第23話 冷めないうちに召し上がれ♥
「……うーん、落ち着かねぇ……」
メイの家のリビング。エアコンの効いた涼しい部屋で一人そわそわとしながら、ソファで風呂上がりのペットボトルコーラをありがたくいただく俺。
オシャレなシーリングファンやら観葉植物やら、モデルルームみたいに綺麗なリビングではあったが、マッサージチェア、棚から覗く最新ゲーム機、ゆるキャラのぬいぐるみなど、ところどころに生活感を感じる物があった。
「両親も帰ってこない日は、この家にメイ一人か……」
こんな広くて豪勢なマンションで、普段のメイがどういう生活をしているか想像すると……少し寂しいような気がした。なんか、イメージだと犬か猫でも飼ってそうな感じはしたんだけどな。
それからだいたい二十分くらいは経ったところで、メイも風呂から上がってくる。
「ゴメンゴメーン。おにーさんおまたせっ」
「おー。いやたいして待ってないぞ。コーラいただきました」
髪をタオルドライしながら戻ってきたメイは、シルクっぽい半袖短パンの可愛らしいルームウェア姿をしていた。なんかこうして見るとプロのモデルみたいだよなコイツ。
「はー喉かわいたー! あたしにもコーラちょうだいっ!」
「え? いやこれもう口つけて──あっ」
俺が止める前に俺のペットボトルを手に取り、そのままグビッと飲んでしまうメイ。
「ぷはー! んー、ちょっとぬるくなっちゃってるねコレ」
「そりゃそうだろ。新しいのとってくればよかったじゃん。ていうかメイ、そういうの気にしないタイプだよな」
「あー間接キス? まー知らない人はやだけどさぁ。お風呂上がったばっかりのキレイなおにーさんなら別にねー。おにーさんだってヘーキっしょ?」
そう言って、口をつけたペットボトルを返してくるメイ。口紅のあとがついているわけでもないのに、つい飲み口を意識してしまう。
「あれあれ? それともおにーさんはぁ、あたしと間接キスするのすら恥ずかしいのかな~? コップ、持ってきたげよっかぁ?」
ニマニマと憎たらしげフェイスで煽ってくるメイ。ふん、大人をなめるな!
「アハハ一気に飲み干すじゃん! じゃカツ丼作りたいんだけどぉ、その前にちょっち髪だけ乾かしてい?」
そう言って、脱衣所から持ってきたらしい高級メーカーのドライヤーを手に取るメイ。
「ああ、別にいいけどこっちで乾かすのか?」
「ちょっと時間かかるからさぁ、とりまおにーさんにおまたせ言いにいこって思って。一人で待ってるの心細いでしょ?」
「俺は子供か!」
「アハハ! てかおにーさん髪乾かした?」
「ん? タオルで適当に」
「あーもうダメダメ! じゃ先におにーさんのやったげるよ」
「え? お、おいいいってば」
「いいからいいから。はいそこ座っててー。そんであっち向いてー」
コンセントにドライヤーの電源コードを差したメイは俺の隣に座ると、そのままブオーと大きな音を立てながら俺の髪を乾かし始めた。
「あーもうほとんど乾いちゃってるじゃーん! 自然乾燥は髪痛めるよー!」
「そういうもんかー!」
「せめて冷風でキューティクル閉じとくからー!」
ブオーというドライヤーの音に負けないよう、大声で会話する俺たち。メイに髪を触られるのはちょっと不思議な気持ちで、けど誰かに髪を乾かしてもらえるというのは心地よい時間だった。
俺の髪はあっという間に乾き、次はメイの番になる。
「あたし髪長めだからさー。毎日乾かすのけっこー大変なんだよねー。ドライヤー持ってるだけで腕疲れちゃうし」
「あー女の子は大変そうだよな。じゃ、今度は俺がやってやろうか?」
「え? いーの?」
「やってもらったお礼。でも正しい乾かし方とか知らないから教えてくれよ。冷風モードにそんな効果あんのさっき知ったばっかだし」
「アハハそーなんだ! いーよ、じゃあたしが教えたとーりにやってくれる?」
「おう」
そうして二人とも向きを直すと、今度は俺が後ろからメイの髪を乾かすことに。手で髪に触れるとき多少は緊張したが、すぐにそれどころではなくなる。
最初は温風で根元をとか、ある程度距離を離すとか、毛先は弱風でとか、仕上げに冷風とか、いかに俺がドライヤーの正しい使い方を知らなかったか思い知らされたからだ。
「んーきもちい♪ やってもらえるのっていいなー」
弱風のおかげで聞こえてきたメイの声は、なんだかちょっとご機嫌そうだった。
やがて乾かし終わったとき、キラキラと光を反射するメイのサラッとした髪がすごく綺麗なことをあらためて実感した。タオルドライの前にはヘアオイルもちゃんとつけているらしいし、化粧水やら保湿やらも洗面所ですぐにやってるんだとか。やっぱいろいろ手間かけてるんだな。
メイは手鏡を見ながら髪を軽くブラッシングし、ニッと笑う。
「ん、バッチリ! ありがとねおにーさんっ。けっこー上手だったよ!」
「教えてもらったからな。しかしこれを毎日となると、メイも大変だな」
「でしょーわかるっ? あーあ、おにーさんが責任とってくれたら、毎日髪乾かしてもらえたのかなー? チラチラッ」
「もうその話はいいって! チラチラこっち見るな!」
ケラケラと笑うメイ。まぁ、俺にとっても良い勉強になった。
メイは「さてと!」とソファから立ち上がり、腰に手を当てて仁王立ちする。
「それじゃあメイちゃんはカツ丼任務に移ります! おにーさん新兵はここでテレビを見ているよーに!」
「承知しました軍曹殿」
「うむ! 栄養補給は新兵の大事な任務であるからしてー!」
いつものよくわからんノリのよくわからん寸劇を済まし、メイはキッチンへ。乾かしたばかりの髪をアップにまとめ、エプロンを装着して料理を始めてくれる。
責任責任~というノリの話が続いたせいか、メイをそういう目で追ってしまう自分がいた。結婚というのはさすがにまだ想像もつかないが、ただ“メイと一緒に暮らすなら”、という想像は不思議と容易に出来てしまう。
「感じるな~? お風呂上がりでツヤツヤピカピカ、さらに魅力マシマシのメイちゃんを見るやらしー視線を感じるな~?」
「ちょ、ちょっと気になっただけだっての! いやらしくはないだろ!」
「ぷぷっ。別に減るモンじゃないからいいけどね~? ま、楽しみに待っててよ♪」
パチンと器用にウィンクをしてくるメイ。
そこで「ぐぅ~」と俺の腹が大きな返事をして、キョトンとしたメイがすぐに大笑いした。
「はいおまた~。メイちゃん特製、ふわとろ卵の絶品カツ丼でございまーす」
「うおおおお……!」
リビングのテーブルに置かれた夕食に、思わずテンションの上がる俺。
「いただきます!」
「はいどーぞ。冷めないうちに召し上がれ♥」
手を合わせ、さっそく食事に手をつける。そしてあまりの美味さに言葉を失う。
サクサク綺麗に上がったロースカツと、それを包むとろとろな卵。出汁の利いた割り下が最高の役割を果たし、これならいくらでも白米をかっ込めるという確信があるくらいに美味い。
メイが両手で頬杖を付きながら、楽しげにこちらを見ていた。
「今日はいろいろあったから遅くなっちゃったけどさ、お待ちかねのカツ丼はどーですか?」
「美味い! 美味すぎる! 埼玉銘菓に負けん美味さぞ!」
「あーそれ知ってるテレビで見たっ! アハハおにーさんそういうボキャブラリーもあんのー!」
「はは、でもネタじゃなくマジで美味しいよ。腹減ってるからってのもあるけどさ、やっぱメイの作るものは特別美味く感じるんだよな。好みってことかね」
「ふぇ?」
「メイのおばあさんもめちゃくちゃ料理上手だったんだろうなぁ。──ん? なんでぼーっとしてんだよ。メイも早く食べようぜ」
「あ、うん。──へへ、そだねっ。ってウマー! あたし天才すぎん!?」
「こればっかりは否定できませんぜ軍曹殿」
「くるしゅうないぞ新兵! 食後のアイス用に少し腹を空けておけよ!」
「イエッサー」
部活帰りの高校生かってくらいガツガツモグモグ食いまくる俺。ホント、なんでメイの作るもんはこんなに食欲わくんだろうな。
「おにーさん」
「ん?」
「今日はお疲れさまっ。いろいろがんばったね!」
そう言って笑うメイに、俺も笑って返事をした。
こうして二人、馬鹿なことを言い合いながら最高の夕食を済ませたのであった。
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