第九話 ダンジョンハンター講習会 9

 俺たちはかなり納得できる戦闘訓練が出来たと思い訓練を終えた。

 課題も見えた。基礎体力の向上!これがこのパーティ全員に最も必要なこと、プラス、チームワークの向上と俺の魔法をどのようにチームに貢献させるかも課題だ。


「早いなお前たち、まだ訓練をしているパーティもいるが、このまま解散でもいいぞ。その場合は担当職員から必要事項の説明を聞いての解散となるがどうする?」

「その前に質問いいですか?エレーナ教官はGランクのクリムゾン・ラットってモンスターはご存知ですか?」

「クリムゾン・ラットだと……? あれはGランクじゃない、Cランク相当の危険モンスターだぞ。」


 エレーナ教官は一瞬、眉をひそめた後、鋭く言葉を続けた。


「Gランクモンスター限定の訓練エリアだ。通常なら出るはずがない。……お前たち、どこでその名前を知った?」


 カエデが「Gランクに居ましたよ、スゲー強かったけど、まっ俺らにかかれば相手じゃなかったっすけど」とドヤ顔で報告した。


「W.A.R.Dの設定バグ?これは初かもしれん……この件は上に報告する必要があるので詳しく教えてもらう。いや、お前たちがいいなら担当を呼びそのまま報告してくれ」


「えーめんどくさいっす」


 カエデの発言に厳しい顔になったエレーナ教官は「これは強制だ反論は認めん」とキッパリ言い切り逃げ場を消された。


「も―めんどくさいな、じゃーさっさと済ませちゃいましょう」

「担当者を呼ぶのでちょっと待ってくれ」


 担当者を呼ぶエレーナ教官から少し離れ、俺はカエデに「もうちょっと大人になれって、いつまで高校生気分でいるんたよ!俺ら成人してる大人だぞ」と注意した。


「へいへい、でもよ俺らって永遠の高校生だろ」

「あら、そうなんですの?」

「え、いや、物のたとえというか、そういう心を常に持とうぜ?的な...」


 シズの天然の突っ込みはちょっと新鮮だ。俺も見習おう!


「ねーみんなの連絡先教えてよ、トレーニングするならみんなでやろうよ」


 ツグミがいい仕事する。


「そうですね、一人では私怠ける自信がありますの」

「俺もそうなんだよね、一人で黙々を運動するのって苦手」


 この感じ、仲間とふざけて、ちょっと真面目な話もして、でも全部笑いで終わる。こういうノリが、まさに高校生なんだよな。

  そんなキャッキャウフフしてると、軍用ゴーレムでも連れてきたのかってレベルのごっつい男性が現れた。


「お、楽しそうだな。担当者のトウゴウ ハルムネだ、ちょっと移動するんでこの空間から退出する、いいかな?」

「あら、大きいですね、筋肉なんですの?」

「あぁ、筋トレが趣味なんでな」

「では退出する」

「はーい」

 

 カエデの何とも気のない返事で一人ずつログアウトしていった。


 リクライニングで意識を取り戻すと椅子は自動的に通常角度に戻った。


 その場にトウゴウ ハルムネが何故か腕を組んでこちらを睨んでいた。


「よし、みんな覚醒したな。移動する。リーダー先頭と行け、指示を出す」

「へーい」

「この場での返事は【はい】だ、以後気を付けろ」

「はーい」

「はい!だ。お前ら一般人にはちょっと難しかったか?」

「敬意がないのは教官って立場以前に、人としてどうかしてると思うけどな」

「お前らに必要か、敬意?ああ、それは“信頼に足る相手”に向けるもんだ。残念だったな」


 カエデが鋭い目つきで振り返りそうになったところで、俺が「大人になれって、癇癪起こす場じゃねーぞ」とたしなめるがカエデはトウゴウに突っかかった。


「任意なんだよな、なんでそんなに偉そうなんだよ」

「やはりお前は馬鹿か。任意ではない強制だ。エリーは言ってなかったか?この調書はお前らの為に聞くことではない。一つのインシデントをして記録を残すことが目的だ」

「ちょっとカエデ君落ち着きなよ。ね」


 ツグミがカエデの手を握り目の前に顔を向け目を見つめ「ね、落ち着こう」となんとも言えない顔でカエデにお願いした。


「ちっ、わかりました。さっさと済ましてくださいね」

「あら、カエデもお子様ですがトウゴウ様も変わりませんね、争いごとは同じレベルじゃないと起こらないものですよ」


 シズのぶっこんだ発言に俺は開いた口を閉じる事が出来なかった。

 トウゴウも驚いた顔をしたが、一つ咳払いをし行先を告げ移動を開始した。


 そこは少し狭めのミーティングルームだった。

 入口近くにデロンギのコーヒーマシンが置いてありトウゴウが「お前らコーヒーでいいか?」と人数分コーヒーを入れてくれた。


「なんだやさしいとこあるじゃん」

「俺が飲みたいんだ。お前らの分はついでだ、ついで」

「ありがとな、おっさん」

「おっさんではない、トウゴウでいい」

「ありがとな、トウゴウ」

「おぉ」


 カエデはスティックシュガーを三本とミルクをたっぷり入れ「うまいうまい」と席に着き「お前らも席に座れよ、さっさと終わらせようぜ」とお子様仕様のコーヒーを嗜んで座席することを俺らに勧めた。


「トウゴウさん、エレーナ教官ってなんであんなに日本語ペラペラなんですか?イントネーションも普通だし」


 カエデが全然関係ない質問をトウゴウにする。


「エリーか、アイツはほぼ日本人だ。出身はたしかロシアだったはずだが、日本のカルチャーに憧れた日本に来てスターウォーズにハマった変な外人だ」

「日本のカルチャーってアニメや漫画っすか?」

「そうだな、ここだけの話、ちいかわが好きらしい。ハチワレのグッズを身に着けてるのは内緒だ」


 なんだかんだでカエデとトウゴウさんは気が合うようだ。





   

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