第五話 ダンジョンハンター講習会 5

 意識を取り戻した俺は知らない場所に直立で立っていた。

 横を見るとカエデとシズノが立ってはいるがまだ意識は無いように見えた。

 カエデの隣のツグミは俺をみてウィンクしてきた。ちょっとドキっとしてしまった。


 ほどなく受講者全員意識が回復したのか、辺りを見渡す者や手を開いたり握ったりする者、屈伸運動をしたりと、各々がこの空間を体験していた。


「よし、全員私の声が聞こえるな。ここは〈導きし者〉が提供してくれている仮想空間だ。ケガはしないが痛みは感じるから無理はしないように」


 静寂な空間にエレーナ教官の声が響き渡る。


「これからお前らは武器を選ぶことになる。イメージするとイメージ通りの武器が現れる。私もこれでレーザーブレードを手に入れた。ここで手に入れた武器がお前らの相棒になるからな!使いたい武器があれば、強いイメージ力が必要だ、健闘を祈るよ!」


 ニヤリと表情を変化させる教官はどこか楽しそうだ。


「銃も可能ですか?」と受講者のだれかが聞いた。


「銃は正直おすすめできない。ランクの低いダンジョンだと十分通用するが、ランクが高くなればなるほど威力不足が否めない。が可能性はゼロではない、上手く育てることが出来れば化けるかもしれない」


 一呼吸おいてエレーナ教官は「武器庫を出すので全員その場で待機」と受講生に告げるとエレーナ教官の後ろになんともゴージャスな扉が現れた。そう扉だけ現れたのだ。


「いいか、使いたい武器をイメージしろ、イメージが弱いと武器が何種類も現れることになる。武器を自分好みにカスタマイズしろ、思い通りの武器を顕現したい者は強くイメージしろ」


  小声で「ケンゲンってなんですか?」とツグミがカエデに聞いていた。

 カエデは「自分の物にするって意味じゃない?」とカエデも分からないのか間違ったことを教えてると、シズノが「顕現とは目に見えなかったもの・存在が、目に見える形で現れることですよ」とやさしく教えていた。


 俺が「要は具現化させるって感じじゃない?」と呟くと二人して納得した顔をしていた。


 エレーナ教官に促されパーティごとに武器庫に入って行く。扉を開いたときに「極稀だが武器に選ばれる奴がいる、武器が目の前に現れたら素直に使ってやれ」と入室しようとしていたパーティとこれからは居るパーティたちに教えた。


「ユウ何使うかイメージしてるか?」

「まったく、インスピレーション?第一印象で決めようと思ってな、そういうカエデは決めてんの?」

「俺?俺はやっぱり日本刀じゃね、石川五右衛門の斬鉄剣とか憧れだからな」

「なるほどね、シズも何か決めてるの?」

「私ですか、私は薙刀を嗜んでいたので最初は薙刀を選んでみます」

「あーそんなイメージあるわ、ザ・古風って感じがするからな」


 カエデが納得してツグミにも使う武器を聞いた。


「僕はシュタルク様に憧れてたので戦斧にしようと思います。あとMMOでも戦士を好んで使っていたので。斧って浪漫があるよね」

「おっ、おう武器には浪漫が付きものだ」


 武器談義が盛り上がってきたところで俺たちの番が来たみたいだった。

 

 扉の中はただ白い空間が広がっていた。

 が、俺以外はは違うようだった。


 カエデとツグミは目を輝かせ目の前の空間に歓喜している。

 シズノはいぶかしげな表情を見せていたが、目の前に手を伸ばすとそこには朱色の和弓が握られていた。


 俺は目線を戻し目の前を見るとある武器が鎮座していた。


「俺はお前に選ばれたって事なのか?」


 自然と俺の口からその言葉が出たが、目の前の武器は何のリアクションもなく、ただその場に在るだけで、重厚な威圧感を放っち強い生命力を感じた。


 そっとその武器に触れようと手を伸ばしたら、異常なほどの情報に脳の主導権を取られた。

 激しい痛みに俺はその場にひざまずき痛みが治まるのを待った。


「ユウ大丈夫?」


 やさしいシズノの声が少しだが痛みを和らげた。


「大丈夫じゃないけど、大丈夫......急に頭痛がして」


 シズノはそっと背中をさすり「大丈夫よ、大丈夫」と俺に声をかけ続けてくれた。

 静かに背中をさすってくれたおかげなのか、痛みは次第に和らいでいった。


「もう大丈夫、イヤーびっくりした。こんな仕様聞いてないしさ」

「ユウも選ばれた感じですか?」

「ユウもって、シズもあの朱色の和弓が目の前にあったの?」

「えぇ、弓道も嗜んでおりますが、銃の話を聞くと弓よりも薙刀と思ったのですがね」


 苦笑いでそんなことをうちあけてくれた。


「お前ら何イチャイチャしてんだよ。見てくれよ俺のこの武器を!」


 カエデは手にした日本刀を俺とシズに見せてきた。

 その鞘から抜かれた刀身は深い藍色のダマスカス鋼の様な紋様があり非常美しく、怪しい青白い光を帯びていた。柄巻は金糸で巻かれており芸術品の様な業物に見えた。


「なんか妖刀みたいだな」

「それが良いんじゃねーか、見てるだけでうっとりする」


 自画自賛するカエデの後ろから、これまたうっとりしているツグミが大事そうに大きな戦斧を持って現れた。


「僕の斧も見てください。こんなに大きいのに思い通りに扱えるんです」


 ツグミの身長より大きい戦斧は漆黒でヘッド部分には古風な紋様あがり、グリップは深紅の革で飾られていた。


「へー、シズは薙刀止めて弓にしたんだ」

「えぇ、目の前にあったので」


 カエデとツグミは顔を見合わせ二人そろって「「武器に選ばれたの?」」とハモッてシズに聞いた。


「綺麗な色の弓だね、朱色に金の弦、装飾も日本と言うよりはなんかアイヌの紋様みたいだね、矢は無いの?」

「矢ですね、この弓を握ったときにイメージが流れてきました」


 シズノはツグミに告げると矢を番することなく弦を引いた。

 弦を引くと同時に周りの温度が下がったような感じがし、雪を纏うような矢がそこにあった。


「消耗品が無くていいなそれ!」


 カエデの感想は実に実用的だった。

 ツグミはとびっきりの笑顔になりぴょんぴょんはねた。


「私が選びたかったのですが、残念です」

「でもすごいよシズさん、すごくテンション上がるね、僕たちのパーティに武器に選ばれた人が要るなんて」


「で、ユウの武器は?」


 喜んでいるツグミとは対照的にカエデは俺の武器を聞いてきた。


「あぁ、俺はこれ」

「はぁっ、それ武器なの?」


 カエデの素直な感想であった。




    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る