第53話 切り札

 キマイラを使うプレイヤーだから久しぶりに本気で戦わないとと気合いを入れていたのだが、予想以上に呆気なく終わってしまった。


「それにしてもチーター、いやえせ・・チーターか」


 さっきこいつはチートをして運営にアカウント削除バンされたというような事を言っていた。


 そしてそのせいでこの世界に放り込まれたとも……。


 どの神様かはまだわからないが、オレの場合はおそらく神様の出したキャンペーン信託を受けて進行させたことでこちらの世界に連れてこられたと思っている。


 こいつの場合は不正行為をしたことで魔神の目にとまり、この世界に連れてこられたということだろうか。


 では、魔神の眷属とは昔からそういう不正を犯したプレイヤーたちだったのか?

 わからないことばかりだ……。


「主さま。この者をどうされるおつもりですか?」


「ん~……正直こんな酷い奴だとは思わなかったから、ちょっと悩ましいな……」


 さっきこいつはリアルとなったこの世界で死ぬと本当に死ぬというようなことを言っていた。


 この世界で殺して元の世界に戻るなら話は簡単だったんだが、さすがに同じ世界出身の人間を殺すというのはできれば避けたい……。


「主さま、魔神の眷属を見逃すのですか?」


 そうだった。

 キューレには、こいつはまごうことなき魔神の眷属として見えてるんだった。


「キューレからはこいつはどういう風に見えているんだ? ネームプレートってわかるか? それは見えてるか?」


「すみません。まずネームプレートというものが何を指しているのかがわかりません。あと、どんな風に、ですか……。見た目だけなら角と翼・・・のある肌の青い人間といったところでしょうか?」


「えっ!? ちょっと待ってくれ!? こいつに角と翼があるように見えてるのか!? しかも肌が青いだと!?」


 オレはまさかともう一度ドミノに目を向けてみるが、やはり人気装備に身を包んだ普通のプレイヤーにしか見えず、角も翼も生えていなければ肌も青くない。


「え? 主さまには角も翼も見えないのですか?」


「あぁ……見えない。普通の人間に見える。なるほどな。そりゃぁキューレからすれば魔神の眷属にしか見えないわけだ」


 だが、ちょっとした疑問は解けたのは嬉しいが根本的な問題は深まっただけだ。


「しかし参ったな……」


 見た目がひと目で魔神の眷属とわかるような姿をしているとなると、こいつを殺さないでいることでオレも魔神信仰を疑われかねない。


 かと言って、オレもゲームならともかくリアルとなったこの世界でプレイヤーを殺すのは正直厳しい……。


 でも、これからこの世界でさまざまなキャンペーンをこなしていく上ではプレイヤーじゃなくとも、この世界の人を殺さなければ切り抜けられないような場面がでてくるだろう。


 これは戦いに身を置く限りは避けられそうもない。


「主さま? 人の姿をしているとしても、この者は魔神の眷属であることは間違いありません。生かしておいても人にあだなす行為を繰り返します」


「ん~確かにそうかもしれないが、更生することだってあるんじゃないのか?」


 不正行為をしたのが切っ掛けなので、心情的にはあまり庇いたくはないが、こいつだって突然この世界に連れて来られたのには変わりはないだろう。


 それなら気持ちを入れ替えて更生することだってできるのではないか?


 そう思ったのだが、その考えはすぐに否定されてしまった。


「いいえ。魔神の眷属は人を破滅においやる使命を受け入れた者しかなれません。そして使命を受け入れてしまったからには、呪いのようにもうその宿命から逃れられないのです」


「なっ……そ、そうなのか……」


 これもキューレが繋がっているという知識の泉というものから得た情報だとすると間違いないのだろうが、なかなか受け入れがたい話に絶句してしまった。


 まだ北の森に現れた魔物の大群の件が残っており、今は時間に余裕がない。

 早くどうするか決めなければいけないというのに、オレはどうすればいいかまったく思いつかなかった。


 そして、なにもいい案が浮かばないうちにドミノが意識を取り戻してしまった。


「くそっ……い、いてぇ……よくもやってくれたなっ! ユニットのぶんざいで……簡単に死ねると思うなよっ!!」


 くっ……キューレを蔑むような言葉に、思わず感情的な行動に走りそうになるがなんとかおしとどまった。


「だまれ! お前の生殺与奪はもうオレが握っているという事を忘れるな!」


「ぐ……てめぇ……」


 しかし、このままでは埒があかない。

 こいつの処遇を早く決めてしまわなければ魔物の大群の方の対処が遅れてしまう。


「お前の戦闘は監視していたが、もうユニット枠はほとんど残っていないはずだ。大人しくしていろ」


 キューレとの戦いのログを分析して、すでに27枠使ってしまっていることを確認している。

 残り3枠で逆転できるような状況じゃない。


 それなのにドミノは、不敵な笑みを浮かべて話し始めた。


「ふふふふふ……なぁ、お強いゲーマーさんよ~?」


 なんだ……?


 この世界にきて手に入れた第六感的な感覚が、こいつを今すぐ殺せと訴えかけてくる。


 でも、こいつに何ができるというんだ?


 呼べるユニットも残りわずか。

 ユニット3枠で呼べるようなユニットに、キューレに対抗できるような強さのユニットは存在しない。


 眷属になってこいつ自身が強くなった……というような気配も感じられない。


「ははははは。ゲーマーさんにはわかんないだろ~?」


 くっ……いったいなんだっていうんだ。


 ハッタリとか演技とかそんなものではない。

 本当になにか切り札のようなものを持っているかのような態度だ。


「なにをたくらんでいる……下手なことをすれば命はないぞ」


「おっと~いきなりその槍でブスリは無しにしてくれ。まぁとりあえずこれでも見てくれよ。ユニットビューを可視化するだけだから刺すなよ?」


「な……いつのまにユニットを呼び出したんだ……」


 そこには、王都と思われる映像が映し出されていた。


 しかし可視化されたユニットビューは一つではなかった。

 二つ目、三つ目の映像が可視化され……その後も次々と視界を埋め尽くすほどのユニットビューが可視化されていったのだった。

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