第二十話 シズノ初めての二日酔い

 酒の入ったシズノは非常に笑い上戸になり終始笑っていた。


「このお肉美味しー、ここ私の場所~お野菜もおいしぃ」


 いつもの凛としたシズノとは全く違う、トロンとした表情が魅力を上げている。


「シズノ様、ちょっと飲み過ぎでは?二日酔いは結構キツイですよ」

「えぇ~だってこの柚子酒って美味しすぎ、たのしいの~お肉も美味しい」


 一時間半経った鳳凰の間は酔っ払い三人を、ほろ酔いの二人が世話している空間と化していた


「ツグミちゃんおいしいよ、このお肉」

「シズちゃん、このホルモンもおいしいよぉ~」


 シズノとツグミで柚子酒の一升瓶を半分以上飲んでいた。


 酔っ払いたちは肉も酒もまだまだ止ることなく胃袋に押し込んでいる。

 冷静になった俺はヨシコさんに「そろそろお開きにした方がいいんじゃないっすか?」と提案した。


「そうだな、これ以上シズノ様の醜態を...見せるわけには...うっぷ」

「醜態って、普通に可愛いっしょ!」

「お前は、あのシズノ様が可愛いと?大丈夫か?うっぷ」

「やっぱヨシコさんも結構飲んでるよねって、日本酒二本目空いてるの?」


 目が点になる俺。ほろ酔いだと思っていたヨシコさんも、ほぼ一人で四合瓶の日本酒を二本空けていた。


 その後、支配人のヤマザキさんにお礼を言い、タクシーと代行を一台ずつ呼んでもらった。


「ここまでみんな酔っぱらうとは、俺も酔っぱらえばよかったのかな?」


 タクシーが来るまでの間、ボケーと楽しそうなみんなを見てボソッと独り言がでた。


「なに、ユウ君飲み足りないの?」


 ツグミが眠そうな目で絡んでくるが「大丈夫、俺もいっぱい飲んでヤバいから」と笑顔で返す。


「ツグミはいっぱい食ったか?」

「うん、お腹見る?ぱんぱんだよ」


 クッソ、ヤバい攻撃力だ。ひるむな俺...


「見なくても分かるよ、スゲー食ってたもんな、もうすぐタクシー来るから、シズと一緒に帰るんだぞ」

「うん、わかった~」

「ヨシコさん、タクシー来たらシズとツグミと一緒に帰ってくださいね。俺、カエデとアルファードで代行で帰るんで鍵貰って良いっすか」

「しっかりしてるな、ユウ。ほら鍵、帰ってら居間のテーブルの上に置いといてくれ。多分明日の起床ラッパはない!」

「へいへい」


 支配人のヤマザキさんがタクシーと代行が到着したことを伝えに来てくれて今日の焼肉パーティは終了した。因みに七万五千円と安いのか高いのか分からない金額だった。食べた量からすると、かなりサービスしてくれたのだろう。


 次の日、俺は起床ラッパが無くても六時に起床し朝のルーティンを済ませロードワークに向かった。


「いい朝だ」


 朝のやさしい日差しの中をジョギングするのが、実に気持ちがいい。

 柔軟を済ませ一時間ほどで帰ってきたが、まだ起きている者は居なかった。


「みんな二日酔いかな?」


 俺はベーコンエッグを作り、使ったフライパンをサッと洗いバターを溶かしてトーストを焼いた。この焼き方はトーストにバターが染みて旨いのだ。


 朝食を済ませ、洗い物をして居間で杖を出す。

 瞑想をするように俺は、周りを浮遊する杖に話しかけた。


『お前には名前があるのか?』

『……』

「あれ?シカト??」

『名前教えてくれないか?』

『お前っていうな、名はまだない』

『どこの夏目漱石だよ、ソウセキで良いんじゃないか?』

『かわいい名前を所望する』

『ソウセキはかわいくないか?』

『かわいくない!』

『うーーん、可愛い名前ねぇ、ルナっ!ルナてどう?』

『ルナかわいい、ルナでいい、ルナって呼べ!』

『おっおう、急に変わるな、いろいろルナについて教えてほしんだけど』

『いやらしいの?そーゆうの嫌い』

『うん、そーゆうのじゃなくてルナの性能みたいな、使える魔法とか』

『教えない、彼方がルナを育てるの、ヒントはない』

『後さ、ポンポン魔法作れたけどさ、そういうもんなの?』

『初期魔法制作サービス、もうそろそろ切れるから心してかかれ!』

『おっおう...分かった。これだけ教えて、回復魔法は使えるの?』

『残念、使えん』


 俺が杖との会話中に「頭が痛いです」とシズノが起きてきた。


「大丈夫でないよな、それが二日酔いだ」

「これが二日酔いなんですか、私臭くないですか?」

「大丈夫、美味そうな焼肉の残り香しかしない」

「臭いっていうんです。ちょっとお風呂入ってきます」

「ヨシコさんもまだ起きてないから、自分でお湯入れれる?」

「それくらいできます、気持ちわるぅ」

「風呂で寝るなよ」

「多分大丈夫です」


 体を引きずるようにふらふらとした足取りで、壁に手をつきながらお風呂に向かうシズに「寝るなよ」と手を振った。


『ルナはこの世界を見ることが出来るのか?』

『出来る、彼方の目を借りて見ている』

『じゃあさ、今来た人みたいに毒に侵されてる人を解毒できたりする?』

『うーん、わからん。試してみる価値あり』

『でも回復は出来ないの?』

『ルナと彼方の回復の定義が違う可能性あり、試してみる価値あり』

『うんちょっとイメージしてみるね、あと彼方って堅苦しいからユウって呼んで』

『分かった、ユウ、イメージよろしく頼む』


 俺は身体から毒が消えるイメージをするが、一向にイメージが湧かないのでグーグル先生に聞いてみることにした。


 解毒の仕組みを調べてみると、肝臓が解毒をしているようだ。ってことは肝臓の機能を上げてやればいいのか。肝機能を上げるバフか!


『ちょっと閃いたんだけど...』


 俺が話終わる前にルナが会話に入って来た。


『ユウの発想面白い、出来る』

『俺の思考も分かるの?』

『魔法を考えてるときだけわかる、他はルナが理解できない』

『うぅん分かった、じゃあ、肝機能向上バフをっと』

『アイアイサー』


 アイアイサーなんてどこで覚えたんだよっと突っ込みたいのを我慢して、肝機能向上バフを完成させた。


 そこでふと思う。初期魔法制作サービスがそろそろ終わるのに、こんな魔法作っていいの?







   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静寂の審判 -Ascension of Karma- お餅 狐 @omochico

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ