第十五話 シェアハウス
あの講習会から一週間がたち、何故か俺たちは共同生活を始めることになった。
それもシズノの一言で「父さまが全面的に協力してくれるので、この家でシェアハウスしましょう」とセイジャクジのアルファードで、ちょっと古い趣のある古民家に連れてこられた。
古民家と言ってもリノベーションされており、快適な空間になっている。
しかし、時代を感じる引き戸や縁側はそのままで風情が残っている。風に揺られ不定期に風鈴が鳴っているのがなんとも情緒深い。
一階には大きな居間とアイランドキッチン、サニタリールーム、他にヨシコさんの部屋があり、俺たちの部屋は二階になっている。ちゃんと防音されておりプライベートは守られている。
こんなシェアハウスにシズ以外の三人は目が点になっていたがツグミが「シオン君が回復したら一緒にパーティ組みたいかも」とカミングアウトしたので「部屋はありますので、問題ありませんよ」とシズは当たり前のように答えていた。
「でも俺らそんなにお金ないよ、バイト辞めようと思うし収入源はダンジョンに依存になるの?」
カエデの問いに「バイト辞めたら貯金を取り崩していくしかないよな」と当たり前のことを返答すると「貯金ってなに?」と壊れた表情で聞いてきた。
「シズ、一緒に暮らすのはかまわないが、俺とカエデは金銭的余裕ないよ」
「僕もないです。ここからだとバイトのコンビニ遠くて通えない」
「生活費などの負担は出世払いで良いそうです、父さまが私たちに投資するそうなので!普通に賃貸のアパートを借りるよりも安いと思うのでそれほど気にすることは無いと思います」
「シズさんあのね、僕ネコ飼ってるんだけど連れてきていい?もうおばあちゃんだからさ、最期を看取りたいんだよね」
「あら、そんなんですの?ネコアレルギーの人が居なかったらかまいませんよ。でも別れは辛いものですよ」
「うん、分かってるけど。たくさんお世話になったから最期はさ、ありがとうって送り出したいんだ...」
シズはツグミをギュッとハグし少しの沈黙が訪れた。
「頑張りましょう」とシズは優しくツグミの肩に手を置いた。
気を取り直したシズは「食事や掃除はヨシコさんが担当してくれるので、後日顔合わせをしますね。当然ですが、各々のプライベートルームはご自身での掃除になりますので、先ずは部屋割しましょう」と笑顔で振るまった。
カエデが「家庭菜園やり放題じゃん」と小突いてきたが「そんな暇ないと思うぞ」と返しておいた。
そんな感じでとんとん拍子で引っ越しが決まりシェアハウスでの生活が始まった。
シェアハウスは朝六時の起床ラッパから始まる。
ヨシコさんが元陸上自衛隊で「やっぱ朝はこれでしょ」と自前のラッパを持ち出して目覚まし時計の代わりに毎朝吹いている。
各々が朝のルーティンを行い七時からみんなでロードワークに出発する。
ここで驚いたのがツグミの持久力で走る分には俺らよりレベルが高かった。腕力は人並み以下だったが...
ロードワークから帰って来てシャワーを済ませ朝食になる。
実に健康的な生活なのだ。
それからヨシコさんの運転で一番近くにあるGランクダンジョン【船橋運動公園ダンジョン】に併設されている受講館の瞑想ルームで、チームワークと戦術、己の武器を使いこなせるよう訓練している。
そして週に二回実際のダンジョンに潜って実践訓練をするのがここ最近のルーティンだ。
今日はその週二回のダンジョン訓練の日である。
皆すこし緊張しているのが分かる。
「じゃー今日も稼ぎますか!」
緊張を解すようにカエデが鼓舞する。
「いつも通り、俺がバフとデバフ、隙見て攻撃魔法で行くよ」
「おう!ツグミのヘイト管理も大分良い感じに仕上がってるしな」
ツグミはちょっと照れて「うん、頑張ってるからね」と戦斧をW.A.R.Dから顕現させた。
「ツグミちゃん今から出してたら疲れない」
「いいのいいの、僕腕力無いから筋トレな感じ」
いつもの雰囲気でダンジョンに入る俺たち。
入場ゲートにW.A.R.Dをかざし入ダンしたことを記録する。
Gランクダンジョンは俺らみたいなニュービーしかいない。
人もそれほど多くない。圧倒的に稼げないのがその理由だが、ダンジョンに慣れるには最も良いダンジョンだと俺たちは思っていた。
「わたし弓を出すとなんとなくなんですが、モンスターのいる場所が分かるような気がしますの」
「マジ?やっぱシズの弓すげーな、でどっちに居る?」
「こちらの方角に七十メートルほど先に、何かは分かりませんが三体います」
「了解!」
カエデと俺も武器を顕現させ、ゆっくりと近づきモンスターの姿を確認する。
「初めて見るモンスターだな、サソリか?」
「W.A.R.Dで確認すると【Gランク-:スカリオンクス】って出てる」
「どうする?」
甲殻が黒光りし、カチカチと硬質な脚音を立てながら這い寄ってくる三十センチの巨大サソリ。毒針がヒカリゴケの淡い光を反射していやに主張している。
初めての敵に俺はスルーするのか倒しに行くのか、カエデに聞く。
「もちろん倒すでしょ?こんな虫けら、一刀両断よ」とカエデは口角を上げ、腰の日本刀に手をかけた。「ユウ、いつものスロウで頼む」
「了解!天狗になるなよ」
何時ものように三人バフを掛け終わってから、サソリにスロウを掛けた。
スロウがすんなり入るうちは、俺たちの戦いは安定している。
「オッケー、シズ攻撃開始」
「はい」
シズノは黙って矢を番えた。淡く青い炎が現れ火の矢となりサソリに向かって飛んで行った。
「外しませんわ」
青白い矢は外骨格を貫きスカリオンクスはその場で黒い霧となって消えた。
二匹がこちらに向かって気持ち悪い脚の動きで向かって来たところに、 ツグミは「こっちに来なさい!」と静かに声を落とし挑発した。一瞬、空気が張り詰めた。
右足を一歩引いて、重心を沈める。息を止め、戦斧に全ての力を込める。
重心をかけた戦斧を一気に振り下ろす。大気を裂くような風切り音と共に、サソリの甲殻を斬り砕く音が響いた。
すぐさまもう一匹の方を向くと、カエデが難なく日本刀で両断していた。
「Gランクならもう余裕だな、もうちょっと下まで行ってみるか?」
「そうだな、ワンパンで倒せるならもうちょっとレベル上げてもいいかもな」
俺とカエデがもうちょっとレベルを上げるかと話をしていると「あれ、なんかドロップしてる」とツグミの声が聞こえた。
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