第六話 ダンジョンハンター講習会 6
皆が皆の武器を吟味して俺たちは扉から出た。
結構な時間を扉の中で過ごしたが、扉の外の世界はそれほど時間が経過してないようだった。
「どうだ、お目当ての武器は見つかったか?」
エレーナ教官がカエデとツグミの武器を見て「うんうん、良い武器だ」と感心してシズの和弓をみて顔が変わった。
「選ばれたか?これ凄いな、おめでとう。一つ忠告しておこう、使いこなせ、武器に使われるなよ」
「はい」と軽い返事をしたシズと対照的に、エレーナ教官の目は笑っていなかった。
真剣に忠告しているのが分かった。
ざわつき始めた空気の中、エレーナ教官の目が俺の“武器”に向いた瞬間、場の熱が一瞬にして凍った。
……動かない。まるで映像が止まったかのように。
その静寂は、誰も声をかけることすらできないほど。
やがて教官が小さく近寄ってきて、まるで秘密を耳打ちするように訊いてきた。
「これは……何かわかるか?」
「杖、ですよね?」
教官は小さく目を見開き、わずかに頷く。
「そうだ。それは“杖”だ。だがここまで装飾の無いのも珍しいな、はっきり言って木の枝にしか見えんし。と、言っても世界でまだ二例しか顕現していないからな」
「えっ俺が、三例目?」
「ああ。……もしこれが本物なら、お前はきっと――歴史に名を遺す、お前は英雄エリオット・グレイを知らんのか? 」
「存じ上げませんが......」
「そうか、帰ったら調べてみろ。彼の者も杖を使い英雄の称号を受けたものだ」
教官は真剣な眼差しをこちらに向けたまま、そう言い切った。
エレーナ教官は気を取り直し皆の注目を集めるよう手をパンパンと二回鳴らした。
「皆武器を選び終わったな。これからパーティごとに模擬戦闘を行う、実際にダンジョンに行く前に十分にチームワークを上げておけ。この施設は無料で使うことが出来るからな、金にはならんが死もない、納得できるまで修練しろ!」
教官が各パーティに一声かけ別の場所に飛ばしているように見えた。
エレーナ教官がパーティごとに何かを指先でなぞると、地面に魔法陣のような紋様が浮かび上がり、瞬時に光に包まれる。
それが、まるで“転送”されるかのように消えていく。
俺たちの番が来た。
「このパーティのリーダーは誰だ?」
「特に決まっていませんが」
カエデが答えると「ではお前がリーダーだ、W.A.R.Dの操作で敵を出すことが出来る。最初は一匹をパーティで、なれれば一人で倒せるようになるまで修練だ」とカエデがリーダーに任命され簡単な説明を受けていた。
「え、マジで? 俺、リーダーってタイプじゃないんだけどなあ……でも、やってやるか」
「では移動させる」
「あの、終了時間は?」
俺が教官に尋ねた。
「なんとなく気が付いていると思おうが、この場所は現実世界と時間の流れが違う。この先の戦闘訓練をする場所は更に時間の経過が遅い。飽きるまで訓練してこい、一応現実の時間でヒトロクマルマルに終了予定だ」
「ヒトロクマルマル?」
シズノがキョトンとした顔で繰り返した。
「自衛隊用語でね、十六時に終了予定だって」
ツグミがシズノに耳打ちした。
教官は俺たちにそう告げるとW.A.R.Dの操作を行い俺たちにウィンクした。
俺たちの足元が淡く光を帯びた。ふと見ると、軽く握っていた杖が俺の手を離れ、周囲をゆっくりと漂い始めている。
「ユウ、どうなってんの?」
「俺に聞くなよ!俺にも理解不能...ではないな、なんか使い方わかる...」
「マジで、選ばれし者って感じだな!」
俺とカエデのやり合いにツグミが「作戦会議しようよ」と提案してきて、俺とカエデはツグミとシズノに「ゴメンゴメン」と謝った。
「武器から、ツグミがタンクで俺がアタッカー、シズが遊撃、ユウが補助って感じじゃね?」
カエデはまんまゲーム感覚なのか、そんなことを言ってきたが、一理あるを思ってしまう俺もいる。
ツグミも頷いている。シズノだけはちょっと分からないって表情だけど、そこはおいおいでいいだろう。
「モンスターが出たら、シズが弓で狙ってこちらに注意をそらす。で、こっちに来たらツグミがヘイトを取って俺がメインで攻撃する。って感じでいいか?」
「まんまゲームだね、先ずはそれでやってみよ」
「俺はどうする?」
「デフ、デバフはあるのか?あれば使ってくれ」
「了解。とりあえず一戦してからより煮詰めていこうぜ。シズは大丈夫、理解できる?」
「会話の内容から、私が先制攻撃をするのは分かりましたが、後は良く分かりませんが、早くこの弓を使ってみたいです」
「おぉ、いいね。じゃー【 Gランク :クリムゾン・ラット】ってのを召喚しますよ」
「名前カッコいいね!僕もワクワクしてきた」
カエデはツグミとシズに行くよっと合図をし「サモン、クリムゾン・ラット」と叫んだ。
「ブハァ(笑)!いつからサモナーになったんだよ」
噴き出した俺の言葉を皆が無視して一点を凝視していた。
召喚の魔法陣が赤黒く歪み、焦げた風のような熱気が吹き上がる。そこに現れたのは、赤熱する炎をまとった異形のネズミだった。
「あれ、Gランクなんだよね、なんか僕にはすごく強そうに見えるんだけど」
「あら、奇遇ですね。私にも非常に強そうに見えます」
「だな、クリムゾンって書いてあるから赤いネズミかと思ったけど、あれ炎を纏ってるよな、ちょっとデカいし」
「なんだよ、みんな無視して、Gランクのモンスターなんだろ」
顔を上げ召喚されたクリムゾン・ラットを見てちょっと驚いた。
そこに居るのは体長30cmのネズミ型のモンスターだが、炎を纏い赤い目が更に強さを演出しているように見えた。
「作戦通りにまずは戦ってみよう。痛いけど死なないし、こんなところで躓いていたらこの先には進めないぞ」
カエデが鼓舞する。
俺も頷き、敵を凝視すると色々とイメージした魔法が頭に浮かんできた。
「こりゃスゲー、行けるぞこの戦い。バフとデバフを掛ける。俺が合図をしたらシズ攻撃開始だ!」
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