278.魔族がいても居なくても
「静かな森……魔物も東の大陸に比べたら少ない気がするわ」
『こっちには魔族が居ないから、魔物たちも興奮状態になっていないからだろうね』
出発してからすぐに森の中へと入っていた。
軟禁されていたあの塔から見えていた景色そのままなので、そこは驚かない。
だけど魔物が本当に
「本当に迷惑なんですから……」
『まあ、それは滅びた国の王様に言うんだね。魔王を呼んだのはあくまでも人間だということを忘れるなよ?』
「それは……」
確かにそうだと私は口を閉じる。
しかし同時に一つの疑問が浮かび、小声でアヤネへ尋ねてみることにした。
「あの召喚そのものがあなたの仕組んだ計画の一つ、という仮定が頭に浮かびました。その点については?」
『と、言われても答えはノーだ。召喚された瞬間、私は初めてこの世界へリンクしたからね? まあ言っても構わないことだけど、世界を渡り歩くのは結構難しい。例えばリクの話から日本へ行くことは可能だけど、知らない世界へピンポイントへ行くのはほぼ不可能なのさ』
「割とべらべら喋ってる……!?」
本人からすると大した情報ではないみたい。
嘘か本当か確かめるすべはないけれど、これは嘘では無さそうな気がする。リクさんが居た異世界から魔王さんがこの世界へ召喚された。その経路を辿ってここへ来たという形らしい。
『世界の狭間を揺蕩い、強い願いを聞き、叶えるために動く。ただ、それだけの存在が私だ。ほら、無害。……いたっ!?』
「人がいっぱい死んでいるんですよ! 不謹慎な!」
『フフ、確かにその通りだね』
なにが楽しいのか、アヤネは私が頭を叩いたことを抗議せずほほ笑んでいた。それともう一つ。気になることができた。
「……願いの大小はどうやって決めているんですか? もし、今より……フェリスよりも強い願いが出てきた場合、今の行動を止めたりする、とか?」
『……面白い質問だ、水樹。それは――』
「それは……?」
『その時にならないと分からないねえ』
思わせぶりな態度だったけど、答えを得られず私はずっこけてしまった。
長いこと生きて……いえ、存在しているはずだからそういうこともありそうなものだけど、どうなのかしら……?
『……』
彼女を横顔を見ても特に変わりはない。いえ、むしろ少し嬉しそうに見えるのは気のせいかしら?
それからしばらく沈黙が訪れる。
最初の町まであとどれくらいか考えていると、ふいにアヤネが口を開く。
『結局のところ、東の大陸は魔族という同一の敵がいたから結束が出来ていたという点は重要だ』
「……?」
『魔族がこちら側に来なかったとしても、いずれ戦いは起こっていただろうという推測が立つ。ヴァッフェ帝国しかり、召喚したフェイブラス国も他国を攻撃するために魔王を使おうとしたんだし』
「……」
なにが言いたいのか分からず、話だけ聞く態勢を取る。
アヤネはそんな私に目を向けてからフッと笑みを浮かべた。そのまま続けて話を続ける。
『たまたま魔族が居たから結束しただけで、人間同士でも争いは簡単に起こる。エルフみたいな他種族を盾にしても生き残ろうとする……君たちの世界でも良く聞く話だ』
「そうですね。世界の本質は強者が弱者を支配することで回っているという歴史もありますし」
『言葉を使って意思の疎通が出来るのに、愚かだよねえ』
「……」
アヤネはくっくと笑ってそう締めた。
あまりいい気分ではないけれど、実家で私自身の境遇がそんな感じだ。言葉があっても意味がないこともある。
「だから、妙な願いでも叶えようとすると? 良いことでも悪いことでも、想いが強い願いを叶えようとするのはそのため?」
『さて、どうかな。おや、町が見えて来たよ。暇つぶしにはなったかな?』
「……」
どこまで本気なのか分からない……
だけど、なにかが引っかかる言い方だとそう感じる内容の会話だった。
今、この瞬間、フェリスの願いを叶えているとは到底思えないからだろうか? 私を含めて勇者という存在は彼女にとって邪魔なはず。ここで始末しておかないのはなにか理由があるからなのか?
考える時間があるのはありがたいけど……リクさんと相談がしたい内容だった。
「ミズキ、町に着いたら休むぞ。このまま一泊して、明け方に出れば大精霊様の祭壇がある洞窟へ着く」
「はい。そういえば魔物に会いませんでしたね」
町の近くへやってくるとラド王子が近づいて来た。ひとまずアヤネとの会話は止めて、彼との会話を優先する。
元々取り決めていたことの確認なので、私は問題ないと頷いた。
そこでふと、ここまでの道中で魔物と遭遇しないのが珍しいなと口にした。
「ん? 我が国はだいたいこんなものだぞ。冒険者にはしっかり活動するように伝えてあるし、騎士も警らに出している。東の国はそうでもないのか?」
「地域によりますけど、街道でもそれなりに襲撃されることはありましたね」
「ふん、緩い警備ということか。そんなことだから魔族にやられるのかもしれんな」
「む」
ラド王子は私の話を聞いて自分の国はきちんとやっていることを話していた。ただ、その後で東の国のことを貶すようなことを口にしたので私はむっとなる。
「魔族は強力なんですよ? 戦っても居ない人がよくそんなことを言えますね。一度戦ったら、魔物の対処をするのが遅れるのは仕方ないと思いますけどね」
「むう……」
『さっきそういう話をしていましたけど、東の国にいる魔族は各国が協力してことにあたっても倒しきれないみたいです。一国は滅ぼされているとのことなので、平和ボケしたこの国では無理でしょうね』
「メイドのクセに言ってくれるな? まあいい、どうせ向こうに行くことなどないだろうからな。こっちはこっちの問題だけ片づければいい」
「そうですね。さっさと終わらせて向こうへ帰らないと」
「ぐぬ……」
私もふんと鼻を鳴らしてそっぽを向き、早くここから去りたいとハッキリ言ってあげた。
歯噛みをしていたラド王子は何も言わずに馬車を町へと進ませる。
『いい気味って感じだねえ』
「ホントそうですよ。とりあえず明日が本番ね」
ラド王子に嫌われたところで痛くもかゆくもない。どちらかと言えば陛下の方が気になるかな?
なんとなくお互いすれ違っている……そんな気がする。
私が口を出すことじゃないけど、探りを入れてもいいかもしれないかな? なにか情報が入るかもしれないし。
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