第28話 伝説の三つ巴

カランカラン


「いらっしゃいま――あれ?」


誰もいない?


──ここにいるよ?


ひゃうっ!?


後ろからの声。

知ってる、私このパターン知ってる。


「ヒルちゃん?」

「ヒルが来たよ。また来たよ。でも来過ぎとか言って欲しくないよ?」

「言いませんっ」


そんなアマちゃんとのやり取りの最中さなか、天照さまがバックヤードから顔を出した。

「あら、ヒルちゃんじゃない。どうしたの? またお菓子買いに来たの?」

「アマおねえちゃん、お菓子よ。でも買いに来たんじゃないよ。持って来たのよ」


おや?


「持って来たの?」

「そうよ。年神のおっちゃんよ。終了品よ」

「ああ、なるほど」


ちょっと何言ってるかよく分からないんですけど?


「あのね実花、年神様っているでしょう? 時間を行き来できる神様。あのひとってね、いろいろな時代のお土産をくれるのよ」

「えっと……つまりその年神様にもらったお土産をヒルちゃんが持って来た、って事?」

「そうよ。正解よ。準優勝よ」


準優勝の意味が分からない……


「じゃあヒルちゃん、見せてくれる?」

「いいよ。もちろんよ。これ持って来たよ」

「あら」


っ!!?

まさか……まさかこんなところでお目にかかれるとはっ!

今となってはもうメディアやネットでしか見る事が出来ない、あの伝説の――!!


すぎのこ


そう、かつて『きのこ』『たけのこ』と覇権を争い三つ巴の戦いを繰り広げた、そして惜しまれながらも消えていった、あの『すぎのこ』。

まさかこの目で拝む事の出来る日が来ようとは、長生きは……してないけど。


「まずはアマおねえちゃんが食べるよ。そしたら概念から実体化するよ。みんなでそれ食べるよ」

「ヒルちゃんグッドアイデアです!! では天照さま、早速ガッと行っちゃってください!」

「いえ、私そんな勢いでは……」


「まあまあ、あそぉれ天照さまのっ、ちょっといいトコ見てみたいっ!」

「実花? 今のあなたからは、このお菓子が現役だった頃の空気を感じるわ」


おっと、自重自重。動画ソースは程々に。

私その頃はまだ生まれてませんからねっ!


「じゃあ食べながら待っててください。私お菓子コーナーからライバル達を連れてきますね」


それに飲み物もね。

冷たいストレートティーでいいかな。甘さが無いやつ。

あ、でもヒルちゃんは少し甘めのほうが好きな気がする。ヒルちゃんのはストレートティーって名前だけどなぜか甘いタイプのにしてあげよう。


そしてもちろん『きのこ』と『たけのこ』。

さあ、戦争パーティの時間だ。


飲食テーブルに行くと、いつの間にか食べ終わった天照さまが実体化を始めようとしている。

って何で? だって私が離れてからまだホンのちょっとしか経ってないよ?

それって私が見てないうちに本当にイッキしたって事!?

そんなの……そんなの、見たかったよっ!!


そして天照さまは『すぎのこ』を五箱くらい実体化してから、すっごく良い笑顔でこう言った。

「実花、残りのは棚に並べておいて。折角だから一緒に売ってみましょう」

……ははは。


と言う事で、テーブルに一つだけ残したら残りは棚に陳列っと。

おおっ、販売棚でも伝説の三つ巴が再現したっ!!


テーブルに戻ってくると、既に『きのこ』『たけのこ』『すぎのこ』の箱と内袋が開けられていて、スタンバイは完了。

それぞれ一箱ずつを三人で食べるんだけど、まあそれくらいの量で十分よね。

――天照さまは一箱完食済みだし。


「ふふふ、さあ、それじゃあ早速食べ比べてみましょうか」

「アマおねえちゃん、ヒルは準備オーケーよ。食べるよ。レポるよ」


「それではいただきまーす」

「いただきます」

「いただきます、よ」


さくさくさく……

ぽりぽりぽり……

かりかり……ん?


うーん……これってもしかして……

「この勝負、フェアじゃないわね」

「そうですね天照さま。私もそう思いました」

「おいしいよ。どれも好きよ。でも、ライバル……? よ?」


二人も気付いたみたい。


「これはたぶん、世代の差、でしょうね」


そう、一見昔から変わっていないように見える製品も、時代による好みの変化や技術の向上により、少しずつ味が変化していくもの。美味しい方へ美味しい方へと。

だから……


「この『すぎのこ』って販売終了当時のものだものね。どうしても最新の『きのこ』『たけのこ』と比べると……ねえ」

「どうせなら最新の技術で作られた『すぎのこ』を食べてみたいっ」


現代の本気で。


「そうよね、そう思うわよねえ。この間のソフトクリームマシンは吐出口で実在のクリームを実体化してただけだから、それに概念をちょっと加えてあげて色々な味を出せるように出来たんだけど……今回のはそういう訳にはいかないのよねぇ」


「ってことは、やっぱり……?」

「ええ、メーカーさんがリニューアル版を開発して再販してくれるのを待つしかないわね」

「それだったらヒルはサクサクした感じに変えてくれた方が――」

「「ヒルちゃん!!」」


「何よ? ビックリしたよ? ビックリするのは好きじゃないよ? させ専よ?」

「聞いてヒルちゃん、それは言っちゃいけない事なの。『すぎのこ』はあくまで『すぎのこ』、『枝』じゃないの」

「難しいのよ」


うん、そこの線引きは本当に難しいと思う。でも――

「『似てる』って思われてるうちはまだ大丈夫、でも『パクリ』って言われたら終わるの」

結局は買い手側の受け止め方、受け取り方次第なの。


だからね……

「メーカーさん! 『すぎのこ』のDNAを受け継いだ最新版を出してくださいっ!!」


期間限定でもいいので!

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