第30話 望まぬ戦い
「わたしはエルスの方を! ティアナちゃんは、ミーファちゃんをお願い!」
「うっ、うん……! わかった! 頑張るね!」
まずはアリサが炎を宿した
「え……? 白い霧……? じゃあ、やっぱり
「ティアナ! 戦場で油断は
アリサに続いて、ミーファが
「ありがと、ミーファちゃん! そうだ、いまは考えてる場合じゃな――」
言いかけたティアナの視界に、大型のクロスボウを構えた魔導兵が映り込む。そこでティアナは目を見開き、
「マルベルド!」
金属製の太い
「いいぞ、二人ともッ! ヴィスト――ッ!」
エルスが発動させた
「敵・対象の武装を照会。……アイテム一致。バルドリオン・レプリカ。
「おい、アンタ! 言葉がわかるンなら、コイツらを
エルスが聖剣ミルセリオンを構えたまま、最初にこちらへ接近してきた、
「管理者に
「へッ!? それは、母さんの……!? アンタ、なにか知ってンのか!?」
「コマンドへ情報を伝達。待機。……応答なし。敵対的異常存在の
そこまで言った直後、兜から漏れる赤い光が、いちだんと輝きを増しはじめた。――その直後、振り下ろされた
「クソッ、やっぱ戦うしかねェのか……! レイヴィスト!」
風の魔力を
「風のおかげで、ちょっとは軽くなったぜ……! そうだ、たしかコイツらッて」
なにかに気づいたらしきエルスが、ミルセリオンを右手に持ち替え、空いた左手を魔導兵へ突き出しながら、素早く呪文を唱えはじめる。
「これで、どうだッ! デストミスト――ッ!」
「効かねェ!? やっぱ、
「殲滅する。殲滅する。殲滅する。殲滅する」
「ええいッ、もう仕方ねェ……!」
片腕で突き出された
「俺は、いったい何者なんだ……? なにがなんだか、わからねェよ……」
「エルス! 顔、上げてッ! まだいるッ!」
足元の
「さっきのを倒しても、こっから動けねェままか。これじゃキリがねェ……!」
「いいぞー! やれやれ! 魔導兵! 敵を殺せー! 王都を守れー!」
「アルフォンス陛下、万歳! アルヴィナ将軍に、勝利をー!」
絞り出すようなエルスの
「あれは……? 元の通路にいた、白い影たち?」
「あー! あれを見るのだ!
白い影らは戦いを
「アイツらが原因ッてことか……? 迷ってる余裕はねェな。ヴィスト!」
エルスが素早く呪文を唱え、
「みんな、いけるぞッ!
「エルス、こっちにも! 一、二、三……。全部で六体!」
「援護するのだー! どーん!」
ミーファが投擲した
「はぁあ――ッ! エルス! 防御は任せて!」
光の結界によって鈍足化した魔導兵を、アリサが大型剣で豪快に
「頼んだぜ、アリサ! ティアナ、敵の場所を!」
「まずは、塔の方に一体! 次はミーファちゃんの、向かって右!」
「ふふー! こっちは、ミーに任せるのだー!」
ティアナが左手の
「いけいけ、すすめー! 魔導兵! お姫さまと、王国を守れー!」
「ぅくっ……。最後は、そこ! それ――、
ちょうどエルスの右手側。はじめから一番近くにいたであろう、ひときわ小さな白い影。ティアナが示した
その瞬間、空間内に
そして、再びエルスたちが立ち上がった時。周囲の景色は
*
「戻ってきた、……のか? ふぅ、えらい目に
通路の天井を見上げながら、エルスが静かに呼吸を整える。
四人の武器が放つ、赤・黄・緑の光もあり、不十分ながらも視界は確保できている。エルスは近くにいたティアナに近づき、そっと背中に手を当てる。
「ティアナ、大丈夫か?」
「え? あ、うん……! ありがとね、エルス」
「アリサ、ありがとな。おかげで攻撃に専念できたぜ」
「うん。おかしな
アリサは右手に剣を
その瞬間、エルスの両脚を目がけて、ミーファが飛びついてきた。
「ご主人さまー! ミーは、心細かったのだ! もう離れないのだー!」
「うわッと!? 危ねェ!――ッていうか、おんなじ
エルスは右手の剣を
《エルス! みんな! 無事かい?
《俺たちは大丈夫だ!……ンでも、色々あったんで、ちょっとだけ
《よかったよ。ずっと呼びかけてたんだけどね。返事がないもんだから》
エルスは敵の襲撃を警戒しつつ、ドミナに
《ふむ。アルフォンス陛下っていうと、千年前のアルティリア国王だ。アルヴィナってのも、王とヴィルジナさまとの間に生まれた、第一王女だったはずさね》
《じゃあ、やっぱり〝さっきの場所〟は、昔のアルティリアだったッてことか?》
《可能性は高いだろうね。それに、さっきエルスが言った王都の街並み。……マイクを使うことにはなるけど、ヴィルジナさまにも確認してみるよ》
まだ、探索は始まったばかり。今後に備えるためにも、不明な要素は解消しておくに越したことはない。エルスが報告を続けている
《そういや、
《ああ、静かなもんだよ。たぶん、そいつらが〝謎の霧〟の正体だろうね。すでに、
ドミナとザグドの調査によると、ヴィルジナが封印したはずの扉は何者かによって破壊され、海底に
《そういや、ヴィルジナさんが『取引した』とかッて言ってたな。さきにボルモンクが来て開けたのか。ッてことは、アイツも
《さすがに、それはないだろうさ。大半の〝白い影〟は、外に出ちまったんだろうけど。隠し通路の奥には、まだ残ってたんだろうね》
《そっか。俺らに『取ってこい』ッて言う必要ねェもんな。……とにかく、気を引き締めて探索を続けるぜ。また、なんかわかったら、教えてくれると助かるぜ》
エルスの言葉に「あいよ」と短く答え、ドミナが暗号通話を終了する。そして、エルスはミーファの
「ッていうか。なんで二人とも、俺に寄りかかってンだ?」
「えっ? だって、壁にもたれかかったら、お姉ちゃんのマントが汚れちゃうし」
「わ、私も……! お気に入りの服が汚れちゃうから! あはは……」
エルスの肩にもたれたまま、アリサが小首を
「わかったよ……。もうちょっとだけ休憩だ。……なんか、俺もアリサが言ったように懐かしいッていうか、悲しいッていうか。よくわからねェ気分なんだよな」
両腕をふさがれたまま、エルスが再び天井を見上げる。魔法剣の光が二つ消えたこともあり、彼の視線の先には、どこまでも〝闇〟が広がっている。
「アルティリアだったからッてのもあるけどよ。ずっと昔に、俺も〝あんなとこ〟に行ったことがあるような。見た記憶があるような。そんな気分になったんだよ」
「あっ、エルスも? そうなんだよねぇ。なんか不思議で、変な感じ……」
最後は
「よかった……。みんな、あそこが不安だったんだ。……よしっ! 今日は
「ふふー! 期待してるのだー!」
「頼りにしてるぜ! それじゃ、そろそろ出発するか。――行けるか? みんな」
エルスからの確認に、三人の少女が肯定の意思を示す。そして、四人は短時間の休息を終え、再度の探索へと乗り出した。
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