第13話 攻撃魔法
ネヴィル皇子の元に討伐要請が次々と来ていた。
ハイノバ地方の討伐から帰ってきてからというもの、そこ以外のところからも討伐要請が届いている。
ウォルターがこんなことはあり得ないと言っていたがこのままには出来ないとネヴィル皇子とエルドは討伐に出ていった。
私はというとハミルトンと攻撃魔法の練習の為、地方に出ていた。
「今日行くところは比較的弱い魔物が出るところです。今まで練習した通りにすれば大丈夫ですから」
「分かりました」
ここ数日、この場所に来るための練習をしてきた。弱い魔物とはいえ魔物には違いない。その為攻撃魔法の特訓だ。
今日の任務は必ず成功させなければいけないと思うと力が入る。
馬車から見える景色はだんだん民家がなくなり木々に覆われた森の中に入っていき、馬車が止まる。
木々が多い茂り陽の光があまり差し込まない場所なのか、地面も空気も湿気を帯びている。
「ここで合っていますか?」
リコは周囲を見渡す。
「合っていると思います。このまま行きましょう」
ハミルトンと連れてきた騎士数人で森の中に入った。
私とハミルトンを囲むように騎士たちが周囲を警戒しながら歩いていくが、陽射しが全くない森の中を騎士が持つ松明だけで進むのは限界があった。
「ハミルトン殿。これ以上危険です」
「もう少し進めませんか?」
奥に何かあるのは分かっているが、流石にこれ以上は危険だと判断された。
引き返そうとしたとき、奥から蠢くものが見えた。
「魔物だ、走れ!」
ハミルトンの声で一斉に走り出した。
それでも何かが襲い掛かってくる気配を感じて振り返ると騎士たちは剣でハミルトンは魔法で魔物を撃退している。
リコもハミルトンに教わった氷を短剣のように作り魔物めがけて飛ばす。それと同時に水を魔物にかけて凍らすこともして、何とか魔物を足止めしながら森の入口まで走って戻った。
「ハミルトン殿。あれは本当に魔物でしょうか?」
「私も初めて見るものでした」
一緒に戻った騎士たちから疑問の声が上がる。ハミルトンも何か思うところがあるようで考え込んでしまった。
「とりあえず、今日は戻りましょう」
このままでは誰かが怪我をすることになるとハミルトンが判断して一旦戻ることになった。
騎士たちは何度も討伐に参加している経験者たちを連れてきた。その騎士が魔物ではないと言っていることから別のことが考えられる。
リコとハミルトンは馬車に乗り込み王宮に戻った。
「リコ。あれは……」
「ハミルトン様はあれをどう見ましたか?」
「あの時、一緒魔物のような気配がしたのでそう叫んだが、思い返すと違うような気がした」
「そうですよね。私は魔物を見たことがありませんが、あれは違うと思います」
あの時感じたのは怨念のようなどす黒い感情を感じた。
魔物に感情があるのかと疑問を抱いた。
騎士たちの言葉を借りるのなら、あれは本当に魔物なのか?
「思っていたのと違うのかもしれません。もう少し調べたいので時間をください」
「私も手伝います」
「まず、図書館にある魔法や病に関する記述が載っている本をすべて調べましょう」
二人で王宮の図書館に向かい、しらみつぶしに本を読み漁った。
「ないですね」
テーブルに積み上げられた本を見て呟く。
既に五日、ハミルトンと一緒に本を読んでいたがあの森で見た内容の記述が見当たらなかった。
「私は、魔導士団の図書室に行ってみます」
「わかりました。私はもう少しここの本を調べてみます」
ハミルトンを見送った後、テーブルの上の本を片付けてまだ読んでいない本を数冊借りて図書館を出た。
魔導士団の建物の片隅にあった木箱を椅子代わりにして持ってきた本を読み始める。
あの正体が分からないことには王の病を治せないはずだが黒魔術だと言うことは突き止めたがその先が分からない。借りてきた本を貪るように読んでいると足音が聞こえてきた。
「ポーションは作らないのか?」
ネヴィル皇子だった。討伐の帰りなのか騎士の服を着ていて剣も腰に下げていた。王妃から話を聞いたのか前より棘はない。
「ポーションは足りませんか?」
「そういうわけではないが。前は楽しそうにポーション作りをしていたからもう止めたのかと思った」
いつの間に見ていたのか。やはり疑われていたのか。今度から気を付けないといけない。折角態度が軟化しているのに、これ以上刺激を与える訳にはいかない。それに、私が召喚されて者だと知ったときどんな態度にでるかも定かでない。
「今は、調べ物があるのでポーションは夜作っています。足りなければ仰ってください。必要な分を作るようにします」
リコは事務的に言うがネヴィル皇子は気を悪くした様子もなく 傍にあった木箱を持ってきてリコの前に座った。
「先日、ハミルトン達が漆黒の森に居たとアランが騒いでいた。何をしていた?」
射るような目つきに変わった。まだ疑っているのか。エルドがまだ言わないほうがいいと言っていたのを理解出来た。この疑いを取り除かなければ私が召喚された者だと話せない。
「攻撃魔法の実践訓練に行っていました。ここでの訓練だけではダメだとウォルター様とハミルトン様から言われて」
表向きの理由だ。これをどこまで信じるかは分からないが、本当のことをまだ言うわけにはいかない。
「実践訓練にしては少し強すぎるのではないのか。そなたは知らないかもしれないが、漆黒の森は中級以上の魔物が出る」
「えっ?」
ハミルトンは弱い魔物だと言わなかったか?
騙された? どちらに?
「やはり知らなかったようだな。魔力のコントロールが出来ないと言っていたが本当か?」
「素早く動くものでない限り、当てることは出来るようになりました」
「そうか、ならいいが。ところで何を調べているのだ」
「魔物の気配みたいなものです」
「気配? また妙なことを言うな」
なにか知っているかもしれないと言ってみたが無駄だったようだ。
俯いて地面をじっと見ている。リコは手元の本を読み始めた。
「何かいるって感じだ。例えば魔物が近づいてくると空気が変わるような感じがする。それは人が近づいてきた時と少し違う」
考えてくれていたのか。ネヴィル皇子はリコの目を見ていた。答えが来るとは思っていなかったので次の言葉を探す。
「その空気の変化に感情みたいなのは感じますか?」
「感情はないな。あるとしたら……闘争心みたいなものだな」
闘争心か……。
あの時感じたのは負の感情だ。それも底なし沼のような黒い感情。闘争心なら燃えるような赤や炎のはずではないか?
分からない。
「それもウォルターやハミルトンから言われたことか?」
「魔物を見たことがないので、どうやって魔物がいると分かるのか知りたかったのです」
「漆黒の森で魔物に出会わなかったのか?」
「出会う前に戻りました」
魔物には会っていない。それ以外のものには出会ったが。ネヴィル皇子は余程面白かったのか大笑いしている。
「実践訓練に出かけて何もしないで帰ってきたのか」
「可笑しいですか?」
ちょっとムッとした。そこまで笑わなくてもいいのに。
ネヴィル皇子は立ち上がって木箱を元の場所に戻した。
「漆黒の森は行かないほうがいい」
「私のレベルに合わないからですか?」
「そうじゃない。最近、あの森の付近で魔物が多く出ているから危険だ。近づかないほうがいい」
ネヴィル皇子は後姿でそれだけを言うと帰っていった。
魔物が多く出る。その魔物は本当に魔物だろうか。益々疑問が大きくなってきて、読みかけの本を抱えて今度は部屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます