第13話 絢爛豪華。目が回りそう


 ここで働くの?

 マジ?


 右見て、左見て、下見て、上見て、なにこれお金かかりすぎじゃない?

 城には初めて入ったけど、入り口からもうすでになにかがおかしい。すごい装飾品がずらっと並んでいる。博物館ですか?

 床は多分これ大理石。それはまぁ社交界が開かれるようなお屋敷なら大体そんなものだけど、天井よ、問題は天井。

 高いドームになっていて、彫刻があたしを見下ろしている。さらにその上には天使の

絵。宝石とか、黄金とかそういう趣味の悪いギラギラした装飾ではないのかもしれないけれど、これは歴史的価値も高そうだ。

 荘厳。絢爛豪華。美麗。どうしたってそういう言葉しか出てこない。


「レナは城に入るのは初めて?」


 あたしはぼーっと天井を見ながら頷く。


「こんなに豪華な家をみたことない」

「家っていうか城だけどね」

「あ、そうか」

「レナ、言葉」


 ぼそりと話しかけられて、はっとする。

 周囲を見渡せば、怪訝そうにこっちを見ている衛兵と目があった。

 ここは王城。王子に対しての口の利き方はあちこちから見られている。間違えて呼び捨てにした日には、何を言われるかわかったもんじゃない。

 うーん。ストレス溜まりそうだぁ。


「レナ。こちらは侍女長のハンナだ」

「お初にお目にかかります。レナさん」


 綺麗なカーテシーを披露してくれたのは、あたしの母親くらいの年齢の女性だった。かちっと金色の髪を止めている。目の色は青。来ている服は年齢に見合った繊細な刺繍の入った濃い色のドレスだった。


「あ、はい。お初にお目にかかります。レナ・ハワードと申します」


 あたしはなんとかフレデリカに散々特訓された礼を返す。

 横でアルクスがほぅっと感心したように声を上げるのを聞いて、じろりと睨む。

 とにかく、このハンナさんに気に入られないと今後大変そう。あたしは顔を上げてハンナさんの目をじっと見つめた。

 ハンナさんは穏やかそうに笑っている。一見厳しそうだけど、案外優しい人なのかも?


「ハンナは気のいい人だから、きっとレナもうまくやっていけると思うよ。ハンナ、レナのこと頼むぞ」

「おまかせ下さい殿下」


 と、二人で会話が進む。

 その後、殿下とは別れて、あたしはハンナさんから仕事の内容をきいた。

 まず、あたしはアルクス付の侍女ということになるらしい。といっても殿下は男性なので、着替えや湯浴みに付き従う必要はないとのことだった。多分アルクスが嫌がるんだろうな、とハンナの顔を見て思った。

 では何をするかというと、基本的にはお茶をだしたり、部屋の掃除をしたり、朝起こしに行ったり、食事の支度ができたら呼びに行ったり。

 望まれればそういうこともある。といわれて、あたしは首を傾げた。ハンナさんはそんなあたしを見て、優しそうに笑ってたけど、よくわかんない。

 今日はお城を案内してくれるとのことで、とりあえず用意してもらった部屋に向かう。それもハンナさんがついててくれた。

 どうもハンナさん王后様のお付らしく、王后様が今日は執務中のため、時間を割いてくれたらしい。


「ということは、ハンナ様とはあまり会わなくなるのでしょうか」

「どうでしょう。食事などもかぶらないかもしれませんし、なんとも言えません。でも、1日の終わりには必ず1度集まりますから、その時にでもお話できますわよ」


 ということだった。

 あたしはこのハンナさんのこと、結構気に入っていた。やさしいし、ニコニコしてる。と思えばちょっと天然なところもあって、フレデリカにちょっと似てるんだと気づいたときは、とてもうれしくなった。


「さ、ここがレナさんのお部屋ですよ」


 と案内された部屋は、それは見事なものだった。もちろんフレデリカの部屋や、あたしの元いた子爵邸の部屋には劣るけど、十分綺麗でひろい。いいお値段のホテルみたいだった。


「といって、レナさんは通いと聞いてますから、この部屋自体はあまり使わないかもしれませんけど……」

「ああ、そうですよね。じゃあなんでこんなにいい部屋を?」

「殿下が、そのようにと」


 ひいきか。

 と一瞬思ったが、まぁありがたいので良しとしよう。

 何に使うかはわからないが、この部屋で一息つくこともあるかもしれないし。



 とか思ってたけど、思った以上に忙しかったので、部屋にはあまり帰りませんでした。

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