第32話 かき氷シェア

 メイと一緒に水着を買い終えた後は、二人でゲーセンに向かいレースゲームやクレーンゲームで盛り上がったり、観覧車に乗って今日のことやくだらないバカ話をしながら過ごしているうちに、気付けばあっという間に夕方を過ぎてしまっていた。


 ──そして最後に訪れたのは、約束の場所である。


「──お待たせいたしました。『天然氷のふわふわ羽衣かき氷フルーツ盛り、スペシャルデラックス』でございます」


 あのガラス張りのオシャレなかき氷店。目の前のテーブルに置かれたど迫力のスペシャルデラックス(3000円)に、メイは両手を合わせて大きな目をキラッキラさせる。


「はあぁぁぁ~~~ん♪♪ 見てみておにーさんすごくない!? やばー盛りすぎでしょこんなん! フミっちとうとうとに写真送ろっと!」


 さっそく芸術的に盛られたかき氷をパシャリ始めるメイ。「おにーさんのも一緒に!」と俺のかき氷までセットで撮られた後、さらにはなぜか俺とメイのツーショット自撮りまで撮られた。


「はー遊びすぎてだいぶ遅くなっちゃったから、また売り切れかもーって焦ったけど残っててマジよかったよぉ~!」

「ホントな。慌てて全力で走ってきたもんだから店員さんかなり驚いてたぞ」

「アハハハそれね! もー汗かいちゃったよ! けどまた売り切れだったら泣くしさーってうっわアイス溶けちゃう溶けちゃう! ほらおにーさん早く食べよっ!」

「へいへい。JKは忙しいなぁ」

「あむっ。──ふぁぁぁぁ~~~~んおいひぃ~~~~~~♥」


 思わずこっちが笑ってしまうような幸せリアクションで満足げに頬を押さえるメイ。

 俺もさっそくかき氷にスプーンを入れ、一口。子供の頃に食べていたそれとはまるで違うふわふわでとろけるような食感に驚いた。なんというかかき氷よりケーキっぽいというか、口を刺すような刺激がなくて優しい味わいがする。高いだけあるな。


「こういう店のかき氷って初めて食べたけど、すごいな……!」

「でしょー!? おにーさんの抹茶味もイイカンジっ?」

「ああ。ちょうどいい苦みで美味いぞ」

「いいなーちょっとちょーだい!」

「おう」

「白玉も一個もらってい?」

「ああ」

「ありがとっ! やっぱ違う味シェアするのがいーんだよねっ!」


 スッとかき氷をメイの方に差し出す。メイは自分のスプーンを俺のかき氷に差し入れ、パクッと一口に頬張る。そしてまた「んま~~~~♥」と蕩け顔をした。

 それから今度は自分のかき氷にスプーンを戻すと、そこにフルーツも乗せて俺の方に差し出してきた。


「はい、じゃ今度はおにーさんっ。あーん♪」


 周りの目など気にすることもなく、こんなん恋人同士しかしないだろという自然な『あーん』を平然としてくるメイ。

 メイの向けてくるスプーンに、思わず視線が固まってしまう。そしてまた夢のことを思い出しそうになってしまった。


「あーいや。メイ、ちょ、ちょっとやめておこうぜ」

「え? なんで?」

「さすがに外の店ではさ。ほら、自分のスプーンでもらうから」

「間接キスがイヤってこと? 昨日は平気だったのに?」

「そ、そういうこと外で言うなって! と、とにかく自分で食べるから。な?」

「むぅ…………えいっ」

「もごっ!?」


 有無を言わさずとばかりに俺の口にスプーンを突っ込んできたメイ。口中に広がった不意の冷たさ、というか軽い知覚過敏で悶絶しかける!


「あっごめ! もしかして歯とか当たっちゃった?」

「やそれはへーきだけど……つああぁぁぁ~~~……っ! お、お前急になぁ……!」

「だってあーんしてくれないんだもん」

「いや、だから自分で食べるって言ったのに!」


 ナプキンで口を拭く俺を見て、メイはちょっとばかり不満そうに口を尖らせてスプーンを置いた。


「おにーさんさ、ちょっとヘン」

「は?」

「朝から妙にそわそわしてたし、さっき試着室でもなんかヘンだったし。あたしのこと、ちょっと避けてるカンジってゆーか?」

「えっ? いや、そ、そんなことないって」

「昨日のおフロとか、一緒にゲームしてたときとかはそんなカンジなかったもん。何か隠し事でもしてる?」

「は? 隠し事?」

「男の人が急によそよそしくなったときって、浮気とか隠し事があるときだっていうじゃん」

「浮気!? そんなんじゃないって!」


 つい声が大きくなりかけてしまい、周囲のカップルや女性客たちから注目が集まる。「ケンカかな?」というひそひそ話と視線が痛い。


 しかしメイはそんなこと気にせず、俺だけを見つめて詰め寄ってくる。


「じゃあなんで?」

「な、なんでって言われても」

「思い当たることなにもないの? 何もないのにそういうヘンな態度される方がヤなんだけど」


 思い当たること……。


 ない、というわけではなかった。


 ──あの夢だ。


 あの夢を見たせいで、朝メイと顔を合わせるときに気恥ずかしくなってしまった。更衣室でキスの冗談を言われたとき、つい意識しすぎてメイを突き放してしまった。メイからすれば、よそよそしい態度に見えてもおかしくない。


 俺は頭を抱えながら答える。


「…………あるわぁ」

「ほらあるんじゃん。教えてよ」

「あるけど……その、言いづらいっていうか……」

「なんで?」

「いやだから言いづらいから……」

「訊いてるのあたしの方なんだし、ちゃんと話してくれるならどんな事情でも気にしないよ。隠される方がイヤ。だから話してよ」


 メイは、いつもはあまり見せない真剣な顔でじっと俺を見ている。


 俺たちは別に付き合っているわけでもない。そこまで話す必要もなく、ヘラヘラとごまかしてしまえばよかったのかもしれない。


 だけど、ここでメイにウソをつきたくないという思いがあった。


 ウソをついてしまえば、今日の思い出がみんな良くないものになってしまうような気がした。


 だから、俺は観念することにした──。

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