第25話 3分間の命令
「あー遊んだ遊んだ! もーおにーさんがしつこいから疲れちゃったよー」
「メイだって負けるたびにリベンジしてきたろ。おあいこだおあいこ」
テレビとゲームの電源を切り、ソファにもたれながら手を上げてぐーっと身体を伸ばすメイ。久しぶりに集中してゲームをした俺も心地よい疲労に満足していた。リベンジも果たせたしな!
「それでメイ、結局命令ってなんなんだよ」
「えー?」
「いや、勝った方がっていうルールの。メイのことだからなんか決めてたんじゃないのか? 高級アイスおごれーとかさ」
「あーそゆこと? んーん、別に何も決めてなかったよー。ノリで言っただけだし」
「ただのノリかい! んじゃせっかく勝ったのに命令したいことないのかよ」
「うん。だってよく考えたらさー、おにーさんってあたしが何かお願いしたらだいたいのことはたぶんフツーにやってくれるじゃん? 命令なんかしなくてもさ」
「え? ……いや、そ、そうか?」
「そうそう。ドライヤーなんて自分から言ってくれたじゃん。けどせっかくの勝者特権だもんねー。うーんどんな命令しよっかなー」
その場でむむむと悩み出すメイ。
やれやれと呆れて笑う俺。ま、俺だって勝ったところでメイにしたい命令なんてなかったわけだし、命令に悩んでおちょくられそうなことを思えば、メイのちょっとしたワガママに付き合う方がいいかな。
するとメイは「あっ!」と声を上げてこちらを向く。
「決めたっ、枕になって!」
「は?」
いきなりわけわからんこと言い出したぞこのJK。マクラ? 枕か?
「だーかーらー、膝枕っ。ほらここ座っててよ。じゃあ借りまーす」
「ちょっ、メイ? 膝枕だぁ? 俺がぁっ!?」
文句を言う頃にはもう、メイはソファに寝転んで俺の脚に頭を乗っけていた。メイのサラサラした髪の感触や、その身体の熱が直接伝わってくる。
メイはテレビ側に顔を向けながら、俺の脚を指で突いてきた。短パンのせいでダイレクトにメイの指を肌で感じてしまう。
「おーけっこー筋肉質? ふふっ、男の子の脚ってこんなカンジなんだ」
「お、おいっ。あんまさわんなって」
「命令なんだから敗北者さんは逆らわないでくださーい。ふわぁ……このまま寝ちゃおっかなー?」
「冗談だろ!?」
「んふふ、さぁどーでしょー」
頭を動かしたメイは、今度は上に顔を向け、こちらを見上げながらニヤニヤする。
「ただ膝枕してもらってるだけなのに、なんでそんな慌ててるのー? おにーさんさぁ、いい加減もすこし女の子に慣れておいたほうがいいよ~」
「ぐぬぬ……!」
「また『ぐぬぬ』出た! ホント面白いんだけど~!」
くすくすと小悪魔嘲笑。強引にメイをどけることも出来るが、勝負に負けたのはこっちだ。メイが飽きるまで甘んじて受け入れることにしておく。
「あーもう、んじゃせめて時間制限くれ!」
「うーん、じゃ3分だけ寝かせてくれればいいよ~」
「よし3分だな! 絶対だぞ約束だぞ!」
「ハイハーイ。じゃおやすみー。おにーさんは動いちゃダメだよー」
「え、ちょっ……!」
そう言ってまた頭を動かしたメイは、今度は俺の身体側に顔を向けてきた。
──こらこら待て待て! なんでわざわざこっち向くんだよ!?
そう言いたい気持ちはあったが、言ってしまえばメイに要らぬ意識をさせてしまう可能性があると判断して堪えるしかなかった。しかしこの密着姿勢は……男にとって落ち着かない状態であることは間違いない……!
「んふー……♪」
そんなこと何も気にしていないだろうメイは、なんとも満足げにふにゃふにゃしたリラックス顔で息を吐く。その息づかいさえ今の俺にとってはよろしくない刺激だ。
テレビも消えた無音の部屋。静寂のせいかメイの呼吸音すらよく聞こえ、脚に感じるメイの感触といい、なんだか全身の神経が過敏になっているような気さえする。速まる心臓の鼓動がメイに聞こえているんじゃないかと心配になった。
──くっ……早く3分経ってくれ! 身動きがとれないのは辛いぞこれ……!
そんな状況でただ壁掛け時計だけを睨み付けるように凝視し、時間が過ぎるのを待つ。
平静に、平静にと、己の心と戦い続けた!
「……よし! メイ! 3分経ったぞ!」
「んん~……え~もう~? せっかくこのまま眠れそうだったのにぃ~」
「勘弁してくれよ。寝るならちゃんと布団で寝ろって。夏でもエアコンで風邪引くぞ」
「ハーイ……もー、こんなシチュエーションを嫌がるなんて、おにーさんってホントに男の子…………あ」
そう言うメイは、閉じていたまぶたを開いた途端に突然黙り込んだ。
「ん? メイ?」
膝上に感じるメイの顔が、じわじわと熱くなってくるのがわかる。
途端にバッと身を起こすメイ。その顔は明らかに赤くなっていた。
「わっ! きゅ、急になんだよ?」
「やっぱ男の子……あっ、べ、別になんでもないからっ! じゃ、あたし歯磨きしてくるっ!」
「おお? わ、わかった」
逃げるようにバタバタと走ってリビングを出ていくメイ。
「なんだアイツ? 起きてから急におかしくなったような……」
とつぶやいていて、すぐその理由に気付いた。
起きてから。つまり目を開いてから。
メイの視界には何が映っていたのか?
「…………平常モードだった、よな……!?」
問題はないはずだったが、よりにもよってラフな短パンスタイルで女の子を膝枕するのなんて金輪際やめておこうと思った。いやそんな機会二度とないだろうけど!
──で、俺も歯磨きを済ませて寝る準備は完了。
メイに案内されたのは、先ほども来たおばあさんの部屋だった。
「ゴメンねおにーさん。寝るとこだけどおばーちゃんの部屋でもい? ちゃんとお掃除しててすぐ寝られるところってここしかなくってさ。ベッドじゃなくて敷き布団だけど」
「十分すぎるよ。サンキューな」
「ホント? もしイヤだったらあたしの部屋で添い寝でもいーよ?」
「いやこっちでいいって!」
「アハハ照れてる! 実はあたしもたまにこっちで寝ることあってさー。きっとおにーさんもおばーちゃんが守ってくれるよっ」
そう言って仏壇に目を向けるメイ。それだけおばあさんに懐いてたんだろうな。
「あ、シーツとかは新品だから安心してっ。それと明日は一緒に買い物いこうね! おにーさんも必要なものもっといろいろあるだろーし、あたしもスマホ買い替えたいからさ」
「わかった」
と返してはおいたが、やはりメイの家に長居するわけにはいかないと思う。今日はたまたまご両親がいないだけだし、すぐに出て行ける準備はしておくつもりだった。
メイが和室の入り口から顔だけ覗かせてニマニマする。
「な、なんだよ?」
「今日はいろいろあったしさー。もしもメイちゃんとエッチなことする夢見ても許してあげるからねー♪」
「いいからさっさと寝ろ!」
「アハハハ! おやすみー」
「ああおやすみ」
ひらひら手を振って出て行くメイ。
やれやれとため息をついてからメイのおばあさんの仏壇に軽く手を合わせ、リモコンで消灯。そのまま布団に入る。
サラサラとした少し冷たい新品のシーツの触感、懐かしい和室の匂い、小綺麗で整った部屋の感じが、なんだか旅館にでも来たかのようだった。
普通、他所様の家の仏壇がある部屋なんて落ち着かないもんだと思うが、不思議とそんなことはなかった。
「……ふぁぁ…………」
あくびをして目を閉じれば、自然とすぐに眠気がやってくる。まるで脳が早く記憶を整理したがっているかのように感じられた。
思い起こせば、今日は朝からいろんなことがありすぎた。
仕事のことも家のことも、また明日からゆっくり考えよう…………──。
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