第5話 異世界だぁ!……人間がいねぇ!

 「……」


 「……」


 目の前に広がるのは――普通のアパートだった。


 1LDK、ちゃんとカーテンもあるし、照明も付いてる。

 炊飯器に冷蔵庫、どこにでもあるような生活感。


 床には、ニトリっぽいカーペット。

 ナフコで買ったようなテーブルに、座布団。


 ファンタジー感……ゼロ。


 迎え合わせに座った俺と、あの少年。

 しばらく無言が続いたあと……


 「あ、あの……お茶、飲みます?」


 「貰おう」


 テンパってた彼も、沈黙に耐えられなくなったらしい。

 差し出されたのは、よくある緑茶。


 (いやいや、召喚されたのに、今んとこファンタジー要素ゼロなんだが)


 ――まぁ、落ち着いたみたいだし。そろそろ本題を聞いてみよう。


 「それで。俺を呼び出した理由は?」


 「…………どこから話せばいいんだろ……えっと、まず……君は別の世界から来たってことで、間違いないですよね?」


 「ああ」


 「その世界では……人間が、たくさんいたんですか?」


 「俺も、その一人だった」


 「…………」


 「?」


 「……この世界の人間は……滅びました」


 「……」


 「……驚かないんですね」


 (驚くというか……いや、ちょっと現実味なさすぎて頭に入ってこない)


 「いや、さっき君が驚いていた理由に、ようやく納得がいったよ」


 「ごめん……」


 「気にするな。滅びたはずの人間が現れたら、誰だって驚くさ……。とはいえ、君も見た目は人間に──」


 「やめて!!!!!!」


 「!」


 「僕は、人間なんかじゃない!! 人間に……似てない!!」


 「……」


 「……」


 「……すまなかった。配慮に欠けた」


 (びっくりしたぁぁあああ!!! マジで体びくんってなったぞ……!)


 「……聞かせてくれ。この世界の“人間”について」


 「………………昔は、人間も魔族と一緒に暮らしていたそうです。

 でも、人間は僕たち魔族と比べて、身体能力も魔力も、何もかも劣っていたんです」


 「……」


 「けど、だからこそ、彼らは色んなものを発明していきました。このアパートの建築技術だって、元を辿れば人間が発祥なんです」


 「ほう」


 「でも、ある日……人間は“作ってはいけないもの”を作ってしまった」


 「……それは?」


 「……分かりません」


 「……ん?」


 「名前すら、僕のような下級魔族は知ってはいけないって言われてます。

 ただ……それを使った結果、人間は“魔物”とみなされ、魔族の討伐対象になりました」


 (いやいやいや、やらかしすぎだろ人類……何作ったんだマジで)


 「魔族は、人間を見分けられるのか?」


 「はい。見た瞬間に分かります。感覚的なものというか、それが普通なんです」


 (それマジなら……外、出られねぇな)


 (ある程度、外のこと学んでおきたかったけど……それすら厳しいか)


 「……なるほど。人間については把握した。では、改めて聞こう。

  “俺を召喚した理由”とは?」


 ――来たぞ、本題!


 異世界に転生されたってことは、きっと何か“使命”がある。

 それを果たしてから、のんびり異世界スローライフといきましょうか……!


 「……僕の職業が、“テイマー”だからです」


 「……は?」


 (あー……うん。そりゃ“召喚”されるわ)

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