第二話 ダンジョンハンター講習会 2

「モンスターも確認できた。いいか、こいつらはお前らの命を必ず狙ってくる。例外は無い。それを肝に銘じておけ」


 エレーナ教官は受講者にそう告げ、足元に落ちている半透明の鉱石を持ち上げた。


「これがモンスターのだ。相場にもよるが、これで約五百円程度で買い取ってもらえる、Eランクまでは固定の買取になる。ダンジョンハンターの主な収益源になるから回収は忘れるな!極稀に肉や毛皮も手に入る。これは必ず持ち帰れ、ウサギの肉でもキロ10万ほどの価格だ。」


 辺りを見渡し警戒を怠らない教官はやはりプロと感じた。


「私がしんがりを務める、一本道だから帰りは分かるな。モンスターは湧かないと思うが居たら報告せよ。ではお前が先頭で速やかに移動を開始!」


「え!俺っすか?よっしゃ、ついて来いよお前ら!俺が一番乗りで出世してやっからよ!」


 金髪の如何にもヤンキー風の男が任命され、やる気満々で「俺についてこい」感を大いに出し移動を始めた。


 若干心配になる俺を他所に他の受講者たちは金髪の後について移動を始めた。

 カエデが「あいつ大丈夫か?フラグがビンビン立ってる気がするんだが」と俺に耳打ちしてきた。


 こいつのの良さは異常すぎるほど当たる。


「死ぬのか、あいつ?」

「そりゃー分からん。でも何かあるな、教官の近くに居ようぜ」

「了解、エレーナ教官美人だしいい匂いするし、お近づきになりたいような!」

「それは無理だな、人妻だ!」

「なんでわかるんだよ?」

「割ときっちりしている手袋?グローブしてるだろ、指輪が浮いて見えるんよ。俺の趣味知ってるだろ”人間観察“気にしてたら分かるもんよ」


 そういえばこんな奴だカエデは。だから感が良いのだろう。

 

 5分も歩かないでダンジョンの外に出れるはずだが「いたぞ!」と金髪君の叫び声が聞こえた。聞き取れるか取れないかの小さい声で「やめなよ」と注意する声も聞こえた。


 エレーナ教官は「全員待機!」と叫び疾風のごとく金髪君の元に向かった。


「な、でもエレーナ教官ヤバいな。あれ人間辞めてるぞ」カエデがボソッと呟いたのを俺は無言で頷いていた。


「ヒーハー!俺って持ってるね!!黙ってやられろよこのネズミ野郎」


 金髪君は自前のバタフライナイフを器用に扱い飛び掛かって来そうな大型ラットのモンスターにナイフを構えた。

 目と目が合う、金髪君は無造作にナイフを突き出した。タイミングも何もない、ただ不用意にナイフをラット目掛けて突き出したのだ。

 カピバラほどの大型ラットは突き出されたナイフを簡単に避けた。


「へ?」


 それほど早くもない大型ラット、しかしその瞬発力は先ほどのウサギのように鋭かった。


 アホみたいな声を出した金髪君のナイフは宙を刺し、大型ラットはすれ違いざまにアキレス腱を前歯で切っていた。


 何が起こったか分からない金髪君は、突然の激痛に「いでぇーーー」と涙目になり、その場にうずくまり足首を押さえた。

 素早く切り返したラットは金髪君の頸動脈を狙って突進したところで霧をなってその場から消えた。


 そこにはエレーナ教官のレーザーブレードのブォォーンと奏でる残音と淡く光る残像が残っていた。

 エレーナ教官を見ていた俺たちは、教官が敢えて金髪君を助けず、やられるのを見ていたよう見えた。


「あれ、やられるの見てたよな?」

「見てたな、あえて犠牲にしたって感じじゃないか?」

「生贄か......」

「かもな」


 俺の質問にカエデは淡々と返した。


「私の経歴にも傷がつくからこのような行為は避けるように!今のお前にはダンジョンハンターの資格は与えられん。ダンジョンから出たらそのまま病院に行け。かかった費用はこちらで面倒を見る」


 エレーナ教官はそう伝えると金髪君の腕からW.A.R.Dを取り外しおぶって「他の者はついてこい、しんがりはお前が務めろ。サポートはお前が担当しろ」と俺とカエデを任命した。


 イベントが起きてしまえば後は、普通の帰り道だった。

 何事もなくダンジョンを出て金髪君は救急車が来るまでの間、医療班の人たち応急処置をされた後にあーだこーだ怒られていた。


 金髪君以外の受講者たちはダンジョンの隣に建設されている受講館と名付けられている建物の講義室に集められた。


 エレーナ教官は再び列の前に立ち、冷ややかな視線を全員に投げかける。


「お前たちの中には、“一人で戦える”と勘違いしている者もいるようだが、それは幻想だ、いや、力を手に入れればそれも可能だが…」


 講習の緊張感がまだ尾を引いているのか、誰も声を出さない。


「ダンジョンにおいて、最も重要なのは生存して帰ることだ。だから私はパーティーを推奨する。一人より二人。二人より四人。統計的に見て、四人以上で行動するグループの生存率は、単独行動者の約五倍にまで跳ね上がる」


 ざわめく空気の中、カエデがぼそっと呟く。


「つまり……ボッチは死ぬってことだな」

「そうだ、一人でアタックして帰ってこれるのは、本当の実力者と運の良い奴だけだ!」


 エレーナ教官はあっさり肯定した。


「お前たちに求められるのは、力だけではない。“誰と組むべきか”を見極める眼と、“信頼を築く力”だ。パーティ編成は任意だが、私は強く推奨する。生きて帰りたいならな」


 そう言って、教官は手元のW.A.R.Dを操作し、各受講者に“パーティ編成申請”機能を開放した。


 俺のW.A.R.Dもピコンと音を立て、画面に「パーティ申請:受付中」の表示が現れる。


「今から数時間だか、お前たちはこの講習会で共に過ごす。誰と組むか、慎重に選べ。いや、自分の感性に従った方がいいか。無能と組めば足を引っ張られる。だが、お前自身が“無能”である場合……そのことを自覚するところから始めろ」


 言い捨てるようにそう言って、教官は一歩下がった。


 講習生たちは互いに視線を交わし始める。グループで来ている奴らが大半でそのままパーティを組んでいるようだ。


 その中で、俺は静かに隣にいるカエデを見る。


「なんとなく分かったな。金髪君がケガした理由」

「だな、この緊張感はなかなかだよな。明日は我が身よ」


 俺とカエデの考察はどうやら一緒のようだ。


「……で? どうする?」


 カエデは、ニヤリと笑った。


「決まってんだろ? 俺とお前は最強の“腐れ縁コンビ”ってことで、まずは組もうぜ」




   

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