第11話 俺、冒険者に会う


 一ヶ月後、レガートが冒険者に話を付けてきた。


 早速、向かうのはこの間の湖のほとり。

 名目は前回同様、足場や障害物がある場所での稽古だ。

 槍はリーチが剣とは違うので、障害物が多いところでは取り回しが面倒だ。その為林に行くと言えば誰も疑わなかった。

 あと、真面目一辺倒なレガートの性格も上手く作用した。


 なので、誰も俺たちを疑ってはいない。


 湖に着くと、オレンジに近い赤い髪の男がいた。若い、レガートと同じくらいに見える。だとしたら二十五あたり?

 背に負うのは鎌だ。って言っても刃渡りは四十センチくらいだ。

 俺の大鎌の半分以下。まあ、鎌には違いない。

 なんで、あれを武器にしたんだろう?

 俺が言うことじゃないけどな。


「ギロ、早いな」

「当たり前だろ、レガート。お貴族様相手に遅刻できるかよ」


 声をかけるレガートにギロは不機嫌そうに答えた。の割りに言葉遣いは悪い。

 そして、俺を珍しそうに見る。


「まさか、この坊っちゃんか?」

「そのまさかだ」


 ギロの問いにレガートはゆうるりと首を縦に振る。

 ギロは意外そうに俺をまじまじと見た。


「坊っちゃん、何で鎌なんか使おうなんて思ったんだ? 自分で言うのも何だけどかなり使い辛いぜ、これ」

「だよね…」


 何で鎌を? なんて、誰もが思うよな。俺も思ったもん。


「これからのことは、他言無用だ」

「ああ、わかってる。最初からそういう話だろう」

「冗談抜きで、本気で、大真面目に」

「お、おう。わかってる」


 レガートの勢いにギロはどん引きだった。

 いやまあ、念を押すのも仕方がないよね。


「レノン様」

「わかった」


 レガートが頷いて見せたので、俺は大鎌を出現させた。


「うおおっ?」


 ギロは俺が持つ大鎌をぽかんと見つめている。


「ギロ?」

「っ! ちょっ、坊っちゃん! そいつはなんだ?」

「大鎌…」

「そんなの見りゃあわかる。俺が言いたいのは、それ間違いなく迷宮レア物だってことだよ!」

「そりゃ、レアだろう。精霊の贈り物だからな」

「精霊! 領主のとこの子供たちが精霊の加護をもらったってのは、本当だったのか」

「うん、本当だよ」


 俺は頷いて見せた。


「はあ、すっげぇな。おとぎ話じゃなかったのか」


 ギロは大袈裟なくらい感嘆している。

 おとぎ話。

 一体、何度聞いただろう。

 婆ちゃんのことを考えるに、精霊の加護を得るための祠詣ではそんなに昔の話じゃないってのに。


「こうなると、口止め料を貰いてぇな」


 にやり、何だか悪い顔でギロが笑う。


「ギロ、お前っ」


 レガートがギロを睨み付けた。

 が、ギロは堪えた様子もない。


「坊っちゃんに鎌の扱い方を教える。ってなら解るが、扱うのが激レアの精霊の大鎌じゃ、話がでかすぎるだろうが」

「報酬を跳ね上げるつもりか?」


 レガートの問いにギロは首を横に振った。


「金には困ってねぇよ。A級舐めんな」

「じゃあ、何が欲しいんだ」

「守護の指輪を都合してくれないか」

「守護の…指輪…?」


 レガートがゆっくりと俺の方を見る。何の話かと向けられた視線が言っていた。


 うん、まあ、俺が作ったんだけどな。


「どうして、指輪のことを知ってるの?」


 一応、あれは他言無用のものなんだけど。


「マルトが持ってた」

「マルト?」


「あいつ、ここに出入りしてるだろ? それ以外の日は、依頼とかこなしてんだけどよ。前に毒蜘蛛に噛まれたってのに、きっちり仕留めてきやがった。毒蜘蛛に噛まれたら、麻痺でほとんど動けないはずなのによ」


「マルトって、冒険者なの?」


 え、初めて聞いたんだけど。

 冒険者?

 庭師じゃなくて?


「あいつもA級だぜ。で、どうやって毒蜘蛛を倒したのか聞いたら、守護の指輪のお陰で噛まれても、動けたんだと。そんなすげーアイテム、手に入れたいだろ?」


 守護のっていうか守りの指輪には麻痺耐性三十パーセント付けたけど、それほどの威力か。

 我ながらすげーな。

 予測以上だ。

 つか、動けるって言っても麻痺残ってる状態で毒蜘蛛を倒すマルトがすげーよ。


「マルトの様子からすると、坊っちゃん辺りが都合付けたんだろ? もう一つくらい、何とかならねぇかな」

「いいよ」

「レノン様、いいんですか?」


 あっさり了承すると、エルディが目を剥く。

 別に大変じゃないし。


 マルトが持っていたのは一番最初に作った指輪だろう。あのレベルの指輪なんか、今ならあの頃よりずっと効率よく作れる。


「本当か!」

「うん、本当。だから、僕に鎌の扱い方を教えて」

「任せろっ」


 大見得を切るギロにレガートがため息をついた。


 さて翌週。

俺はさくさくっと守りの指輪を作って行った。

 落ち合うのは、湖の畔だ。

 多分この先も、ここで稽古することになるだろう。


「よう、来たな」


 ギロはレガートと俺の姿を見て手を振る。

 機嫌いいなあ。

 どれだけ、守りの指輪が欲しいんだよ。


 ギロは挨拶もそこそこに、俺に向かって右手を出す。


「持って来てくれたか?」

「はい、これ」


 俺はポケットから指輪を出す。


「おおーっ、これか」

「サイズ見るから、はめて」

「どの指でもいいのか?」

「うん」


 指なんか関係ないよ。

 好きな指にしなよ。


 頷くとギロは左手の親指にはめた。

 親指は想定してなかったから、ちょいサイズきついな。


「ちょっときついね。貸して」

「ん?」


 言われるままに、ギロが指輪を返す。それを受け取ってちょいちょいとサイズ修正。


「はい」

「え、今、坊っちゃん何かしたのか?」

「少し大きくしたんだよ」

「お、ぴったり」


 指輪は親指にピタリとはまった。

 すぐに抜けそうな感じはない。


「良さそうだね。じゃあ、持ち主をギロに固定するから」


 はめた状態の指輪に触れ、ギロの魔力を登録する。

 これで、ギロ以外は使えない。

 慣れていたせいか、初期の頃の指輪を作るのはあっという間だった。術式を書き込む余裕もちょっとできたから、持ち主登録の術式も何とか捩じ込んだ。

 転売防止だ。

 ギロを疑ってる訳じゃないんだけど、盗まれる可能性もないわけじゃないし。


「もしかして…この指輪を作ったのて」

「僕だよ。土の精霊の加護のお陰でね」


 伺うようなギロに俺は頷く。


「あ、これ内緒ね。僕が守りの指輪を作っていることを誰かに喋ったら、指輪が壊れるから気をつけてね」

「え、マジか!」


 持ち主登録以外にも術式を加えたんだ。

 俺のことを話したら、指輪が壊れるように。

 うっかり話して、俺が目立つような事態になったら困るからな。


「どこまで話していいんだよ」

「基本、指輪と僕が繋がるような話は駄目だよ」

「話せることねぇじゃん」

「口止め料なんでしょ。丁度いいよ」


 俺のことを吹聴しなけりゃ、指輪との繋がりも知られる心配はない。

 うん、一石二鳥だったね。


「まあ、いいかぁ」

「あ、あとレガートもはい」

「私もですか?」


 レガートは意外そうな声をあげて、指輪を受け取る。


「レガートも口止め料ね」

「絶対に誰にも話しません!」


 言い切るレガートの勢いからすると、指輪をもらって嬉しかったようだ。

 良かった。ついでにもう一つ作っておいて。


「一応、物理と魔法の防御と状態異常の耐性が入ってるよ。マルトとほとんど同じ」

「わかった」

「わかりました」


 二人はご機嫌な様子で頷いた。


 ちなみに、この後で守りの指輪をもう一つ作って欲しいと、レガートに土下座の勢いで頼まれた。

 ジルにバレたらしい。約束通り、レガートは指輪のことは誰にも言わなかったけど、まあ、見たら解るよね。

 別邸に出入りしている者ならなおさらに。

 で、すんごいねちねち嫌みを言われたんだってさ。


 ジルって、そう言うタイプだったんだ、初めて知った。

 クールなあっさり系だと思ってたんだけど。


 嫌み攻撃にたえられなくなったレガートが頼みに来たのだけど、その間わずか一週間。レガートの我慢が足りないのか、嫌み攻撃がそれだけ苛烈だったのか…どっちでもいいや。

 ジルをハブにした俺の落ち度でもあるしな。


 だから、ジルの分の守りの指輪も作ったさ。

 ベース銀の指輪の上、両サイドに金のラインを入れた。

 オーソドックスなデザインだ。

 それほど難しくもない。


 その指輪をジルに渡すと、すごく喜んでくれた。

 使用人に渡したもので装飾付きなのは、ジルだけだからね。

 もちろん、くれぐれも制作者が僕だとは吹聴しないように念を押したよ。

 ジルのことだから、大丈夫だとは思うけどね。




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