第十七話 杖タンク

「ちょっと待ってくれ、とりあえず一回俺にタンクさせてくれ」

「いいけど、ケガしても知らんぞ」


 俺とカエデのやり取りに「危なくなったら僕ヘイト取るから」とツグミも賛成気味の意見を出し、カエデも「試してみるか、金掛からんし」と一言多いが賛成してくれた。


「使えるかわからんが、電気系の魔法を使えば一瞬全部しびれると思うんよ」

「使えたらいいな、痺れたところを全員攻撃だろ!」

「そうだな、ガンガンいこうぜ!だな」


 ツグミが隣でクスリと笑い、シズは「はて?」みたいな顔で俺らの会話を聞いていた。


 少し歩きシズが反応した。


「こちらの方角に7匹います。ちょっと多いですね」

「俺のタンクの初陣には丁度いいじゃね?危なくなったらツグミの挑発でダブルタンクで、な」

「ユウがいいなら良いんだけど、ツグミもそれでいいか?」

「うん、いいよ。ユウ君が危なくなる前に終わらせるよ」

「頼もしー、じゃあ杖タンクの初陣いきますか!」


 俺の軽口で移動を始めモンスターが姿を現れた。


「あれ、ウサギだ」


 姿を見たカエデが報告する。


「デッド・ラビットだね、見た目はかわいいけど、脚力凄いからシズちゃん気を付けて」

「ツグミちゃんありがと」

「おれがサンダー使かってヘイト取るから、随時倒してって」

「なに、もうサンダーって名前にしたの?」

「他に思いつかんし、俺のネーミングセンス!!かみなり~よりサンダーの方が良いだろ」

「かみなりーは無いな、せめて雷鳴とか思いつけよ。っと軽口はここまでで集中しよ」


 いいところでカエデが仕切り直しモンスターに集中する。


「使えなかったらごめんな」


 そういって俺はイメージして魔法を創作する。イメージは落雷そのもの。

 きた!「行くぞ」俺は固定したイメージの魔法を繰り出した。


 中心にいるモンスターを狙い放った雷は青白い閃光を纏い見事に命中し、直撃したモンスターは黒い霧となって消えた。更に命中したモンスターを中心に閃光が四方に散り電気の帯が近くに居たデッド・ラビットたちも感電させた。


 残り六匹。


 駆け出したツグミがバットのスイングのように戦斧を横に振り二匹を吹き飛ばした。飛んでる最中に一匹は霧になり消え、転がって落ちたデッド・ラビットも戦斧を振り下ろし霧にした。


 シズは風の矢を番え、早打ちで二匹を霧にさせた。その所作には一切の無駄がなく、シズは静を纏い、技を終えてもなお残身の気を崩さなかった。


 カエデは低い体勢で滑るように移動し日本刀を下から上に切り上げ一匹を仕留め、その返しを上手い具合に二匹目に振りおろし霧にさせた。


「こんなうまく行くと思わんかった、俺のタンク要らねんじゃね?お前ら練度積み過ぎだろ」

「だな、でもあの雷魔法スゲーな!全部痺れてたぞ」

「そうだよ、あの魔法があったから簡単に仕留めれたと思うよ」

「そうですね、止まっている的は簡単に射貫けますからね」


 なかなか良い魔法が出来た。


 魔法や杖の情報なんて、ネットにだって出回ってない。いや、ダンジョン黎明期から第一線で活躍している、エリオット・グレイの英雄譚はゴロゴロあった。しかし魔法の詳細は皆無だ、なんせ俺で三人目だし、そりゃそうだ。それに自分の閃きを他人に教えるのは、なんか抵抗があるもんな。


「二時間経過か、もう一階降りてみるか?俺らって仮にもCランクのモンスター倒してるからな」


 カエデが提案してきた。


「そうだよね、まだそんなに疲れてないし」

「そうですね、後一時間ほど滞在して......」


 シズの言葉が止まり厳しい表情になった。

 俺が「うん?、シズどうした」と聞くと「七体のモンスターが近づいてます」とモンスターが近づいてきていることを告げた。


「移動してるモンスターか、はじめてじゃねーか?」


 カエデがノー天気に狩る気マンマンで「ここで向かい討つか」と気を引き締めた。カエデのこの切り返しの速さよ、おみそれする。


「もうすぐ姿が見えると思います」

「なんだあれ、アリに見えるけどデカすぎるな」

「コンバット・アントだって、ノーマルのGランク」

「あのアゴ、ヤバそうだな。動きは遅そうだけど、本気で走った速かったりして」

「カエデ、フラグ立てるなって」

「フラグだね」

「フラグってなんですの?」


 シズの質問になんて答えるか、良い答えが出てこない。


 完全に姿を現したそのアリは、赤黒い光沢のある外殻に大きさは五十センチはあると思われる。アリは触覚を盛んに動かし俺たちの存在を感知しているように見えた。


 おもむろに一匹がこちらに顔を向けアゴを開き、液体を飛ばしてきた。


 カエデが難なく避けたが、液体の掛かったヒカリゴケは白い煙を上げ、液体の掛かった部分が綺麗に溶けてなくなった。

 周囲には苔の溶けた臭いと蟻酸の刺激臭が漂った。


「あれ、ヤバいわ!溶ける」

「ちょっと距離とって、サンダーぶち込むから」


 各々が走って距離を取ろうとしても、アリもロックオンした俺たちを追いかけて距離を取れない。


「サンダー無理!」


 俺が叫びカエデとツグミが立ち止まり応戦する体制になった。


「こっちだよっ!」ツグミが叫びヘイトを取ると同時にカエデが近くに居たアリの頭を切り落としていた。


 一瞬止まったアリをシズも炎の矢を二射撃ち応戦する。


「ちっ、ダメだな俺、……あっ閃いた!!《アイスバインド》!」


 俺が叫ぶと同時に、地面に青白い霜が走り、バチン!という破裂音と共に空気が一瞬で冷え込んだ。アリたちの足元が一斉にキュンと凍りつき動きが止まった。


「ちょ、ユウ、寒いし俺の靴凍ってるんだけど」





   

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