第2話

近くには山が見える少し田舎の道を15分歩き、バスに乗って更に15分程揺られると俺の通う学校が見えてくる

バスを降りたらスーッと気配を隠しながら歩き、自身の教室まで何事も起きないようにササッと辿り着きシュッと自身の席に座る


世間一般的には所謂デブと判断されるであろう俺の体なので、気配は全然消せてないし、ノシノシ歩いてドカっと席に座っているのだが、そこはあまり気にしないでもらいたい


「おはよーノブ。例のやつはどうだ?もうクリアしたのか?」

「おはよう、ヒロ。まさか!まだ20時間もプレイしてないんだぜ?やっと装備を整えて二つ目の街に着いた所だよ」

席に着くなり声を掛けてきたのは、同じクラスのゲーム友達である牧島弘道(まきしまひろみち)

彼は俺よりもゲームに詳しく、得意なジャンルは俺の苦手とする恋愛ゲーム

曰く、恋愛ゲームを制するものは現実すらも制するらしい

未だ彼女が出来たことの無い彼を見れば、その実力が発揮されたことはまだ無いように思える


「いや、土日だけで20時間てどんだけやってんだよ?よく集中力が持つよな?てか相変わらずのスロープレイだな?慎重過ぎるだろ。今何レベよ?」

「俺は石橋を叩いて渡る派なんだよ。何事も全て準備を整えないと気が済まないんだ。寝る前にちょうど30になったとこ」

「かー!お前アホだろ?二つ目の街までの適正レベル10だぞ?どんだけレベル上げりゃ気が済むんだよ」

「分かってないなぁヒロは。もしかしたら途中で強敵とエンカウントするかも知れないだろ?」

ヒロはこうしてゲームの話しが出来る数少ない俺の学友だ。大抵は毎日朝のHRが始まるまで喋っている


「最序盤でそれはねーよ!あっても負けイベだっての。そもそもあのゲームは………」

「おい止めろ!俺は続きを知ってしまうと途端にやる気が無くなるんだ」

「んぐ…!……そうだった。お前はそうだった……だけど早くその後の展開を共有したいのにお前のそのスロープレイを待ってたら………あぁー、ムズムズするぅー!」

「はっはっは。特に欲しいゲームも今月は無いからな。来月まで保たせるつもりだ」


まるで欲しい物が買えない子供のようにその場でジタバタするヒロに、俺はふと気になったワードを出してみた

「そう言えば来月発売の[チェンジボディーワールド]って知ってるか?」

「ん?なんだそれ?」

「いやスマホにメールが来てな。新感覚アクションアドベンチャーとか謳ってるもんだから不思議と気になってな」

「へぇ〜……あぁ、これか。え〜っと

【退屈な世界(リアル)をぶっ飛ばせ!新感覚アクションアドベンチャーゲーム

[チェンジボディーワールド]

今からでも遅くない!世界が君を待っている】ってやつか?」


「そうそれ。なんだよヒロも知らなかったのかよー」

「生憎俺は店舗に直接行ってから選ぶたちでな。最新を常に網羅してる訳じゃないんだよ………ってあれ?そう言うって事は、お前このゲームやる気なんだよな?」

「ん?一応今の所はそのつもりだな。バイトの給料日に近いし、好きなジャンルでもあるし」

「なら来週の講習会ってのに行くのか?」

「…………………講習会……?」

「いやここに書いて…………」


「おはようさん!皆席に着けー。朝のHR始めるぞー」

ガラガラっと扉を開いて入ってきた先生の声で俺たちの会話は強制的に終了する

慌てて席に戻るヒロを尻目に俺は頭の中で反芻する。何故か出てきた謎のワードを

講習会?何故にゲームをするのに講習会が必要なのか?

「最近他校の奴等がわざわざこの街まで来てトラブルを起こしてるらしい。こちらでも注意するが面倒事はなるべく起こしてくれるなよー?お前達も大事な時期だからな。それから………」


正直先生の話す内容は全く頭に入ってこず、俺はゲームをするに至って聞き慣れない言葉の意味を理解しようと頭をフル回転させていた

結果。とりあえず休憩時間になったらヒロにもう一度問いただそうと言うことで落ち着いた

俺は校則を守って、スマホは学校には持ってきていないのだ




数日後。折角の休日の日に、俺はわざわざ電車を乗り継いで、県で一番の都会である街の一つのビルの前へとやってきた

少し周りを見渡せばちょっとした人の列が並んでいて、看板には[CBW講習会]の文字

ゲーム新規メーカーからの、新タイトル参戦なのにもう通称的な呼び名があるのかと少し驚きつつも、皆の例に習い俺も列に加わり大人しく講習会開始を待つ


「君も参加者かい?」

そう言って話し掛けて来たのは、一つ前に並んでいた大人の男性

見かけだけでは、一瞬そのスジの方なのかと思ってしまったが、その顔に似合わない声と優しい口調で、俺はなんとか平静を保つことに成功した

そもそも並んでいるのだから参加者に決まっているだろうと思う事はきっと不粋な事なんだろう


「……そうですよ。はじめまして、神鷹と言います」

「やっぱりそうかぁ。僕は熊田(くまだ)って言うんだ、急に話し掛けてごめんね?」

「いえ、特に謝る事でもないかと思いますが……」

「いやぁ、皆なんだか話しかけづらくてね〜。僕みたいなにわかゲーマーには敷居が高いと言うかね?」

そう話す熊田さんは、その巨体と顔、そして声と口調が完全にミスマッチしている。言われてみれば確かに熊田さんだけは来る場所を間違えているように思えるほど、熊田さんの肉体はまさにアスリートのそれだ

身長も高い上にこの肉体なのだから、普段は何かスポーツとかをしているのかも知れない

それがそのスジの仕事とかではない事を祈るばかりだ


「……だとしたらなんでおれ………僕に?」

こう言ってはなんだが、俺も熊田さん以外の人達とほぼ一緒の見た目だ。普段運動なんてしてなくて家でゲームばかりしている。今この場にいる大半の人達の体は皆一様だ

中には細い人も居るけれど、そこは反対に細過ぎたりしている

そんな環境もあってか、先程からこちらをチラチラと心配そうに、それでいて自身には関係ありませんようにとの想いがヒシヒシと伝わっている


「ははは、普段通りの言葉でいいよ。多分年も近いだろうからね。何ていうか…雰囲気が僕に近い物があったからね。今何年生だい?」

空気を和ます為の冗談も言えるなんて、この人は俺と違ってコミュ力も高いんだろうな。なんて思いつつ俺は笑いながら答える

「17歳の高校2年生ですよ」

「あぁ、だったらやっぱり同い年じゃないか。僕も17歳の高校2年生だよ」


一瞬、時が止まったかの衝撃を受けて、自分の耳に疑いをかけたが、前に並ぶ人達のブフッという吹き出し音を聞いて、やっぱり今のは聞き間違いじゃないと言うことが確認できてしまった





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