第20話 誘い
頭の悪そうなタイトルを唱えて、俺と
その瞳は、獲物を威嚇するネコ科を思わせる。
「九里、お前……」
こいつ、そんなに本性剥き出しにして、大丈夫かよ。
六瀬もいるのに……一応みんなの前では純真な優等生を被ってるんだったよな。
俺の心配はよそに九里は問いかける。
「センパイ方に質問です。柚葉の好きな食べ物はなんですか」
柚葉ってのは、たぶん例のエロゲーのキャラのことだ。さっきもタイトルの一部に名前が入っていたような。
当然、そのゲームに触れたことすらない俺に答えがわかるはずもなく。
「グラタン」
とりあえずれおちゃんの好物を。
「何を話しているのやら、さっぱりです」
六瀬は前髪をイジりつつ答える。マトモに取り合おうともしていない。
「……やっぱり。柚葉のこと何にも知らないセンパイ方に、限定CDは豚に真珠。譲ることはできません!」
「おいおい、俺にまであたることないだろ」
「シャー!!(威嚇の体勢を取りながら)」
なぜか知らんが、俺に対しても対抗心燃やしてるらしい。
先に協力して六瀬から奪還するという話だったと思うが……。
まあいい、ある意味では、こうなる定めだったのだろう。
ゲームは一つだけだから、遅かれ早かれこいつとも奪いあうことに違いは無い。
「なんです。この騒々しい女子生徒は。貴方の知り合いですか?」
「残念ながら、知り合いではある」
六瀬は九里とすでに出会っていることに気がついていないようだな。
騒動の発端となったリサイクルショップにて、六瀬は九里を目にしているはずだが、九里は軽い変装をしていたし、それに六瀬とは直接話したわけじゃないからわからなくても無理はないか。
「なんでもいいですが、痴話喧嘩なら余所でやっていただけませんか。ワタシを巻き込まないでいただきたい」
「テメェそうやって煙に巻くつもりだろ!」
「そうだそうだ! このエロゲー泥棒!」
騒ぎ立てる俺たちを前に、六瀬の眉間にシワが寄る。
「……鬱陶しいですね。力ずくで口を塞がないと収まりませんか」
「げっ」
再び爆発寸前の六瀬。
キレやすすぎだろ。コロコロと面倒な野郎だ。
そこに、
「いけません!」
新たなる人物が参戦する。
九里より少し高い身長。ゆるいウェーブのかかった茶髪。
「すぐに暴力をふるうのはよくないことだと思います!」
リスのように大人しそうな少女が、顔を赤くして一杯一杯になりつつ説得している。
「
あの子が、九里のお気に入りの1年の女子か。
名前は確か、
九里の審美眼は正しかったらしく、実際のところかなり可愛らしい。
なんというか、健気な雰囲気で、守ってあげたくなるような子だ。
ただバストは成長途中で……ってそうじゃない。なんでこの子混ざってきたの?
「今度は貴方ですか。先ほども口を挟んでいましたね。貴方、仮にも高校生なら、そろそろ物怖じというものを覚えてもよいのではないですか?」
「物怖じはしています。でも……わたしは、六瀬先輩のためになると信じて言っています!」
「はて。貴方の戯言を聞き入れたとして、ワタシにどのようなメリットがあると」
「それは、えーとですね……。つまり、六瀬先輩の怖いところを減らせば、もっと親しみやすくなれるのではないかと……」
「くだらない」
有原は六瀬の態度が気になって、注意をしに来たらしい。
なかなか度胸あるやつだな。
「あんなドクズのクソッタレまで思いやれるなんて。どれだけ良い子なの……」
九里は感銘を受けて、涙ぐんでいる。
しかし、反対に俺は、将来あの子はよくない男(目の前の赤髪男みたいな)に引っかかるのではないかと不安になっていた。
そうこうしていると「どうした」、「なんの騒ぎだ」と周囲に人が集まってきた。
あれこれ騒いでいたから、無理もない。
「仕方ありませんね……。ここでは人目につきます。場所を変えましょう」
俺たちが話し足りないという表情をしていたからか、なんと、六瀬の方からそんな提案をしてきた。
「場所を変えるのは賛成だが、変えるといってもどこに行くつもりだ?」
「ワタシのお気に入りの遊び場です。思えば、ワタシもまだ遊びたりなかったので――二次会でもいかがです? ついて来る来ないは
最初から答えがわかりきっている誘いを、六瀬は嫌らしく口にした。
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