第7話 生まれる時も、死ぬ時も。
生まれる時も、死ぬ時も、
結局はそれぞれが独りでやってきて、
去っていく。
きっと、目には見えない、その人の専用ガイドみたいな存在が、
そばにいてくれるのだと信じたいけれど、
独りなんだ。
だから何?
この間、近所のドラッグストアで買い物をしていたら、
息子が、
31才のダウン症男子がよ?
ウエストがゴムのハーフパンツを、
膝まで下ろして、
パンツになっていた。
え、と思ったら、
パッとズボンを上げた。
信じられる?
近くにママ友もいたのよ。
私は、恥を、それも、大恥をかいた。
そして、そんな行動を見たのは、31年間で初めてよ。
恥ずかしかった。
『ごめんなさい、変なことをして』
とママ友に言って、
『やめなさい』
と息子を叱った。
『え、なに、あら、いたの、なに、どうした』
年上のママ友は気づかなかったふりをしてくれた。
優しい。
私は一生この人を、愛そうと思った。
昔の私なら、帰ってきて、とんでもなく怒り、
落ち込んだだろう。
いつだって、
息子は、私に、たっぷりと、無価値感を授けてくれる。
(どうした、ママ、
最近、楽しそうだけど、無価値感、
忘れてませんか。
失くしていませんか。
これは、あなたの、大事な要素でしょう)
折に触れて、
私を、どん底まで一気に落としてくれる。
底には、何があるのか。
冷たくて、
死んだようで、
何もしなくても良いの。
(どうせ何をやっても無駄だから、
何もしたくない)
そう言える権利書をもらえるんだよ。
いいでしょう。
でもね、何一つ、いいこともないの。
面白くないの。
別に、どうってことないし、
早い話、
疲れるだけ。
だから、今回は、
底へ落ちていく途中で、
引き返したの。
そして、こう考えることにした。
『人間は、生まれてくる時も、死ぬ時も、独りなんだ。
確かに、恥は恥だ。
だけど、私はそれによって、
落ち込まない。
だって、彼は彼であり、
私は私なんだから』
あと、数年で還暦という今、
無価値感は、必ず、
病気をクリエイトするんだ。
そして、
(私は無価値なんかじゃない。
私は私を愛する)
なんて決心して、病気を治すの。
なんという面倒な旅。
無駄な芝居。
そんな悲しみに、
もう、エクスタシーなんか感じない。
ワンパターンの芝居をしているみたいで
しらけちゃう。
私は私、
息子は息子。
ただ、決めたことがある。
買い物に行くときに、
ウエストゴムのものは、
絶対に、履かせない。
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