第十二話 ケンゴウ ツグミ

 みんなと別れた僕は医療班が居るところに行き、シオン君が運ばれた病院を聞いた。


「面会はもうギリギリかな。行くなら、明日の方がいいよ」

「そうなんですね、ありがとうございます」

「でも君、いい顔してるね。なんかわかんないけど、すっごくいい顔してる。ダンジョンは大変だけど頑張ってね」


 ほころぶ顔を我慢して、対応してくれた医療班の人にお礼を言って頭を下げ、僕は家路についた。


 私鉄に乗り帰り道にも今日の出来事を思い出し、新しい仲間に出会えたことに自然と顔がにやけるのが自分でもおかしく思った。


(たのしかったなぁ、何時振りかなこんなに楽しいと思ったの?)


「コンビニ寄って晩御飯買って帰ろ」


 帰り道もちょっと気にして早足と普通の歩きを実践しよう。

 

(僕が、あのパーティの“盾”だ。先頭に立って、仲間を守れるくらい体力をつけなきゃ)


 早足で歩いているところに何時ものナンパ野郎が話しかけてきた。


「かわいいね、どこ行くの?芸能界に興味ない?」

「興味ありません、人呼びますよ!」

「いやいや、芸能界だよ?」


 めんどくさいな、走って交番行こうかな?よし、ダッシュ!


「ちょ、待てって! 逃げんなよー!」


 遠のく声を気にせず僕は交番まで頑張って走った。

 僕は走るのは得意だ。脚力には自信がある。腕力はまーそんな感じだけど。

 平均より小さい身長の僕に、シオン君は「小っちゃいんだから、持久力だけはつけとけよ!身長はそのうちついてくるって」って、毎日のように訳の分からない事を言ってた。

 身長は伸びなかったけど、持久力だけは付いた。

 そして、今こうして役に立ってるって思うとシオン君の“先見の明”に感謝しかない。


 交番に着いた僕に警察官は「どしたの、大丈夫、中学生かな?」と声を掛けられた。


「成人してます!変な男の人に声を掛けられて、怖くてここまで頑張って走ってきました」

「ホント?大丈夫かい。パトカーで家まで送ろうか」


 初老のおまわりさんは気にかけてくれたが、家が知られるのはちょと怖いと思う自分が居るのに嫌気がさす。


「ちょっとここで休憩していいですか?家も近いので落ち着いたら帰ります」

「そうかい。こちらとしたらどっちでもいいんだけど」

「お心遣いありがとうございます」

「いいのいいの。気にしないで、仕事だから」


 世間話をするほど僕はコミュニケーションに優れているわけでは無いので、スマホでポチポチ、ダンジョンにおけるタンクの立ち回りなどを調べていた。

 戦斧のタンクは思った以上に少ない現状に、やっぱりタンクはナイトなのかな?とおもって検索を続けた。

 スマホで時計を確認すると三十分ほど交番でポチポチやってしまった。

 僕はおまわりさんに「ありがとうございました。じゃぁ帰ります」と声をかけ交番を後にした。


 初老のおまわりさんが「うん、気をつけてね」と手を振ってくれたのを見て、僕も「はい!」と返して、そのままジョギングで家まで帰ることにした。


「ただいま」


 両親の居ない祖母の家。僕は玄関を開けると年老いた猫がゆっくりと僕の帰りを出迎えた、いつもの光景だ。

 

「ただいま、ブラン」


 ごろつくブランの喉元を撫で、お腹を見せたタイミングで徹底的にモフモフ攻撃を仕掛ける。

「にゃぁーーー」と喜んでいる?のを楽しんでからチュールを与えるのが帰ってからのルーティンだ。


「疲れてるから、お風呂入るけどはいる?」

「にゃっ」

「そうかい、ご飯はある?」

「にゃー」

「はいはい、水ね」

「にゃ」


 帰ってからの会話は主にブランとだけだ。これも僕が一方的に話しなんとなく返してる自己完結型の会話だけど...


 お風呂に浸かり今日の疲れを取りながら、今後の自分の立ち回りをイメージする。

 ヘイトの取り方もネットには情報があった。あるゲームに倣って挑発と言われ『俺がお前の相手だ』と強く思えばヘイトは取れると数少ない情報に合った。


(次ちょっと試してみようかな)


 僕は次にみんなに会えるのが楽しみで、風呂の中でかなり長いことイメージトレーニングをしていた…。お風呂上りの湯冷め攻撃をするブランを一方的に可愛がり(明日はシオン君の病院に行こうと)就寝した。


 次の日、いつもの早朝コンビニバイトに来た。


「ツグミちゃん、なんか凛々しくなってない?」

「え、そうですか?僕はそんな感じしないけど」

「いやなんかね、私ツグミちゃんの事好きになりそう」

「いや、ミチヨさん。それ、いつものセリフじゃないですか」

「わかんないかな、私の気持ち?」


 主婦のミチヨさんはここの店長で、旦那さんがオーナーの家族経営のコンビニでいろいろ融通してっくれる懐の深い人だ。 


「わかりませんよ」

「分かってくれたら自給上げるのに」

「オーナーに告げ口しますよ?」

「はいはい」


 といつもこんな会話から始まるのがこのバイトのルーティンで、辞めれない一因にもなっている。


「ミチヨさん、今日は残業なしで良いですか?」

「え、良いけど。何かあった?」

「シオン君が昨日入院して、会いに行けなかったから、今日行こうと思って」

「昨日連絡来たねそういえば、アキレス腱切って全治六か月とか言ってたよ」

「半年完治にかかるの?」

「リハビリとかの期間も入ってるんじゃない?知らんけど」


 ミチヨさんは「面会時間もあるから、今日は昼で上がりなさい」と早上がりさせてくれることになった。


「でもシフト分は働きますよ」と言った僕に「そこはおねーさんに任せなさい」とお昼のピークが過ぎたころ上がらしてもらい病院に向かった。





   



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