第8話 わがまま姫とポンコツ魔導士 後編
ゾフィーは監禁という処分になった。レイモンとウォルターの意見にこの国の大臣たちは反対することはなかった。
レイモンにそれだけの力があるのかと驚いたが、ゾフィーとローサンには前科があったので今回のことも大臣たちは呆れるばかりで処罰に反対する者もいなかった。
前回も謹慎処分になっていたのにまた繰り返したのは特別な理由があるからだろうけど、ローサンを死の淵に追いやってもまた繰り返すくらいの理由とは何だろう。その張本人のゾフィーは未だ黙秘を続けている。
そしてネヴィル皇子は一度帰ってきたが、ゾフィーたちの監禁を聞いてすぐにまた討伐に出かけるようでゾフィーに無関心のようにも感じた。
そのネヴィル皇子を一目見ようとポーションを倉庫に運ぶふりをして見に行ったが会えなかった。
ネヴィル皇子は皇太子になるつもりはないのだろうかと気になる。確かレイモンと気まずさから関りを持たないようにしていると聞いている。だからこんなに頻繁に討伐に出かけているのか。
今回の討伐は魔導士たちも同行すると言うことで、かなりのポーションを持っていったため、倉庫にあった在庫はほぼなくなってしまい、残っている魔導士たちが総動員してポーション作りをしている。
「クロード、討伐ってこんなに毎回行かなければいけないの?」
「詳しいことは分からないけど、別の理由があるみたいだよ」
「別の理由って?」
「今回、同行した魔導士たちは攻撃魔法より防御魔法の方が得意だよ」
「討伐じゃない?」
「おそらく」
(討伐じゃないのなら何をするために出かけているのだろう?)
私は出来上がったポーションを瓶詰する。この間のように分量を間違えないように注意しながら。
「団長を探せ!」
「なにがあったのですか?」
ポーション作りをしていると騎士二人がやってきて団長を探していた。ちょうど部屋に来ていた副団長のハミルトンが騎士を呼び止めていた。
「ローサンが目を覚ましました」
「分かった、レイモン皇子は?」
「既にローサンの元へ向かっています」
ハミルトンは騎士たちを連れて慌ただしく団長の執務室へ行く。
「目を覚ましたようですね」
「なにをしようとしたかこれではっきりするね」
クロードの言葉の意味はローサンの処罰が決まると言うことだ。彼は一体何をしようとしたのかすごく気になる。それにしても意識が戻ってよかったのかどうかこの後の処罰のことを考えるとよくわからなかった。
周囲にいた魔導士たちにも少しばかりの動揺が見られる。ローサンが何をしようとしていたのか興味と不安が入り混じっていた。
「もしも、魔導士団に不利な証言が出てきたらどうなるの?」
「おそらく、それはない」
クロードがないと言うのは前回と同じことだと考えているのだろう。
確か、前回は兄であるアランを皇太子にしようと画策していたと言っていた。今回も同じならレイモン皇子はどうするのか。周囲のざわつきが収まらないままその日のポーション作りは終わった。
翌日、騒ぎはもっと大きくなっていた。
ローサンの証言によると、ゾフィーから頼まれたのは王の病を治す薬だった。
王はほとんど寝たきりになっているとレイモンが言っていた。意識はかろうじてあるが、時々朦朧として変なことを口走ることもあると。
その王の病を治せば、それこそ王からの褒美が出るだろう。ゾフィーはその褒美に兄のアランを皇太子と考えていたようだ。
側室は宮に軟禁状態なのだから、ゾフィーは自分たちの立場を何とかしたいと考えてもおかしくない。
「王のためを思っての行動なら、あまり罪は重くできないのか……」
「魔導士たちの騒ぎが大きいのはそこが問題だよな」
独り言のつもりがかなり大きな声で言っていたみたいだ。クロードはあまり気にしていないようで同じように会話を続ける。
「団長は?」
「朝から、会議に参加している。ローサン様の証言をもとに処罰を如何するのか決めないといけないから」
ローサンは意識を取り戻したが、魔力は以前のままとはいかなかったようで、かなり減少していることが分かった。次に大きな魔法を使えば今度こそローサンは死を免れないだろうという結果になった。
どうして自分の命を削ってまでゾフィーの力になりたいと考えたのか聞いてみたくなった。それにしても、王の薬を出そうとしてなにか出てきたのかな。
レイモンは何も言っていなかったが……、本当に王の病を治す薬だろうか。もしかして皇子二人を毒殺するものだったりして。
急に寒気がしてきた。
(こわっ!)
私は頭に浮かんだのを振り払うかのように、ポーション作りに集中した。
その日の夜、リコは王妃様に呼ばれて夕食を一緒に摂った。
「魔導士団に入ってからなかなか会いに来てくれないから呼んだのよ」
王妃様はローサンが目覚めて、騒ぎになっていることをリコが気にしているだろうと呼んでくれた。レイモンから昨日のうちに報告があったようだ。
「あの二人は王の病を治す手柄をアランに立てさせて皇太子にすることを画策していたようね」
「王はそんなに悪いのですか?」
「何の病か分からないの。その為、薬の処方が出来なくて治療魔法を使える者が王の苦痛を和らげることしかできていないわ」
最初、王の病の症状を聞いて老いたための症状だと思っていたが、王はまだ四十代で老いるには早い。
王宮の医師たちも色々な文献を探しても、王の症状に一致する病名が出てこなかったようだ。その病を治したとなればそれこそ周囲からの称賛はゾフィーに降り注ぐ。それを狙ってのことだ。
「ゾフィー様たちは王の病を治す薬を魔法で出そうとしたようですが出たのですか?」
「出ていないそうよ。ウォルターもレイモンもあの教会に行ったけど、そんなものはなかったと言っていたから」
「私はその教会にいたのですよね」
「そう聞いているわね」
「その薬が私ということではないですか?」
「えっ?」
王妃の目が彷徨っている。レイモンからそんな話を聞いているのか、それとも本当にそんなこと考えてもいないのか。
今日、薬と聞いて自分が呼ばれた理由を考えてみた。
「ローサン様が私を召喚したのではないのですか?」
「リコ、落ち着いて聞いて。ウォルターとレイモン、そしてネヴィルもローサンが人を召喚出来るだけの能力はないと言っているわ」
「ですが、現実に私はここにいます。ウォルター様やネヴィル皇子も私が召喚された者とは知らないのですよね。それなら信じないかもしれないだけではないのですか」
「あの二人にはいずれ話さなければいけなと思っているけど、ローサンには無理よ」
私は一体だれが何の目的で呼ばれたのか。やはり分からないまま。
元の世界に帰れないと聞かされた時はショックだったが、その気持ちも薄れていた。だけど、どうして呼ばれたのかだけはやはり知りたかった。
ローサンは結局、魔導士団を辞めることになった。
魔導士団の団員に簡単に挨拶をすると荷物を纏めた。部屋の窓からローサンを見ていたが、こちらを振り向くことすらなくその日の内に王宮を出ていった。
ローサンは子爵家の三男で魔法が使えるからとゾフィーに気に入られ、婚約をして魔導士団にも入ることが出来た。だけど、魔導士団を辞めて子爵家に戻ったら、跡継ぎである長男の意向にそった生活が待っているとクロードが言っていた。
意向という表現は表向きだが、本当は侍従か下僕のようなものだと教えられた。
王の薬をと言われて禁忌である教会に立ち入り、失敗して魔力もほとんどなくなってしまった者の末路だ。この国も存外、生きづらい世界なのかもしれない。
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