第四話 ダンジョンハンター講習会 4

 一通り説明を終えたエレーナ教官は質問が無いかを受講者に聞いた。


 カエデが手を上げ「ちょっと良いですか?」と席を立った。


「えーと先生のレーザーブレードは完全にスターウォーズのライトセイバーに見えるんですが、今の地球の技術で製作可能なんですか?」


 受講者からクスクスと笑い声が聞こえてくるがエレーナ教官は聞こえていても無視してカエデの質問に答えた。


「私が使用しているレーザーブレードもW.A.R.Dと共に作り上げたようなものだ。私は熱狂的なスターウォーズファンでな納得の業物に仕上がったよ。今の地球の技術では不可能だったからな、君たちも不可能を可能にしろ!」


 東スラブ系の顔立ちをしたエレーナ教官は、少しだけ得意げに、しかしかわいらしく微笑んで次の質問を促した。


「ありがとうございます。もう一ついいですか?」

「あぁ、かまわんよ」

「ちょっと聞きずらい質問なんですが、ネズミにアキレス腱を切られた人、助けられましたよね?俺にはあえて助けなかったように見えたんで」

「よく見てるな、余裕で助けることは出来た。だたアイツがダンジョンハンターになったと過程するとなアイツの死亡率が上がるんだ。ピンチの時に誰かに助けてもらえると、どこかで思ってしまうもんなんだ」

「だからって自己責任のダンジョンですよね?」

「私はダンジョンの死亡率を下げたいんだよ。ダンジョン黎明期どれだけの中高生が無謀なダンジョンアタックをしたと思う?」


 カエデの言い間違いで緩んでいた講習室の空気が一気に重くなった。


「…なんとなくわかりました。ありがとうございます」と席に着いたカエデが「俺なんで笑われたの?」と真顔で俺に聞いてきた。

 少し悩んだが俺は素直に「お前、教官を先生呼びしてたぞ」と教えてやった。


「あちゃー先生をおかーさん呼びするようなもんだもな、俺は爆笑する自信がある」

「たまに間違えるよね」とツグミが同意して、カエデとツグミは二人の世界に旅立った。


 シズノは不思議な顔で辺りを観察して「なぜ皆さんはクスクス笑われているのですか?」と俺に真剣な眼差しで聞いてきた。

 えっ、今の会話は聞いてないの?と思いながらもカエデが教官を先生と呼んだ事を説明したがシズノは納得いかない表情で「それの何がおかしいのです?」と更に質問をしてきた。


「言い間違いを笑っているだけだから、何が可笑しいと言われてもそれは、その人の感性じゃない?自分のミスを思い出し笑いをしている人がほとんどじゃないかな?」


 適当な事を言ってその場を逃れようと思っていたが「……では、先生と呼んではいけないというルールが?」とシズノからの質問で深い思考へと旅立つことにした。


「シズちょっと待ってな、そんなルールは無いんだけど、これはかなり哲学的な考えが必要になる答えだと思うんだ。……正直、俺もよくわかってないけどさ」

「そんなに難しい事ですか?」


 少し考えてから俺は自分の感性を信じて話し始めた。


「シズはさ犬とかペット飼ってたことある?」

「はい、今はジャーマンシェパードと暮らしています」

「ボール遊びとかする?」

「はい、楽しいらしいですね彼らにとって」

「雨上がりの日とかさ、滑って転んだりしない?」

「濡れた芝生に足を滑らせ転ぶこともありますね」

「クスってならない?真剣な顔でボール咥えて走って来て滑って転ぶのみて、かわいいってなるよね」

「なりますね、自然にほころびますね」

「多分それと一緒だと思う、そんな感覚で皆クスっとなったんじゃないかな?」

「…なるほど、あなたの言葉、私、ちょっと好きかもしれません」


 シズノは一瞬だけ視線を外し、すぐにエレーナ教官の方へ顔を向けた。


「ではこれから簡単な実技訓練の講習を行う、パーティ単位で瞑想ルームに移動を、おっと失敬、正確には第三瞑想訓練室だ!場所は右に曲がって真っすぐ進んだ部屋だ」


 俺とカエデは顔を合わせて「なんで瞑想ルームなんだよ」って顔がにやけた。


「瞑想ルームでバーチャルリアリティーでモンスター退治の疑似体験をするんだって」

「ゲームじゃん!」


 ツグミの説明に速攻カエデが突っ込みを入れた。


「でも今の地球の技術でもコントローラーでの操作だろ、意味ないんじゃない?」


 俺もゲーム好きだからそこまでの技術はまだ開発されていない。はず?

 ツグミの説明は続く。


「いや、それがさ……コントローラーもVRゴーグルもいらないらしい。脳波とW.A.R.Dがリンクして、意識ごと同期するんだって」


 カエデが興奮気味に「W.A.R.Dってそんな機能もあるの?それってもう……完全にマトリックスの世界じゃね?」とツグミを小突いている。


「私はさっぱり理解できない言葉が飛び交っているんですが、どういうことですか?」

「シズはゲームしたことある、あとラノベとか読む?」

「私にはゲームやラノベ?に触れる機会はありませんでしたね」

「そっかぁ、ちょっと俺たちと住んでる世界が違いすぎて、これは説明より体験した方が速いと思う、百聞は一見に如かずってやつ」

「怖くは無いの?」

「モンスターと戦うから、たぶん多少は怖いと思うけどね」

「それなら大丈夫です、お化けはちょっと怖いですが、なんだか楽しみになってきました」


 やがてたどり着いた扉の上には、銀色のプレートで【第三瞑想訓練室】と刻まれていた。


「各パーティは近くに座るように、この椅子は簡単に移動できるので近くに移動させてもいいぞ」


 エレーナ教官は入室を終えた受講者に声をかけ着席を促した。


 その近未来的な椅子は真っ白な無機質の超高級なマッサージチェアーの様な仕様でかなりの座り心地の良さを感じさせた。

 それは俺のイメージする近未来のコックピットの様な仕様で、ちょっとワクワクしてきた。


「各自座ったらW.A.R.Dを椅子にひじ掛けに触れさせるように、振れていれば問題ない」


 良く分からないエレーナ教官の説明に素直にベルト部分をひじ掛けに置いた。

 W.A.R.Dから触手の様な物がマッサージチュアーに侵食しているように見える。

 それから自動的にマッサージチェアーはリクライニングしていき俺をリラックスさせ、次第に視界が白く溶け、音が遠のいた。

 俺は、自分の肉体が“どこか別の場所”へと転送されていく感覚を覚えた。





   

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