第2話 ティアラの手紙2
「………カイル。…おい、カイル」
「………………なに?」
帝国から隣国へ留学して一年。こちらの生活にはだいぶ慣れてきたところだった。たまに家族やティアラから手紙が届くことがある。ちょうどその返事をどうかこうかと考えていたところだった。
「そのリボンどうしたんだ?綺麗な色だな。妹からか?」
「……………そんなところ」
銀髪の端正な顔つきをした彼はこの国の王子、ユーリス第二王子殿下だ。父であるフォルティス侯爵が外交関係でコランダム王国と交流を深め友好を築いていた為、この留学中に仲良くなったのだ。
俺より少し背が高くて、いつも自信ありげな表情をしている。整った顔立ちをしているけれど、女みたいだとよく言われる俺の顔とは少し違う。
「俺も真似しようかなぁ。ほら見ろよ。あっちの女子達皆お前のこと注目してる」
ちらっと目線を向けるとたちまち周りから黄色い声が上がる。
(面倒くさい………)
心底そう思った。
「真似って…、ユーリス王子は髪短いから無理だろ?」
「これから伸ばせばいい」
「はぁ…、勝手にどうぞ」
けだるげにそう答え、立ち上がる。次の授業は実験室。そろそろ移動する時間だ。
「あ、ちょっと待てよ。俺も行く」
後ろからユーリス王子がついてくる。廊下に出ると、隣のクラスから黒髪で体格のいい生徒が顔を出してきた。
「よっ。次移動だろう?」
彼は公爵家のジュリアス。王子伝いに知り合った友人だ。二人共いい奴だが、三人並べば周囲からの熱い視線や甲高い声で廊下は賑やかになる。そして注目が多ければ敵も多くなるわけで。
「おい、カイル…。お前、最近ちょっと図に乗ってるんじゃないか?」
「………」
数名の男子生徒が前を塞ぐように立ちはだかってきた。
同国の貴族を差し置いて、帝国の侯爵子息が二人の隣に立っている。更には媚びないその態度が癇に障るらしい。
「別にカイルはいい奴だぞ。すかしてるけど」
「ユ、ユーリス王子は騙されているんですっ!こいつは王子達にすり寄ってコランダムの情報を奪うつもりなんですよ?!」
(あながち間違ってはいないが、訂正するのも面倒くさい)
コランダム国へは魔法技術を学ぶ為に来たわけでもあったのだ。
「それに、そんなリボンなんかつけて気取ったつもりか?」
「ふっ、本当だな。色が明るすぎて女みたいだな」
男子生徒達はクスクスと嘲笑う。
「あのな、馬鹿なこと言ってないでっ…………」
シュッ………!ドゴッ!!………バキッ!!!!
「……うわぁ。えぐい……」
ジュリアスが彼らを制そうとするも、俺の方が先に動いていた。
「はははっ、カイル容赦ないな~」
侮辱してきた男子生徒達を一瞬で始末し、足で踏みつける。
「うるさいよ………」
さっと髪を払うと、水色のリボンが涼し気に揺らめく。
きゃ~~~~~~~
「………」
他方からまた女生徒達の声が上がりだす。煩わしさから、キッと睨んで見せるが効果は薄く効き目はいまいちだった。
「クッ、ククッ。あのリボン、相当お気に入りなんだろうな。いったい誰からの贈り物なんだか。気になるなぁ」
「…王子。あまり深入りしない方がいい気がするけど」
「そうか?でもいつもは無視してるじゃないか。絶対何かあるな…。好きな子からのプレゼントか?」
いらぬ詮索をする王子と、少し引きながら止めようとするジュリアス。
「行くんじゃないのか?先行くよ」
そんな2人を尻目に俺はさっさと歩き出した。
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