第48話 ドラマチックな一夜
風呂を出た後は、メイが「髪乾かしてくれる親切なおにーさんいないかな~?」とチラチラ露骨なアピールをしてきやがったので前のときのように乾かしてやり、その後はさすがにのんびりタイム。
例のサスペンスラブコメドラマの続きを観ようということになり、メイがスマホで準備を始めた。ちょうど今夜が放送日で、もう放送は終わっていたが配信でもすぐに追いかけられるらしい。
「んー、ここのテレビだとミラーリング出来ないぽいかなー? おにーさん、画面ちっこいけどスマホのままでい?」
「ああ、別に問題ないだろ」
「んっ。はいこれっ」
と、メイが普段から使っているワイヤレスイヤホンの片側──Rの方を渡してくれる。Lの方を左耳に装着したメイがスマホを操作してテーブルに立てかけると、すぐにドラマの再生が始まる。
「ほら始まるよ? 早く着けて着けてっ」
「ああ、うん」
ちょいと戸惑いつつも、右耳へイヤホンを着ける俺。
一つのスマホという小さな画面で見るせいか、自然とお互いの肩や腕がくっつくような形になってしまった。
風呂上がりということもあり、メイの体温がよく伝わってきて初めはちょっと意識してしまったが、すぐに意識を切り替えてドラマへと集中。
既にストーリーはクライマックスへと差し掛かっていることもあり、怒濤の展開の連続に二人で声を上げて驚くことになった。
数話前に敵対勢力の企みで殺し屋としての記憶を失っていたヒロインは、まるで別人のように穏やかな一般人として主人公と過ごすようになっていた。二人は旅行先で距離を縮め、就寝間際に主人公がついに思いの丈を告白する。だがヒロインはそれを断ってしまう。
「えっなんでなんで!?」
熱中しているメイが思わずそんな声を漏らす。
ヒロインは、自分のような存在が主人公と一緒になることは出来ないと告げる。
実は彼女はとうに記憶を取り戻しており、主人公を守るためあえて普通の女性として振る舞っていた。すべては主人公を守るためだった。
それでもヒロインと一緒にいたいという主人公に、ヒロインはそっと初めてのキスをする。
受け入れてもらえたと思った主人公だったが──そこで殺し屋の顔に戻ったヒロインは主人公の手を取り、自らの胸に押し当てる。
『──ここにだけあればいいの。あなたは全部、忘れていいから」
ヒロインは普通の笑みを浮かべ、『さようなら』と主人公の元を去る。
彼女を追いかけようとする主人公だったが、キスの時に仕込まれた薬によってその場で眠ってしまう。そして目覚めたときには、ヒロインのことを忘れてしまっていた──というところでその回は終了。
次回、最終回である。
「──んもぉ~~~っ! ナニコレナニコレ!? なんでこうなるのっ!? うぁーん早く続き観たいんだけど~~~!?」
ドラマが終わって大騒ぎのメイ。思わず見入ってしまっていた俺も最終回が気になって仕方なかった。
メイがスマホでSNSを覗きながら言う。
「うわ~やっぱみんな同じ感想だよ! これさぁあと一話でちゃんと収まるのかな? 続きは劇場版とかやめて~! 待つの辛すぎっ!」
「あーたまにそういうパターンもあるよな。つーか俺も集中しちゃってなんか汗かいてきたわ」
「アハハわかる~っ! もうアッツ! お風呂上がりに熱中しちゃってあたしも汗かいちゃったよ! ねっ、また一緒にオフロ入る?」
「い、いやさすがにもういいって。俺はちょっと涼んでるから、メイ一人で行ってこいよ」
「おっけ、じゃちょっと行ってくるねっ! 軽く汗流すだけだから~!」
と言って、またタオルを持って露天風呂へ向かうメイ。
その間に布団でごろんと横になる。エアコンの涼しい風に包まれながら、心地よい疲労感がじんわりと滲んでくる。今日はよく眠れそうな気がした。
ふとスマホを手に取り、メールをチェック。
露天風呂から、『ふぁ~~~ん♪』と気持ち良さげな声が聞こえてきた。
その声に笑ってしまい、俺はすぐにスマホを脇に置いた。せっかくの旅で余計なことは考えない方がいいからな。
メイは割とすぐに風呂から上がってきて、冷蔵庫に入れたおいたスポドリをごくり。なんかCMでも見かけそうな爽やかな飲みっぷりである。
「おにーさんも飲むー?」
「いやいいわー。このまま寝ちまおうかなーって」
「えーもうっ? って今日朝早かったもんねっ。明日もあるし、早めに寝よっか!」
「だなぁ」
それから二人で歯磨きをして、また布団に戻ってくる。この部屋はベッドがなく高床のスペースに布団が並んで敷かれているタイプだったが、その関係であまり布団同士を離すことが出来ず、どうしても並んで寝ることになってしまう。メイは別にそんなこと気にしてはおらず、むしろ「修学旅行みたいでおもろいね!」と楽しげであった。
二人で横になったところで、リモコンで部屋の電気を消灯。時間はまだ23時にもなっていなかったが、メイも眠たげなあくびをしている。
「ふわ……横になると眠気くるよねぇ。でもせっかくだしもうちょっと話してたいなー」
「明日もたくさん話せるだろ」
「んもー違うじゃーん。今このときが重要っていうかさー。ねってかさ、この状況ってあのドラマみたいじゃないっ?」
寝っ転がりながらこっちを向くメイ。楽しそうに笑っているのが薄暗がりの中でもよくわかった。
「二人で旅行来てさ、布団合わせて寝てたじゃん? あたしたちも同じだねっ? ちょいドラマチックかも!」
「まぁ言われてみれば確かに状況同じだな……」
「こうやって手を伸ばしてさ、あのシーンドキドキしたよねっ? やっぱ主人公のこと大好きじゃんって」
そう言って、布団の中から手を伸ばしてくるメイ。
チョイチョイと手招きをしてくるため仕方なくそちらに手を伸ばすと、指を絡み合わせてキュッと握ってきた。
「ちょ、な、なんだよメイ?」
「どうどう恋人繋ぎっ。おにーさんも主人公になったみたいじゃない? ドキドキする? さすがのおにーさんも思わずメイちゃん襲いたくなっちゃう?」
「そういう冗談そっちから言うなよ!」
「アハハハ! でもさぁ、手を繋いでキスするだけなんてなんか純愛ドラマだよねー。パパとママの影響で古いドラマとか結構見てたけどさ、昔のってああいうシーンで割とフツーにエッチしちゃってたじゃん? 最近のってそういうのなくない?」
「そ、そうなのか? そこまでドラマとか見ないからよく知らんけど」
「ふーんそっか。やっぱ時代かなー? ほら、おにーさんみたいな草食系よわよわ男子じゃ隣にこーんなカワイイ子が寝てても何も出来ないもんねー?」
「誰が草食系よわよわ男子じゃ! もういいからはよ寝ろって!」
パッと手を離して布団の中に引っ込めると、メイは「ぶーぶー」と不満顔をする。
「え~もうちょっと話そうよもったいないじゃーん。ほらほらっ、こういうときはやっぱ恋バナっしょ!」
「はぁ~? それ修学旅行とかで同級生とするもんだろ?」
「いいじゃん別に♪ つーか前にあたしの好きな人とかカレシとか訊いてきたじゃん? なら今度はおにーさんも教えてよ~。職場の同僚の美人さんとかさ、気になる相手いないのー?」
「いやいたらメイと旅行なんてしないだろ」
「アハハハそっか! じゃ学生の頃は? 先輩後輩とか同級生とか幼なじみとか、こっちに住んでたときとかさ!」
「あー……」
布団の上で頬杖を突きながらこちらを向き、ワクワク顔をするメイ。
広島に来たせいか、自然と中高生時代のことを思い出し始めた──。
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