第13話 来訪者

「あら?」「な……なんと!?」


 唐突な来訪者に反応する白雪と盆田。

 盆田の方は蛇が出たかのように驚いている。

 押し入った九里の方はというと、周りを確認すると、おどろきもせず冷静に告げた。


「これはこれは、ご歓談中失礼しました。1年の九里小凪くのりこなぎといいます」


 丁寧な所作で、意外にもマトモにあいさつをした。俺の目にも、今だけは九里が優等生に見える。

 2人は呆けて口を開けたまま固まっている。

 九里はお手本のような笑顔のまま2人の反応を待っている。

 そのとき、『セクバ』を開いてるスマホに再度メッセージが。しかも連続で。


『目の前にドチャクソナイスバディーの美人さんがいるんですががががが!?』

『おっぱいでっっっか!!』

『隣にオークもいる!!』


 どうやって文字打ったんだよ……。

 器用なことに後ろに組んだ手でスマホを操作していたようだ。

 知らなかった、スマホでブラインドタッチってできるのか。


 九里の目は、宝石を見つめているかのように、キラキラさせながら白雪を観察している。

 そういえば、白雪はときどき女子にも告白されているという逸話がある。こいつもそういう連中の一味だろうか?

 ようやく現状把握が済んだのか、白雪が立ち上がって楚々とした仕草で一礼した。


白雪理梨しらゆきりりです。初めまして!」

「動くと余計えちえちすぎる」


 スマホにメッセージが届く。


『初めまして! お噂はかねがね聞いてますよ!』


 こいつまさか……動揺しすぎてメッセージと声が逆になってる!


「えち、えち……?」


 しかも白雪に知識がないおかげで助かってるし。

 次は自分という流れを感じ取ったのか、次は盆田が口を開いた。


「拙者は盆田泰治ぼんだたいじで、ござる!」

「……オークが喋った!?」


 今の小さい呟きはきっと俺にしか聞こえていない、と思う。

 盆田をちらりと見ると、


「――――というわけでして、拙者生まれも育ちも――」


 よかった。自分の話に集中していて耳に入ってないみたいだ。


「オーク……?」


 1人、首をかしげている天然の美人さんがいたが、ノープロブレムだ。


「――というわけで、仲良くして欲しいでござる!」


 盆田の大作の自己紹介が終わる。

 九里の反応というと、


「ぷっ! ござるって、センパイ忍者なんですか~?」


 短い。だが、核心を突いている。

 割と身近に居すぎて気がつかなかったけど、確かにござるなんて口調で話してるやつは変だよな。

 馴染みすぎてその感覚忘れてたわ。


「忍者でござるよー。ニーンニン!」

「なんだよ盆田。その返しキモいぞ」

「ニーンニン!(めちゃくちゃあざとい笑顔とポーズ)」

「はうう!」


 何……? こいつら……打ち解けてるの!?

 白雪は微笑ましげに見守り、タイミングを見て口を挟んだ。


「そういえば九里さんは南条君に会いに来たんですよね? 二人はいったいどういう関係なんですか?」


 ぎょっとして、九里と顔を見合わせる。

 騒がしい口が止まると、現われる凜々しく精悍な小さい顔。

 くっ……相変わらず顔だけはいいな。

 またメッセージが届き、手元に視点を落とす。


『エロゲーを奪いあった仲です』


 視線を戻すと、九里はいたずらっぽく笑っていた。

 この憎たらしい顔つき。

 だが、この顔の方がこいつらしい。


 にしてもエロゲーを取り合った、ね。

 そりゃ、それが事実だけどよ。


 事実を事実のまま話すのがベストとか限らない。脚色して話すべき時もままある。

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