第43話 百目樹
最初に動いたのは、御当主様。
「さて、どう攻めるか……」
そう口にしながら、単身無造作に近付く。
周りの者は止める気がないのか、ただ何が起こってもいいように身構えている。
百目樹との距離は三十尺、二十尺と狭まり、僅な間を置き零となった。
妖術の類いかと思ったけど、地面を抉るように付けられた深い足跡が、それを否定していた。
ただ純粋な、脚力。
そして勢いのまま繰り出される、鋭い突き。
狙いは不気味に蠢く、目の一つ。
太刀が刺さる寸前、しかし御当主様は幹を蹴り身を翻した。
なぜ、と疑問に思うより先に頭上から降ってくる枝の槍。
あのまま刃を突き立てていたら、串刺しになっていたかもしれない。
少なくとも、あたしなら訳も分からず死んでいた自信がある。
「こちらを誘い、仕留めにくる。やはり上位の魔物のようだ……しかし!」
瞬間、目にも留まらぬ速さで放たれた太刀が目の一つを貫く。
「
甲高く、耳障りな悲鳴が辺りに響く。
「もう少しやると思ったのだがな」
こちらへ戻ってきた御当主様が、詰まらなそうに漏らす。
「一先ず目を狙え。あの程度の速さなら、お前達でも対処できよう」
御当主様の指示を受け、前衛から中衛までの兵達が散会し、四方から百目樹を攻める。
百目樹は枝を雨のように降らせ撃退しようとするけど、御当主様が口にした通り、誰も攻撃を食らわない。
それどころか、一瞬の隙を見逃さず目を潰していく。
「凄い……」
個々の強さはいうに及ばず、流れるように攻防を繋げている。
次々と目を潰され、百目樹が苛立ちも露わに横薙ぎに枝を振るう。
これまでと方向の違う一撃に、しかし対処できない者はいなかった。
身を屈め、跳ね、綺麗に躱す。
戦いが始まり、四半刻。
百目樹の目が半分程光を失った、直後。
変化は突如訪れた。
ひらりと、花弁が舞う。
一枚や二枚ではない。
花吹雪と表する勢いで次々と宙を舞い、そしてあたし達に襲いかかってきた。
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