第十九話 焼肉パーティ

 臨時収入があり、ウハウハになる俺たち四人。


「ヨシコさんがご飯用意してなかったら、みんなで焼肉行かない」


 カエデが唐突に提案をしてきた。


「ヨシコさんも誘ってさ、肉食いてー」

「僕も食べたーい、焼肉っ焼肉♪」

「いいな、たまに贅沢に旨い肉が食いたい」


 ハイテンション三人組が焼肉の歌を歌いはじめ、シズが一人冷たい目で俺らを見ているのを感じるが、テンションが下がることは無かった。


 セイジャクジアルファードが駐車場に入り、運転席からヨシコさんが「おつかれさま、今日はどうだった?」と今日の成果を聞いたが、訳の分からない歌を熱唱する三人組を見てすべてを察したようだ。


「ヨシコさん、今日みんなで焼肉行きませんか?臨時収入で八十万っす」

「ホントか?焼肉いいね。シズノ様良いのかい?」


 ヨシコさんもテンションが上がり行く気まんまんで、シズにお伺いしている。


「私、焼肉食べたことないんですけど、そんなにテンションが上がる食べ物なんですか?」

「そうだね、美味いのは間違いないね。ステーキを炭で焼くようなもんだから」


 ヨシコさんがなんとなく焼肉のイメージを教えてあげてる。


「それでは今日は焼肉にしましょうか?」

「うひょーー」


 アホみたいな声を上げ歓喜するカエデを置いて、皆で車に乗り込んだ。

 ヨシコさんがゆっくり車を発進させると、気が付いたカエデが「俺まだ乗ってないって」真剣な顔で追いかけてきた。


「ちょ、俺、換金した金持ってるんだぞ」

「冗談だ、アホみたいな声上げるからお仕置き」


 ヨシコさんの一言にカエデが小さくなり、皆が笑って家路についた。


 一度シェアハウスに戻り、シャワーで疲れを洗い流し、身だしなみを整える。


「どうせ焼肉臭くなるからな」


 カエデは”ZANTETSU BLADE“と書かれたワインレッドのTシャツにジョガーパンツと非常にラフな格好で現れた。

 ツグミは七分丈の迷彩パンツにカーキのTシャツ、サマーニット帽。ミリタリーファッションでキメていた。……ちょっと可愛いじゃん、と俺は思ってしまった。

 シズノはいつも通りのパステルカラーのワンピースに薄いピンクのサマーカーディガンを着ており「シズノ様洋服汚れるかもしれないよ」とヨシコさんに注意されていたが「いいの」の一言で済ましていた。

 俺は何時ものデニムにお気に入りの吞兵衛Tシャツを着て、飲む気満々の臨戦態勢で出陣を待った。


「みんな準備は良いかい?」


 四人揃って返事をし、俺たちは焼肉屋に向かった。


「行きたい焼肉屋はあるのかい?」

「特にないっす」


 カエデは食べれればどこでも良いスタイル。

 俺はトーコさんが食べに行きたいと言いていた焼肉屋を思い出した。


「あの、”和牛短角“って焼肉屋知ってます?」

「あー、ちょっと話題になってる店か?」

「そうです。赤肉が旨いってバイト先のシェフが言ってたんで」

「あ、それトーコさんが行きたいって言ってた店だ!いいね、そこにしよう」

「僕はお肉が食べれればどこでも良い!」

「私も初なので、どこでも良いです」

「じゃあ和牛短角に行きますか!電話しとくね」

「わーい」


 ツグミのテンションが高い。多分久しぶりの焼肉なのかな?


 駐車場に車を止め「代行で帰って良いかい?」とヨシコさんはシズノに聞いていた。この人も飲む気満々だ!


「良く分かりませんが、良いんじゃありませんか?」

「いいよいいよ、みんなで今日は飲もうぜ」


 能天気にカエデが答える。

 今日は修羅場になる予感に俺は少しお酒を控える事にした。


 店に入り受付に行くと一人のイケオジが待っていた。


「お待ちしておりました。セイジャクジさま御一行ですね?」

「えっ、そうですけど、え?」

「直ぐご案内いたします。私、支配人のヤマザキと申します」


 どもるカエデの後をみんなで着いて歩く。

 間接照明でお洒落な廊下、その廊下の一番奥にある”鳳凰“と書かれた部屋に案内された。


 支配人さんが去った後にカエデがヨシコさんに「どうなってんの?」って聞いている。非常に気になる。


「来る途中に電話しただろ、予約の電話じゃないけど行くからよろしくってな」

「知り合いにしても支配人が案内ってないよな」

「セイジャクジの名前出したらこんなもんよ」

「ヨシコさんの知り合いではないんですの?」

「キヨクニ様におすすめされてたお店で、私も来てみたいと思ってたんだ。なんでもオリジナルの日本酒を卸してるんだ」

「なるほどねー、お得意様なんだ。世の中狭いな」


 そんなジャブの様な会話をしていると、何も頼んでいないのに肉が運ばれてきた。


「本日は誠に勝手ながらお勧めで提供させていただきます」

「あの、予算って確認しなくていいんですか?」

「はい、大丈夫です。御代はいただきますが、そんなに高額にはなりませんので」

「いいのいいの、カエデ任せなって。ヤマザキさん、とりあえずビール人数分と、あの日本酒一本四合瓶のもってきて」

「承りました」

「ビール来たら乾杯しよ、僕、乾杯するの久しぶりー」


 ツグミが乾杯を所望している。

 出てきた肉は部位ごとに名前が付いていた。


「ハラミ、ブリスケ、三角バラ、上タン、ミスジ、イチボ......シマチョウ、ミノ?」


 シズは肉の名前を呟いている。


「赤センマイあるじゃん」とテンションが上がるカエデに「赤センマイ?」と首を傾げるシズに「牛の四番目の胃でギアラとも言うけど、程よい歯ごたえのホルモンで食感で良くてスゲー旨味が強いの」と説明する。


 肉を焼く前に「戦場になるからな、自分の肉は死守するように」と俺がシズにアドバイスをし、楽しい宴が始まった。





   

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