第十話 ダンジョンハンター講習会 10

「おっと話がそれたな、いいか今のはここだけの話だからな。くれぐれも本人に聞かないように、聞いたその場でお前ら死ぬからな」

「そんなこと教えるなよ、俺トウゴウさんに聞いたって白状するからな」

「俺は白を切る。いやそんなことはどうでもいい。何が起きたか教えてくれ」 


一通り何が起きたかトウゴウに報告し、それを聞いたトウゴウは腕を組み唸りながら「よく無事で倒せたな」と俺らをねぎらってくれることに少し違和感を感じた。


「でも痛みは感じるけどケガはしないんですよね?」

「そういう仕様だがな、Gランクならケガなどしないがランクが上がればある程度肉体にもダメージが現れる」

「でもよ、俺らダンジョン見学で一人ブレード・ラットにアキレス腱切られた奴いるけど、そんな攻撃でも肉体にダメージ現れないの?」

「あぁ、その程度なら痛みは強いと思うがな」


 はっきりしないトウゴウの説明に納得できないがトウゴウが今回起きたことを簡単に纏めた。


 今回武器に選ばれたものが二人いる。そのうち一人は顕現三例目の杖という事でW.A.R.Dのリミッターが外れたかもしれないとの結論に至った。


「時間を取らせたな、これで終了だ。お疲れさん」

「お疲れ様です。トウゴウさん、俺らさ圧倒的に基礎体力が無いんだけど、どんなトレーニングしたらいい?」


 トウゴウの顔がほころんだのをカエデは見逃さなかった。


「あ、俺カエデで良いっす。あの仮想空間でのトレーニングはダメなんっすよね?」

「あぁ肉体的に鍛えるのは無理だな、地道なトレーニングが必要になる。チームワークを上げ連携を確かめるようなところだからな」

「そーっすよね、俺らその辺サッパリで、良ければトレーニング方法とか教えてくれませんか?」

「なんだ、俺と一緒にトレーニングしたいのか?筋肉は裏切らないぞ!」

「いや、基礎体力を高めるトレーニング方法を教えてくれないかなぁと」

「とりあえず走れ、そこまで体力が無いのなら三分早歩き、三分普通歩きを五セットくらいから始めたらいいんじゃないか?まずは持久力を付けろ」

「そんな施設この建物にないんですか?」

「残念なことに無いんだよ。俺も何度も申請してるんだけどな。もっと筋肉フリークが集まれば通るかもしれんが...」

「そっそーすよよね、なんかパパッと持久力を上げる方法ありませんかね?」

「あーーー、あるな簡単な方法、その代わり金がかかるぞ」


 トウゴウは指で円を作りいやらしい顔で「金にものを言わすか?」と聞いてきた。


「お金のない俺らには無理っす、地道に頑張ります。因みにお金を何に使うんですか?」

「ダンジョン産の肉を食えば持久力だけじゃなく、ベースアップ的に筋力が上がるぞ!俺は好かんがな、筋肉は鍛えてなんぼだ!」

「そーっすよね、鍛えてなんぼっすよね。あっ、だからウサギの肉がキロ10万もするんすか?」

「肉のドロップ率は低めだからな、売らずに食うのも一つの手だぞ。その場合収入は雀の涙ほどになるがな」

「あの、モンスターの核とドロップ品以外に換金できるアイテム?ってあるんですか?」

「お前らはそんなことも調べないで来てるのか?」


 小声でツグミが「僕は知ってま~す」とアピールしている。


「たまに倒したモンスターがアイテムをドロップする。ポーションやキュアポーションが入ってれば大当たりだ、後はボスを倒すと宝箱が出現する。宝箱はポーション系から防具、良く分からんアイテムが多いな、防具はW.A.R.Dのように自動アジャストみたいに体にフィットするから面白いぞ」

「へーすごいっすね、武器は無いんですか?」

「武器はW.A.R.Dの武器を使うことが基本だからな、宝箱にあったとしても売れないんじゃないか?」


 トウゴウは一通り説明をし満足したのか手を上げ「精進しろよ」と颯爽と去っていった。


 トウゴウが去ったミーティングルームで今後についてどうするか話すことにした。


「俺とユウは今年で大学を卒業したんだよね、就職活動してたけど諦めてダンジョンデビューすることにしたんだ。なんかクソみたいな会社しかなくてさ」

「カエデの言う通り、働くのが嫌なわけじゃないよ。今もバイトしてるしバイト先からも社員にならないかって誘われてるけど、なんかここじゃないと思ってな」

「僕は高卒でこんな顔立ちでしょ、いろいろあって引きこもってたんだけどシオン君に誘われて。自立出来たらいいなって」

「私は今まで親の言いなりに生活してきたの、それが正しいと思ってたしね。でもそれが疲れちゃって、反発したくなってここに来ましたの」


 各々が自己紹介的にここに来た理由を教え合った。


「俺さ、最初はゲーム感覚だったけど、金髪君シオンだっけを襲ったブレード・ラット見てから考え変わったわ」

「私にとっては、現実の中の“現実逃避”みたいなものだったのかもしれませんの」


 カエデがぽつりと呟き、シズは自分の今の状況を客観的に分析している。


「なんだ、あれだな。みんなで一皮むけようぜって感じか」

「カエデが言うとなんか違う意味に聞こえるな。こういう時は自分の殻を破ろうぜの方がいいんじゃね」

「うるぜーみんなで成長しようぜ!」


 和やかな笑いでトレーニングの打ち合わせをして別れた。


 こうして、俺たちは本当の意味でパーティになった。まだ未熟だが、だからこそ、この仲間と一緒に成長していける気がする。




   

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