第七話 ダンジョンハンター講習会 7

 俺は先ずシズノに命中率向上のバフを掛け、次にクリムゾン・ラットにスロウのデバフを掛けた。


 なんとなくバフ、デバフはイメージで使えてしまった。


 シズの足元で薄い緑色の魔法陣が展開されシズに吸収されるように消えた。

 スロウの掛かったクリムゾン・ラットは足元の炎が小さくなって動きが重そうになる。

 

「シズ、全力攻撃!」

「承知いたしました」


 矢を握ることなく弓の弦を引き絞ると、空気が一瞬で湿り気を帯び、シズノの手元に透き通る蒼い矢が現れる。「はいっ!」の掛け声でクリムゾン・ラットにめがけて矢が飛んで行った。

 炎を纏っているから水の矢なのだろう。属性矢が使えるのは非常に魅力的だ。


 こちらに気が付いたクリムゾン・ラットはシズノの矢を避けることが出来なく右肩に刺り、一瞬纏っている炎が大きくなるが、気にする様子もなくシズに敵意を見せた。


「シズ、もう一発いけ!」

「はいっ!」


 シズノの矢は当たり、リアクションもあるが全くクリムゾン・ラットには効いているようには見えなかった。

 俺はツグミに防御力向上を掛け、カエデに攻撃力向上を掛けた。

 

 ツグミとカエデの足元でも色の違う魔法陣が展開され二人に吸収されるように消える。

 スロウのデバフでクリムゾン・ラットの動きは遅いが着実にこちらに近づいている。


 シズノにも攻撃力向上のバフを掛け「シズ、もっと打ちこめ!」と指示をだす。


「え、ヘイトってどうやって取るの?」


 ツグミがテンパってる。


「そのまま斧を頭にぶち込んでやれ、カエデも一緒に攻撃、このままだとシズからヘイトが剥がれん」


 俺は今の状況を見て二人に指示を出す。


「了解!ツグミ全力で攻撃!その斧をおもっきし振り下ろせ」

「わ、わかった」


 ツグミは自分の身長ほどある斧を上段に構えそのまま振り下ろした。


「やぁーーー」


 振り下ろされた両手剣はクリムゾン・ラットの頭にヒットし鈍い音が響いたが進行は止まらなかった。決して弱い攻撃ではないと思うがラットが異常にタフなのか?


 攻撃が当たると、炎が上がる。ダメージは確実に与えていると俺は確信した。


 追い打ちするようにカエデが居合切りのように日本刀を打ち下ろすがクリムゾン・ラットの動きは変わらなかった。


「斬鉄剣どうした?」

「そんな余裕ねえよ!」


 もうその後は皆が入り乱れて波状攻撃をくりかえす。


「後十秒でスロウ切れる、掛けなおすから」

「攻撃魔法ないのか、ユウ?」

「あったら、使ってみるか?」

「ちょっと僕もう腕上がらないかも...」

「私もちょっと疲れました。こんなに矢を撃ったことないです」

「ちょっと仕切り直しでこのネズミとの戦闘は一旦止めようよ」

「お帰りいただくことは出来ないのか?」


 ツグミが音を上げ、俺が送還?をカエデに提案する。


 攻撃を繰り返しながらも「出来ねーよ」とカエデは一言吠えた。


「了解、攻撃魔法つかってみるか!」


 俺はクリムゾン・ラットの方に向き直り攻撃魔法を展開しようと意識を集中させた。


 意識を集中すると、漂っていた杖がゆっくりと前方のクリムゾン・ラットに向った。

 その瞬間、俺の脳裏に青白い氷槍の映像の“イメージ”が、雷鳴のように閃いた。次の瞬間、杖がうなりを上げ、氷の槍が放たれた。


 使った俺が一番驚いたと思う。


 蓄積されていたダメージがようやく表れたのか少しクリムゾン・ラットが体制をくずした。


 それを見逃さずシズノは渾身の力で弓を撃ち「もうダメ」とその場にひざまずいた。

 それに続きカエデが上段に構えた刀を振り下ろした。クリムゾン・ラットは刀が振り下ろされる直前、最後の炎を爆ぜさせるように咆哮した。

 だが、すでに遅かった。閃光のような一閃が空気を切り裂き、赤熱する首元を正確になぞり胴体から頭が落ちた。


 三人がその場に座り込みお互いをねぎらっている。俺も入れてくれと思うが、この勝利は三人のものだろう。


「ちょっと休憩にしようぜ、Gランクでこんな敵だったら連戦なんて無理だ」

「Gランクが一番下なんですよね、ちょっと設定間違ってますよね」

「ドラクエで言ったらスライムだろ、強すぎ、逃げないメタルスライムかよっておもったわ」


 カエデとツグミはゲーム談義に移行しようとしていたが「ちょっと今の戦闘についてフィードバックしよう」と俺が二人にくぎを刺した。


 カエデとツグミの表情が一瞬だけ引き締まった。さっきまでのノリとは違う。

 これは“訓練”であって、遊びじゃない。その空気を、誰もが少し感じ取っていた。


「私からいいですか?先ず自分が非力だと感じました。体力もありません。基礎体力をつける必要があります」

「それは僕も思った。軽い斧だと思ったけど、一回の戦闘でこんなに疲れると思わなかった」

「そうだな、これは全員に言えることだと思うぞ、その前に一応仮パーティだけどこのまま組みたいって人はいる?」


 カエデがいきなりぶっこんだ質問をしたが、俺とカエデは既に二人で組むことは決まってるからツグミとシズノはどう思うかか。


「僕はこの四人で組みたいと思います。自分の力も出せると思う」

「私は家族の説得が必要ですが、ぜひお願いしたいと思います」

「ユウお前は?」

「え、俺も必要なの?俺は無条件で組むよ。てか俺の存在が知れ渡ったら俺が居れるかわからんけど」

「天狗にならない!よし、この四人で組もう。でもツグミ、シオンだっけ?がダンジョンハンターになったらどうするんだ?」

「うーん、その時に考えるよ。回復までに時間かかると思うし、僕に付いて来れるかわかんないしね」

「天狗にならない!よしパーティ名を決めよう」

「そんなことエレーナ教官言ってたか?」

「パーティ組んだら名前つけるの常識だろ!」

「そうなのか?でも俺ネーミングセンスは皆無だからな」

「知ってる。ここはシズに決めてもらおう、どうですかシズノさん?」

「私が付けるんですか?パーティ名というのはよく分かりませんが、私の好きな四字熟語で……【花鳥風月】はいかがでしょうか?」

「よし、それで行こう」


 俺とツグミも「「異議なし」」とハモっていた。





   

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