第49話 願い
陸奥を出て青都へ戻ると、あたし達はまた離れで生活を送ることになった。
戦いに貢献したことを思えば、スサノオの待遇が変わってもおかしくはないのに……。
憤るあたしをよそに、スサノオは離れの縁側に腰掛け寛いだ様子。
巡察の間、スサノオへ向けられる視線に好意的なものはなく、ツクヨミからは蔑むような言動が見受けられた。
御当主様にいたっては、必要な時以外に声を掛けてきた覚えがない。
そう考えると、皆と距離を取れる離れでの暮らしは、スサノオにとって望ましいのかもしれない。
血を採る目的を知った時には驚いたけど、それを果たせば誰とも関わらずにいられるのだから……。
縁側に座るスサノオへ、茶と葛餅を持って行く。
庭の先に広がる雑多とした草木は、巡察前に見た若々しい緑色から、濃いものへと変わっている。
季節は初夏を過ぎ、もはや夏。
でもここへ来てから、まだ季節が一巡もしていない。
里を出てから、状況が
これまでの出来事に思い巡らせていると、
「クシナ」
スサノオの声に、はっと我に返る。
見れば座っている隣を指先で叩き、じっとこちらを見上げていた。
何を求められているのかは、さすがに分かる。
皆とは遠ざかる一方、あたしは近くに居ることを許されているようで、込み上がる嬉しさを抑えられない。
ただ、表情には出さなかったけど。
なんだかその……恥ずかしくて。
そんな折、スサノオがぽつりと呟いた。
「ありがとう」
何に対しての礼か分からず首を傾げるあたしに、言葉が続く。
「かばってくれて」
魔犬に襲われた時のことかな? あれは勝手しただけで、気にしなくていいのに。
「そばにいてくれて」
あたしの手に、スサノオの手が重ねられる。
ここに至り、感謝を伝えたいだけではないのだとようやく察した。
「これからも そばにいてくれる?」
不安なのか、瞳は微かに潤んでいる。
勇気を振り絞ってくれたその
「いつまでも!」
あたしは笑みを浮かべ、手をしっかりと握り答えた。
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