第18話 ブラックキシンとの戦い

夜中の二時頃、息子の寝ていた離れの和室の照明が点き、障子に映る影で着替えているのが分かる。


いくらブラックキシンが鈍くても近づき過ぎると意識を感じられてしまうので廊下で待った。


障子が引かれて息子が廊下に出て来た。依然として頭廻りに黒い煙が纏わり付いていた。廊下の照明を点けで作業場に入った。


そして、机の引き出しから小さいデジカメを出した。


頭を覆っていた煙は糸のようになり、先端が何処かに向かって行った。


私の意識はその後を追った。先端は姉妹の家に向かい壁を抜けて2階の姉の部屋に入りベッドに寝ていた姉に頭に入った。


暫くすると姉は目を開けベッドから起き上がった。開いた目は正面を向き操られているのが分かった。


立ち上がり部屋のドアを開け一階に降りて行った。暗闇だったが音もなく宙に浮いているように裏口から出て行った。


宿主と姉妹の家の北側の通路は政治家の敷地の一部だった。


姉は滑るように通路を進み、作業場の開けてあった北側のドアより入り作業場の中央に立った。パジャマ姿で黒い髪の毛が肩まで伸びていた。


息子は先程のデジカメを持ち、姉の正面に立ちデジカメを向けシャッターを押した。その時、眩しい光りが姉の顔に向けられたが、瞬きひとつもしなかった。息子は角度を少しずつ替えながらシャッターを押した。


一周して息子はデジカメを机の上に置いた。


部屋の隅に地下に降りる狭い階段があり、息子と姉は降りて行った。


広い空間で一部の床に土が見えている場所があり、深さ1m程の穴が掘られてあった。明らかに姉を埋める穴と思われ側にスコップが置いてあった。


私の意識はまだ気が付かれていなかった。


(さあ、如何する? 姉を助けても得るものが少ない、息子の小さい欲望だけだ。放って置いても次は私の宿主を狙って来る・・・・ブラックキシンを倒すのはその時で良いだろう・・・・待てよ、ライオキシンのライフが先に整ってしまったら、私がトスポ達の邪魔にしたのが伝わり私は抹殺される。ライオキシンより先に成体に成らなければ、その為にはライフの収集を邪魔するしかないか?)


私は戦闘形体に変身し作業場に降りた。


暗い地下に向かって階段を降りて行った。


息子が姉の首に手を掛けているのが見えた。

不味いと思い時間を止めた。


「オルゴン! 邪魔するな」息子からブラックキシンが出て来た。


黒い体で目が赤く光っていた。トスポとかマイナのように人の形をしていないが盾だけは持っていた。


「毒素剣!」と叫んで投剣が3本飛んできた。


1本は生きる欲剣で叩き落したが、剣が腐り刃先が溶けた。後2本はおばさんの性欲盾で受けたが、やはり一部が腐り溶けた。


右に廻りながら溶けた剣をブラックキシンに投げたが、吸い込まれておじさんの断末魔の声が聞こえた。


「ワッハハハ、たいした魔気を仕入れてなさそうだな? お前を素にしてやる!」毒素の投剣が飛んできた。


剣をストーカーの堅い意思剣に替えた。


「カキーン、カキーン」と2本までは弾いたが、3本目を受けると曲がって

しまった。


そこから左に廻りながら溶けて残っていた盾を投げつけた。


盾はブラックキシンの体に吸い込まれると「あー」叫び溶けて行った。


盾を投げた手の内側にさっきのデジカメを忍ばせていた。


ブラックキシンが勝ち誇ったように投剣の準備をしようとした時、デジカメを向けシャッターを押した。


「ピカー」と眩しい光りが地下室を白色に替えた。


「ギャー」の悲鳴と共にブラックキシンの体が小さくなった。


続けて何回も押すと体は消えて赤い1cm程の玉が床に転がった。


私はそれを拾いベルトの小さい箱に入れた。


黒い煙が取れて息子の顔が見えていた。優しい端正な顔をしていた。


シャーを呼び息子の処分を聞いた。


「元々純粋な心の持ち主だから自分で判断するでしょう」と言われ、姉を自分の部屋に転送するように頼んだ。


息子から欲を抜き時間を動かして消えた。


次の日、政治家の屋敷は警察車両で溢れていた。


学校から帰って来ると、宿主の家の前も報道関係の車で一杯だった。


「ただいま!」


「おかえり、拓魔ちゃん隣で事件があったみたい」と言って母は報道番組を食い入るように見ていた。


今朝早く息子が警察に連絡をしたらしい。


3年前の○○ちゃん失踪事件の犯人は私で殺して地下室に埋めたと自供した。


警察が現場を調べて地下室で少女の白骨死体が見つかった。それに少女そっくりの頭部だけのフィギュアがあった。


息子の父が政治家なのでマスコミに色々取り上げられ、父親は政治家を辞めて母親と屋敷を処分して知らない町に越して行った。


警察は現場に落ちていたデジタルカメラのデーターに少女と地下室の映像があり近所を聞き込み隣の姉と断定した。


姉は否定したが、息子が遠くから催眠を掛けて呼んだとの供述で、マスコミは超能力だ、嘘だと取り上げた。


姉は未成年なので名前は伏せられたが、近所では知られていた。


結局、遠くの人を操るのは不可能で、少女の方から・・・・などと噂が流れ、左隣の家族も引っ越して行った。


警察はデジタルカメラの指紋を調べたが息子以外のもう1人の指紋が見つかり共犯者の可能性があり、捜査を開始したが、息子は単独犯と言い張った。

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