第6話 シエナ視点



 あたしは学園に入学する少し前まで、お母さんと平民として暮らしていた。

だけどお母さんが病気で亡くなり、ある日突然父親を名乗る身なりのいい男性が家を訪ねてきたの。

そこで初めてあたしが実は貴族の娘だという事を知った。その身なりのいい男性が、父親だと言ってきたの!!

一体あたしは、前世でどのくらいの徳を積んできたんだろう!?

舞い上がりそうな気持ちを必死で抑え、一応しおらしい態度を取っておいた。

だってその方が好感度が上がりそうでしょ?

使えるものは何でも使う、これってあたしの常識だし。


 それからはとんとん拍子に上手く事が運んで、無事に貴族の娘になる事が出来た。

なんでもあたしの父親は、男爵様なんだと言っていた。

でも爵位的には高くないらしい……

男爵でも貧乏ではなく、着るものも今まで着ていた物よりも断然いい物を与えられた。


 でもさ、もっと誰にも気を遣わず贅沢がしたい!!

男爵家ではあくまでも未成年で親を亡くした可哀想な少女を必死で演じていたから、たくさんのドレスやアクセサリーなんか強請りたくても強請れない。

だから引き取られた時に、貴族の令嬢令息が通う学園に通うよう言われていたから、そこでいい男をゲットしようと決めた。


学園で男爵よりも高い爵位で、お金をたくさん持っていそうな男の人を捕まえて玉の輿に乗るんだから!


新たな目標を胸に、あたしは貴族の学園に通い出した。

そして、そこで運命の相手に出会ったの!!


 学園に入学して少ししてから、すっごくカッコイイ男の人と出会った。相手は伯爵子息のアーロン様。

金髪で緑の瞳が綺麗な男の人。でも最初からがっつくと逃げられちゃうと思って、やっぱり最初は節度を持った態度をとった。

だって貴族様って平民みたく距離が近くないってお父さんが言ってたもん。

でもその態度のままじゃあたしらしくないから、その内言いたい事もやりたい事も我慢せずやったし言った。

そしたら、意外とアーロン様はその態度のあたしが良かったらしくて、更に仲良くなった。


 アーロン様の着ている服もいつも迎えに来る馬車も、男爵家とは比べ物にならないくらい素敵だった。

だから思ったの。これは運命の相手に違いないって。

このお金持ちのお坊ちゃんを籠絡して、玉の輿に乗ろう!

きっとこれ以上高望みすると、痛い目を見るからここら辺で弁えないと。


 それから、アーロン様には婚約者がいる事も知った。

相手も同じ伯爵位の女の子で、元々二人は幼馴染なんだとか。

でも二人とも、恋愛感情はないんだってアーロン様は言ってた。


 じゃああたしが貰ってもいいよね?

好きでもないなら、あたしが欲しい。だって相手は生粋のお嬢様なんだよ?

別にアーロン様じゃないといけない理由もないみたいだし……いいよね?


そう結論に至ってからは、アーロン様の婚約者フローラ様が、

『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』って言われるように行動していった。



 あたしとアーロン様がどれだけ愛し合っているか、彼はあたしを愛しているけど婚約者がいるから諦めようとしている事。

それでも想いは止められなくて、あたしを想い心を痛めている事。

お互いが相思相愛だけど、婚約者であるフローラ様がそれを許さない事。

フローラ様を愛してないアーロン様は、それでもフローラ様との結婚をやめる事は出来ない。

だからフローラ様はお飾りの妻になって、アーロン様は本当に愛しているあたしと変わらず愛を育んでいく事。


 視線の外し方、指先一つにも気を遣って想い人と結ばれない可哀想な女の子を演じた。

こんな感じで学園生活にかなり気を遣って行動してたら、案外上手く行ってビックリしちゃった。


 フローラ様には何の恨みもなかったけど、あたしの幸せの為に犠牲になってもらった。

たくさんいい物持って全てに恵まれてるんだから、少しくらい犠牲になってくれたっていいじゃん?


だからなのかな、こんな事になったのは……



因果応報——



やった事は必ず返ってくる、いい事も悪い事も。

ちょうどその日は休日だった。

アーロン様と平民街を一日デートしてルンルンだったあの日。男爵であるお父さんから急に呼び出された事で、あたしの幸せは音を立てて崩れた。

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