火大会
「………なあ、武者小路」
「あん?」
「………いくら何でも、人のやった宿題丸写しは、良くないと思うぞ」
「うむ。アタシもそう思ってた所だ」
「………………そうか」
カリカリカリカリカリカリ
それは、今から1時間程前の事である。
俺は、自信が入院していた事も相まって、残り僅かとなってしまった夏休みを、殆ど遊べていない武者小路とどう過ごすかを部屋のカレンダーの前で考えていた。
すると、急にスマホに彼女からの連絡が入り出てみれば『宿題、終わったか?』と言う第一声から始まり、あれよあれよという間に今居る公立図書館へと移動した俺の目の前には現在、他人のやった宿題を全て丸写しにしている武者小路がいるのだった。
「なあ、武者小路?」
「なんだ? さっきから五月蝿いぞ、人が勉強しているのに邪魔をするな!」
………勉強という二文字は、果たして他人のやったものをただ写すだけの行為を言うんだったか………と疑問に思った俺だったが、なんとかその気持ちを落ち着かせ話を続ける事にした。
「今度の土曜日、近くで花火大会があるんだが、一緒に行かないか?」
カリカリカリカッ…
すると、ピタリと武者小路の筆を走らせる音が止まった。
「………ふ、二人きりでか?」
「? いや、春樹達も誘って4人で行こうかと思っ………」
ボキィッ!!
………シャープペンが折れたんだが? しかもそれ俺のシャープペンなんだが…?
「………む、武者小路?」
「フ、フフフフ……いや、良いさ分かっていたさ、お前がそういう人間だって事位な………土曜日だな? 分かった、良いだろう花火大会か楽しみだな……フフフ」
目の前の、言葉だけで全く笑っていない武者小路を尻目に俺は、何故彼女が怒っているのか分からないまま、予備のシャープペンを取り出し彼女に渡すのだった………。
ガリガリガリガリガリガリッー!!
(頼む、予備はもう無いから折らないでくれ………)
そう祈りながら
……………………………………………………………
開けて土曜日。
例年通り、今年の花火大会も近くの河川敷で行われるらしく、最寄り駅に集合する事にした俺達は現在、春樹と二人女性陣の到着を待っていた。
「てか、遅くねぇ? あの二人」
待ち合わせ時刻から、かれこれ30分を過ぎた頃、ここ迄我慢をしていた春樹が業を煮やしてそう発言した時だった。
「わっりぃ~お待たせーー。」
そう言って現れた芹沢を見れば、いつものヤンキーファッションとは違い、なんと、今日は浴衣を着ており
、それは黒を基調とした浴衣であって、芹沢の髪色も相まってよく似合っていた。
「おーー、浴衣じゃん! へえ、中々似合ってんな」
そう春樹が芹沢を誉めているのを傍観していた俺だったが、芹沢の後ろにいる人物を見て驚愕した。
「………よ、よう湊」
そこには、白を基調とした涼やかな浴衣を、自身のスタイルもあってか華麗に着こなす武者小路が居り、その佇まいは綺麗にまとめられた黒髪も相まって、正しく大和撫子と言った所だった。
「む、武者小路か?……ビックリしたよ、随分似合ってるな………」
「そ、そうか?」
「?ああ………」
何故か、照れ臭そうに頬を染め返事をする武者小路に疑問を持ちながら、俺がそう返事した時だった。
パシーン!
「いって…なんだ? どうした芹沢?」
急に芹沢から背中を叩かれ何事かと思い振り返ると………
「チッ…なんだよ武者小路ばっかり、ウチは誉めてくれねえのか?」
と、若干いじけた様子の芹沢がいた。
「あ、ああ、すまない。 芹沢も似合ってるぞ、しかし、二人とも凄いなまさか浴衣で来るとは………」
「フンッ、親がどうしても着ていけと言うもんでな、この髪も無理矢理やられたんだ」
「ウチも!」
「成る程、それで遅れたのか………」
「そ! 武者小路とは丁度そこで会ったから一緒に来たって訳!」
………いつの間にか、一緒に来る位には仲良くなってる二人であった。
ガシィッ!!
そう話していると今度は思いっきり肩を掴まれ、脇を見れば………
「なあ、湊………俺、帰って良いか?」
と、芹沢を誉めたのにまるでリアクションを貰えなかった春樹が、目に若干の涙を浮かべながら笑っていた………。
……………………………………………………………
歩くこと数10分、漸く目的の河川敷に到着した俺達だったが、武者小路達が遅れてきたのもあり、既に会場は人で埋め尽くされていた。
「………凄いな」
「えーーウチら見れる場所ないじゃん!?」
「すまない、アタシらが遅れたばっかりに………」
「いやいや、ヨーコさんは何も悪くないッスよ!
悪いのは全部、そこにいる金髪娘なんスから!!」
「はぁ!?」
ただでさえ、人目を引く容姿の二人が更に人目を引くように騒ぎ始めた。
俺は軽く頭を抑えるようにして、何処か静かに見れる場所はないか、探すのだった………。
…………………………
「やっぱり、ここも混雑してるか……」
穴場といわれる神社に辿り着いた俺は、石段を登る途中で目にした光景を見てそう漏らした。
漸く、見つけた穴場スポットも、やはり皆考えることは同じなようで、もはや何処が穴場なのか分からないといった様子である。
ドーーーーン
ドドンッ
パァンッ
丁度、石段を登りきったその時に、花火が打ち上げられ始めた。
「チョー綺麗………」
「ああ………」
「おう!」
「凄いな…」
春樹はその場で石段に座り込み、芹沢はしゃがんだ格好で、俺と武者小路は立ったままで、俺達は堰を切ったように打ち上げられ続ける花火を眺めていた。
ドォン!
パパッ
パラパラパラーー………
止めどなく花火が打ち上げられ続ける。
隣に立つ武者小路を見れば、嬉しそうに笑っており、ふと、彼女との約束を思い出す………。
いつ返せるのか、いつあの時代に戻せるのか分からないが………それでも俺は彼女に向かって誓うように言う。
「なあ、武者小路……、必ず戻してやるからな、君の居た世界に………必ず」
ドォン ドォン ドォーーン
「ああ………ありがとう、湊」
ドォンッ!
そう言って笑った武者小路はとても綺麗で儚くて、俺は彼女がいずれ返ってしまうのが、なんだか少し寂しいと思ってしまったのだった。
……………………………………………………………
「いやー綺麗だったなあ」
花火大会も終わりを向かえ、帰り道の途中で春樹がそんな感想を漏らしている。
「高杉ーー、来年も来ような! …武者小路も春樹も皆でな!」
芹沢が、屈託の無い笑顔でそう言ってくる。
「………そうだな」
前方を歩く芹沢は、そんな俺の応えに満足したようで、前に向き直り再び歩きだした。
俺は、もしかしたら来年はこの世界にいないかも知れない武者小路を見ると、少し困ったように笑っていた。
「………良い思い出になったな」
「ああ」
俺は彼女に語りかける。
「なあ、武者小路………」
「何だ」
「来年、例え同じ花火を見たとしても………そこに君がいなかったとしても、俺は……俺は今年、君と見た花火を決して忘れない」
「………馬鹿者が」
楽しかった花火大会が、帰りは少しだけ寂しく感じてしまって………
「アタシも忘れんぞ………決してな」
武者小路と過ごす最初で最後の夏休みが、終わりに近づいて来た事を実感させられる帰り道だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます